hearthのお気楽洋書ブログ

洋書読みの洋書知らず。永遠の初心者。 まったりとkindleで多読記録を更新中 (ツイッターは、hearth@洋書&映画)

The Chemical History of a Candle (Michael Faraday) - 「ロウソクの科学」- 224冊目

ジャンル: サイエンス・ロジック
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★☆☆☆

深夜、眠れないことが多く、夜の2時ぐらいに本を読むことがあります。 物音ひとつしない静かな暗闇の中で、布団の中でキンドルを手にして古典とも言える本を読む。 何か濃密な時間が過ぎていく感じが好きなのです。

以前に読んだ塩野七生さんのエッセイの中で、マキャベリが深夜の読書・思索を通じて古の賢人たちと対話し、名著「君主論」を書き上げたエピソードを紹介されていました。 その作品の勇壮なイメージとは少し異なり、現実のマキャベリは背は人並みだが貧相に見える貧乏な四十男でした。 「君主論」が出版され名声を得るのも彼の死後のことであり、決して社会的には成功者の部類には入らない人物だったようです。 しかし孤独を愛し自身の中で確固たる世界観を持ち、いにしえの賢人たちとの深夜の語らいを持つ姿がなんとノーブルで格好の良いことかと、塩野さんはそのエッセイに書いています。そのくだりについて、マキャベリ自身が友人に書いた手紙を引用します。

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「夜がくると家にもどる。そして書斎に入る。入る前に泥やなにかで汚れた毎日の服を脱ぎ官服を身に着ける。礼儀をわきまえた服装に身をととのえてから古の宮廷に参上する。そこではわたしは彼らから親切にむかえられ、あの食物、わたしだけのための、そのためにわたしは生をうけた食物を食すのだ。そこでのわたしは恥ずかしがりもせずに彼らと話し、彼らの行為の理由をたずねる。彼らも人間らしさをあらわにして答えてくれる。
四時間というもの、まったくたいくつを感じない。すべての苦悩は忘れ貧乏も怖れなくなり死への恐怖も感じなくなる。彼らの世界に全身全霊で移り棲んでしまうからだ。
ダンテの詩句ではないが、聴いたことも、考え、そしてもとめることをしないかぎり、シェンツァ (サイエンス )とはならないから、わたしも彼らとの対話を『君主論 』と題した小論文にまとめてみることにした。そこではわたしはできるかぎりこの主題を追求し分析しようと試みている。君主国とはなんであるのか。どのような種類があるのか。どうすれば獲得できるのか。どうすれば保持できるのか。なぜ失うのか … 」
(塩野七生「男たちへ」より抜粋)
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自分の中で確固たる世界観を持ち、深夜に思索を重ねる。その濃密な時間がいかに大事だったのか。 憧れを覚えます。

そしてそのような深夜の読書にふさわしいと感じた一冊がこの「The Chemical History of a Candle 」です。 科学書と言うよりもこれは歴史的古典の位置付けですね。 イギリスの誇る大科学者であるMichael Faraday。 彼は貧乏な出自であり小学校も中退、十分な教育を受ける機会を持てませんでした。 しかし、科学に対する憧れ、純粋で真っ直ぐな情熱は誰にも負けていません。製本工から始まり、働きながら地道に科学の研究を続けました。 そして、化学の分野ではベンゼンを発見、また物理ではファラデー電磁誘導の法則を唱えたりと、広範に渡る業績を残し、ついには英国王立研究所を代表する教授となり誰もが知る偉大な科学者の一人に数えられるまでになりました。
そして大科学者となったのちも、彼自身は少年の頃から抱き続けた「科学を愛する心」を新しい世代の少年少女に伝えたいと願っていました。 そして一般の人々を対象にして積極的に何度も講座を行いました。その講座の一つがこの本の収録の元になった1860年に行われた「Christmas Lectures (クリスマス講座)」です。
(英国王立研究所主催の伝統あるこの「クリスマス講座」は子供たちへのクリスマス・プレゼントとして1825年に始まった歴史的な科学講座です。 形は変わっているようですがなんと今現在も毎年続けられているそうです。)
(1861年発刊)


メモ
● いいですか。これからみんなで、自然科学の世界のトビラを開けて探求していきますが、どこにでもあるこのロウソクほどピッタリな材料は他にはありませんよ。

There is no better, there is no more open door by which you can enter into the study of natural philosophy, than by considering the physical phenomena of a candle.

● ガスと蒸気の違い。 よく分かっていなかった… どっちも気体の状態だけど、圧縮すると液化するのが蒸気で、圧縮しても液化しないのがガス。 ふーん。

(You must learn the difference between a gas and a vapour: a gas remains permanent, a vapour is something that will condense.)

● 「脂肪の燃焼」とかってよく言うけど、これは文章としての誇張や比喩ではなくて、化学的にはまさにロウソクが燃えることと一緒の原理。 燃焼とは熱や光を伴って急激に酸化すること。

Now, I must take you to a very interesting part of our subject—to the relation between the combustion of a candle and that living kind of combustion which goes on within us. In every one of us there is a living process of combustion going on very similar to that of a candle; and I must try to make that plain to you. For it is not merely true in a poetical sense—the relation of the life of man to a taper; and if you will follow, I think I can make this clear.

● ファラデー先生の講座の締めの言葉。 少年少女たちと分かち合うこの時間をどれほど楽しみにしていたかが伝わります。

I have now finished this imperfect account. It is but an apology for not having brought the process itself before you.
(中略)
If I should happen to go on too long, or should fail in doing what you might desire, remember it is yourselves who are chargeable, by wishing me to remain. I have desired to retire, as I think every man ought to do before his faculties become impaired; but I must confess that the affection I have for this place, and for those who frequent this place, is such, that I hardly know when the proper time has arrived.


この収録本を読むと分かるのですが、このト書き風の実験説明がとても臨場感に溢れています。 きっと科学好きの少年少女たちが、目をキラキラさせて聴いていたに違いない。そしてそれは若き日のファラデー少年の姿そのものだったのでしょう。
そしてファラデー先生は、スティーブ・ジョブズも驚きのプレゼンテーションの名手であることが分かります。 盛り上げつつ観客を魅了する実験はまるで手品のようです。今で言えば「でんじろう先生」の科学面白実験といった雰囲気。 彼の身振り、言葉の選び方、そして聴衆が何をどのように感じるかをよく把握して、シンプルな物を使って奥深さを伝える。 この講座でも、ロウソクというありふれた物を使って、化学、物理の奥深さをキレイに繋げて、目の前でプレゼンテーションを行ないます。 少年少女たちの心をわしづかみにしたファラデー先生。 この本を読んで多くの子供たちが科学者を目指したんだろうなー。 素晴らしい。

惜しむらくは、ぼくが入手したこのKindle本、著作権が切れて無料だったのですが、イラストが無いものでした。 文章自体はそれほど難しいものではなく、文学の古典にあるような古い言葉使いも無かったのですが(show をshewと綴るぐらいのもの)、イラストが無いので細かい実験のセットアップはさっぱり分かりません。もしこれから読まれる方は、多少高くてもイラストや図解の入った版を買われることをオススメします。(なので、オススメ星印も二つ星としました。)

それから、科学を愛する少年の本であれば、ファインマンさんの本(134冊目)、あと「Rochet Boys」(140冊目)なんかもオススメです。
安心してください。数式はありませんよ。

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