hearthのお気楽洋書ブログ

洋書読みの洋書知らず。永遠の初心者。 まったりとkindleで多読記録を更新中 (ツイッターは、hearth@洋書&映画)

The Spy Who Came in from the Cold (John le Carre) - 「寒い国から帰ってきたスパイ」- 116冊目

ジャンル: 小説(推理)
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★★☆

ル・カレの回想録(「地下道の鳩」)が近々出版されるそうですね。 それにちなんで今日はこの一冊。 随分前に一度、邦訳で読んだのですが、ほとんどストーリーを覚えていなかったので新鮮な気持ちで再読。 英文は簡潔なハードボイルド風で読みやすいと感じました。 そして、切なさが惻々と込み上げてくる。 そんな読後感でした。(1963年発刊)

中年男のリーマスは冷戦下のベルリンで東側のスパイを束ねるイギリス側諜報部の責任者。 東ドイツ防諜機関の大物であるムントに次々と配下のスパイたちを暴かれ処分されてしまった。 手詰まりとなったリーマスは本国に召還され、諜報部(Circus)内の閑職に回されてしまう。 酒浸りで金も無くなり乱れた生活を続ける彼は、ある若い女性図書館員のリズと出会う…

ベルリンの壁で分断されていた東西冷戦下の旧ドイツを舞台にした両陣営のスパイたちによる心理戦。 派手なアクションはほとんど無く、タキシードと美女の007シリーズの印象が強いスパイ小説の世界に新たな観点を持ち込みました。 ジョージ・スマイリーを中心としたル・カレの一連のスパイ小説は、悲哀と絶望をリアルに描かれていると、発刊当時も絶賛されたそうです。 一人の公務員としてのリアルな諜報員の内実が描かれており、作者が英国諜報機関(MI5とMI6)出身だという事も納得の臨場感溢れる小説です。( そう言えば、007の著者イアン・フレミングもMI5出身でしたね)


メモポイント(一部ネタバレ注意)

● 図書館でリズ・ゴールドと交わすちょっとした会話が映画のシーンのようでよい。

About three weeks after Leamas began work at the library Liz asked him to supper. She pretended it was an idea that had come to her quite suddenly, at five o’clock that evening; she seemed to realise that if she were to ask him for tomorrow or the next day he would forget or just not come, so she asked him at five o’clock. Leamas seemed reluctant to accept, but in the end he did.
(中略)
And then he smiled, a roguish smile. He hadn’t smiled like that before and Liz knew he was putting on the charm.

● 最初は読み辛かったがリズが絡みだしてからがぜん面白くなり始めた。 詳しくは書けないが、裁判のシーンで彼女が状況が分からない中で愛する人をなんとか助けようと必死で心理戦を耐える姿が健気で愛おしい。

Liz hated having her back to the court; she wished she could turn and see Leamas, see his face perhaps; read in it some guidance, some sign telling her how to answer. She was becoming frightened for herself;
(中略)
“How kind. It must have cost you a lot of money,” Karden observed sympathetically: “could you afford to keep him?”
“I didn’t keep him. I got it from Alec. He . . .”
“Oh,” said Karden sharply, “so he did have some money?”
Oh God, thought Liz, oh God, oh dear God, what have I said?

● 国家権力という体制にどうしようも抗えなく飲み込まれて行くリーマスとリズの姿が、オーウェル1984」のスミスとジュリアとに重なって見えてしまう。


これはかなりのハラハラ徹夜本。後半からの怒涛のような展開にキンドル持つ手が離せません。 そして読後感はズッシリと来ます。 少し落ち込みます。

The Spy Who Came in from the Cold: A George Smiley Novel (George Smiley Novels)

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