hearthのお気楽洋書ブログ

洋書読みの洋書知らず。永遠の初心者。 まったりとkindleで多読記録を更新中 (ツイッターは、hearth@洋書&映画)

The Only Neat Thing to Do (James Tiptree Jr.) - 「たったひとつの冴えたやりかた」- 209冊目

ジャンル: 小説(SF)
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★★☆

「たったひとつの冴えたやり方」

この邦題が有名です。センスを感じます。 SF小説の翻訳タイトルにはステキなのが多いですね。「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」とか「星を継ぐもの」とか。 思わず手に取りたくなります。

さて本作。 SF用語、多めです。 それほどSFものに造詣が深くないものですから、冒頭から知らない単語が多くてちょっと難しかった… でもガマンして読み続けていると会話文が増えてきます。 急に読みやすくなりました。

ストーリーをご存知の方も多いでしょうが、粗筋を簡単にご紹介します。

16歳の誕生日を迎えた少女コーティは父親からプレゼントされた宇宙船に乗って、両親に黙って宇宙へと冒険の旅に出ます。 途中、立ち寄った星でメッセージパイプを拾うのですが、実はこのパイプの中には異星生物シロベーン(愛称シル)が入っていました。この生物は他の生物に寄生して胞子を増やしていくという性質を持っています。 コーティは気づかぬうちにシルによって脳に入り込まれます。このシルという生き物、恐ろしい寄生モンスターと言うよりも、思いのほかシャイで優しくそして少し冒険好きな生物でした。人間に例えるとコーティと同世代の女の子のような感じ。 友情が芽生え意気投合した二人は冒険の旅を始めましたが、思いがけない運命が彼女たちを待っていました…



メモ (ネタバレあります)

● この寄生生物が宿主の脳神経を操って幸福感を感じるようにさせるところなど、少し気味が悪かったですね。アリに寄生する菌みたいです。寄生されたアリはゾンビアリとなり本能もコントロールされる… 自分の英文読解が間違っているのかも知れませんが、寄生生物に脳を食べられつつある宇宙飛行士たち(多分、男同士の)が菌の生殖のために身体を操られてセックスをするという描写もあり、なんだか凄まじさを感じます。


● ここはラストのクライマックス。未読の方は、読み飛ばして下さい。 いくつか読んだSF小説の中でも圧倒的に感動を呼ぶシーン。 ストーリーは知っていましたが、それでもこの辺りを読むとジーンとしてしまいました…

生殖本能が暴発し宿主であるコーティの命を食い尽くしてしまおうとする衝動を、理性で必死に抑えようとする寄生菌異星人の女の子シルと、他の人たちへの寄生菌繁殖の被害を食い止めようとの使命感のみで痛みに耐えながら動くコーティ。 彼女たちが選択した「The Only Neat Thing to Do (たった一つの冴えたやり方)」とは、シル自身の胞子の繁殖を自分たちの間だけに留めるために、宇宙船ごと太陽に突っ込んで自分たちの命を葬りさることでした。

(ボイスレコーダーに残ったコーティの最期の言葉)
「お願いみんな、シルのこと忘れないで。彼女は本物よ。 彼女は人類のためにこの道を選んだの。そして彼女の種族のためにも… 彼女なら私の脳を操って私を止めることもできたのにそうしなかった、それだけは信じて! みんな、サヨナラ…」
衝撃音。そして音声が途切れ、あとは静寂のみ続く。

この録音をコーティの父親が他のスタッフと聞いているのですが、このシーンが辛かった。

“Good-bye, all. To my folks … Oh, I do love you, Dad and Mum. Maybe somebody at FedBase can explain—ow!! Oh … Oh … I can’t … Hey, Syl, is there anybody you want to say good-bye to? Your mentor?”
A confused vocalization, then, faintly, “Yes …”
“Remember Syl. She’s the real stuff, she’s doing this for Humans. For an alien race. She could have stopped me, believe it. Bye, all.”
A crash, and the record goes to silence.

“Han Lu Han,” says the xenobiologist quietly into the silence. “He was that boy on the Lyra mission. ‘It’s the only really neat thing to do.’ He said that before he took the rescue-run that killed him.”

ラストの印象が強いために、元気女子たちの冒険譚、感動小説のイメージが強いのですが、菌に寄生された宇宙探索員のコーとボーニィのからみの部分や、宿主の脳を食べたのちに、その顔に穴を空けてそこから寄生菌の胞子が飛び出すところなんか結構エグいですね。 この設定、マンガの「寄生獣」のミギーみたいな感じです。


話は変わりますが。

昨年にその使命を終えた土星調査衛星カッシーニの最後をご存知ですか。 13年間という長い年月を通して人類に貢献しその使命を遂げたカッシーニは、土星の大気圏に突入して燃え尽きました。 搭載燃料が尽きたとしてもそのままずっと土星の周回軌道に乗せるという方法もあったでしょう。 しかし、仮に故障して土星の自然衛星であるタイタンやエンケラドスに衝突などした場合には、カッシーニに付着しているかもしれない地球由来の微生物により既存の環境を汚染してしまう恐れがありました。 (そして、タイタンやエンケラドスに生命が存在する可能性があることを見出したのは、なによりカッシーニ自身でした!) そしてカッシーニには最後のミッションが与えられます。それは自身を土星に突入させて溶解滅却させるのと同時に土星の大気組成のデータを地球に送ることでした。

2017年9月15日、カッシーニに最後の日が来ます。 燃え尽きて機体が溶けてしまい流れ星となるその最後の瞬間まで、地球に観測データを送り続けました。 当初の設定プログラムよりも30秒も長く地球に通信を送ってきたそうです。 まるでサヨナラを言うように… カッシーニの親代わりのプロジェクトリーダーは愛する探査機の最後についてこう語ったそうです。「悲しみと、カッシーニの功績への誇りで胸がいっぱいだ。」


そして、このニュースを聞いてすぐに思い出したのがこの「The Only Neat Thing to Do」だったのです。

カッシーニよ、永遠なれ😭

The Starry Rift (English Edition)

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