hearthのお気楽洋書ブログ

洋書読みの洋書知らず。永遠の初心者。 まったりとkindleで多読記録を更新中 (ツイッターは、hearth@洋書&映画)

Lolita (Vladimir Nabokov) - 「ロリータ」- 167冊目

小説: 小説 (モダンクラシック)
英語難易度: ★★★
オススメ度: ★★★☆☆

ロリコンの語源にもなったこの小説、もっとエロティックな内容かと思っていました。 ですがさにあらず、かなり淡々としています。 そしてまあなんとも後味の悪い話。 (1955年発刊)

小児性愛ハンバート・ハンバートの独白録といった体裁のこの小説。 オープニングの有名かつ粘着質な一節がこれ。

"Lolita, light of my life, fire of my loins. My sin, my soul. Lo-lee-ta: the tip of the tongue taking a trip of three steps down the palate to tap, at three, on the teeth. Lo. Lee. Ta."

少女ロリータの名前をネットリと口の中で転がし味わう感じ。 「ロ、リー、タッ」だって。 切って言いなさんな!

ハンバートの行動は、自分をどのように満足させるか、という考えに基づいていました。そこには本来なら愛の対象となるべきはずのロリータ自身の視点が存在しません。 読者の中には生理的にムリと感じる方も多いと思います。 ところが、不思議なことに読み始めはどうも嫌悪感が先立っていましたが、後半まで読み進めるうちにここまで嫌われるハンバートのことがだんだん憐れに思えて来るようになりました。 (ジェフ・ゴールドブラムの「フライ」みたいな感じです。)


● あらすじを少し。(かなりネタバレです)

幼い頃に知り合った少女アナベルと主人公の少年ハンバート・ハンバート。 彼はセックスを致す寸前までの関係になったアナベルを病気で亡くします。 アナベルを忘れられないハンバートは彼女の死がトラウマになり、それ以来、少女のみを性愛の対象とするようになってしまいました。
ちなみに、ハンバートは小悪魔的妖精ニンフェットを次のように定義しています。

Now I wish to introduce the following idea. Between the age limits of nine and fourteen there occur maidens who, to certain bewitched travelers, twice or many times older than they, reveal their true nature which is not human, but nymphic (that is, demoniac); and these chosen creatures I propose to designate as “nymphets.”

ハンバートは成人したのちに、ある日出逢った12歳の女の子ロリータにアナベルの面影を見いだし衝撃を受けます。 目ん玉を舐めさせるとは… この年齢にしてなんと官能的!

“It’s right there,” she said, “I can feel it.”
“Swiss peasant would use the tip of her tongue.”
“Lick it out?”
“Yeth. Shly try?”
Sure,” she said.
Gently I pressed my quivering sting along her rolling salty eyeball. “Goody-goody,” she said nictating. “It is gone” “Now the other?” “You dope,” she began, “there is noth—” but here she noticed the pucker of my approaching lips. “Okay,” she said co-operatively, and bending toward her warm upturned russet face somber Humbert pressed his mouth to her fluttering eyelid. She laughed, and brushed past me out of the room. My heart seemed everywhere at once. Never in my life—not even when fondling my child-love in France—never—

ロリータを我が物にすべく、母親である未亡人シャルロッテに近づき再婚までしてしまうハンバート。 この未亡人はハンバート(結構ハンサムで洗練された紳士風)に惚れてぞっこんまいってしまいました。 だからこそ、ハンバートの日記を盗み見てダシに使われていただけでもう用済みとなった自分の役割を知った時の、彼女のショックは凄まじいものでした。 そして、事実を娘に知らせようと家を飛び出した彼女は不幸にも自動車事故にあい亡くなってしまいます。 これでハンバートは名実ともにロリータを手に入れることになりました。

彼は義理の娘ロリータと二人きりで、アメリカ国内の名所を車で巡る旅に出ます。場末のモーテルに泊るなど、ロードムービーのような展開に。 (本作、読む前はもっと貴族趣味のゴテゴテした話かと想像していましたが、こんなにも詳細にアメリカ各地について記述があるとは予想外でした。) 母を亡くしてハンバートに依存せざるを得ないロリータは、彼女の「身体」をエサにハンバートを操りつつ、この異常で爛れた関係を断ち切るべく、ハンバートから逃げ出す機会をうかがいます。 そしてある日、他の男の手引きにより忽然と姿を消します。

そして三年後。 ロリータを探し続けていたハンバートはやっとロリータと再会します。 彼女は妊娠しており金に困窮して義理の父に助けを求めたのでした。 ロリータはすでにかつての小悪魔のような妖精ではありませんでした。 ハンバートが目にしたのは、戦争負傷者の夫を持ち、生活にくたびれ、亡き母シャルロッテによく似た一人の不幸な近眼の妊婦でした。 (しかもその夫とは、ロリータの逃亡を促した男ではなく、その男に捨てられた後に行きずりで知り合っただけの男でした。) ナボコフは不幸な女性を描くのがうまいと実感。 かつての妖しい魅力をたたえたロリータがここまで堕ちたのか、と思ってしまいます。 「愛したニンフェットがこのようになってしまうとは…」 しかしハンバートは、すでに精彩を欠いてくたびれた女となったかつての妖精をまだ愛していることに気づきます。 よりを戻そうと懇願するハンバートに、妊婦ロリータは「それはありえない」と一言。 幼い自分を凌辱し続け人生を台無しにした男の元に戻ることは彼女にとってあり得ない選択でした。

I insist the world know how much I loved my Lolita, this Lolita, pale and polluted, and big with another’s child, but still gray-eyed, still sooty-lashed, still auburn and almond, still Carmencita, still mine;
(中略)
“One last word,” I said in my horrible careful English, “are you quite, quite sure that—well, not tomorrow, of course, and not after tomorrow, but—well—some day, any day, you will not come to live with me? I will create a brand new God and thank him with piercing cries, if you give me that microscopic hope” (to that effect).
“No,” she said smiling, “no.”
“It would have made all the difference,” said Humbert Humbert.
(中略)
I loved you. I was a pentapod monster, but I loved you. I was despicable and brutal, and turpid, and everything, mais je t’aimais, je t’aimais!

異常者ハンバートの憐れさ。 対象者を傷つけ自身も葬ってしまうストーカーの心理ってこんな感じなのでしょうかね。
そして、ラストはハードボイルド小説のような展開に。

ちなみに、読了後にはぜひJohn Ray博士が書いた(という設定の)序文を読み返すことをオススメします。最初に読んだときはサラッと読み飛ばしてしまいましたが、後で読み返して全体が腹落ちしました。 これはプロローグというよりエピローグですよね。

Lolita (Vintage International)

Lolita (Vintage International)

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