hearthのお気楽洋書ブログ

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Into Thin Air (Jon Krakauer) - 「空へ - エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか」- 228冊目

ジャンル: ノンフィクション
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★☆☆

ふうー。 なかなか骨太のノンフィクション。 1996年5月に起きたエベレスト登山隊での大量の遭難事故(シーズンで総勢12人が亡くなる)の一部始終について、その参加者の一人であるジャーナリストのJon Krakauerが本作にて克明に描写しました。 猛吹雪という自然の脅威がこの遭難を引き起こした主要因ではあるものの、その自然現象自体はこの世界最高峰にとっては特に珍しいことではありません。それ以上にこの惨劇を招いたのは参加者やガイドリーダーの積み重なる判断ミスによるところが多かったと本書では記されています。

山に取り憑かれたこれらの人々の話を読んでいると、不謹慎かも知れませんがエベレストへの情熱は一種の呪いのように感じられました。 自分は登山をしないので分からないだけかも知れません。 ここまでの犠牲を払って、なぜまだ山に登ろうとするのかが分からない。 これは薬物中毒のようなものでしょうか。一度その魅力に取り憑かれた者は、死ぬか不随になるまでもう止められないものなのでしょうか。

英文が簡潔でとても読みやすかったのですが、単語は少々難しめ。 内容は深いです。
なにせ登場人物が多い。 総勢30人ぐらいでしょうか。 しかもさっきまで名前で呼んでいたのに急に苗字で呼び変えたりするので誰が誰だか分からなくなってきます。登場人物一覧をメモに書き留めながら読み進めました。
(1997年発刊)



メモポイント

● 29,000フィート(約8,800m)のエベレスト。 25,000(約7,600m)フィートより高地はデス・ゾーンと呼ばれており、地上とは全くの別世界である。
だいたい5000mを少し超えるあたりにベースキャンプを構える。 ここから頂上を目指すのだが、このベースキャンプでさえ地上の半分の酸素濃度だそう。 頂上ではこれが1/3になる。

At Base Camp there was approximately half as much oxygen as at sea level; at the summit only a third as much.


● エベレスト登山はかつての過酷な冒険的挑戦から、1990年代頃からは商業ベースのレジャーへと変遷を遂げていた。登山ガイド業者やシェルパにルート工作や荷物の運搬を委託して自らは身一つで参加するなど、専門知識や経験の少ないアマチュア登山家が増加することとなり、これが本作に描かれた大量遭難の引き金となる。

During the trek to Base Camp, a young Sherpa named Pemba would often roll up her sleeping bag and pack her rucksack for her. When she reached the foot of Everest with the rest of Fischer’s group in early April, her pile of luggage included stacks of press clippings about herself to hand out to the other denizens of Base Camp. Within a few days Sherpa runners began to arrive on a regular basis with packages for Pittman, shipped to Base Camp via DHL Worldwide Express; they included the latest issues of Vogue, Vanity Fair, People, Allure. The Sherpas were fascinated by the lingerie ads and thought the perfume scent-strips were a hoot.

女性ファッション雑誌をベースキャンプまでDHLでデリバリーさせるセレブ登山家。 あまりにも山を舐めたその態度はアホとしか言いようがない。

“If client cannot climb Everest without big help from guide,” Boukreev told me, “this client should not be on Everest. Otherwise there can be big problems up high.”

この遭難事故の関連者のうち、キーマンの一人である登山ガイドのロシア人Boukreev。 彼は上述したようなアマチュア登山家を軽蔑していた。
「そもそもガイドの全面的なサポート無しではエベレストに登れないようなクライアントはエベレストに来るべきではない。 そのような連中は必ず山上でトラブルの原因となり、全体の足手まといになる」


● エベレストに魅せられた者はその呪縛から逃れられない。

Everest seems to have poisoned many lives. Relationships have foundered. The wife of one of the victims has been hospitalized for depression. When I last spoke to a certain teammate, his life had been thrown into turmoil. He reported that the strain of coping with the expedition’s aftereffects was threatening to wreck his marriage. He couldn’t concentrate at work, he said, and he had received taunts and insults from strangers.

● 後日談としてPostscriptが書かれた最終章は、著者のKrakauer やガイドのBoukreev等、この痛ましい遭難から辛うじて生き残った者達による真実認定についての批判合戦が記されている。 読んでいてかなりシンドい。この詳細に渡る自己証明と反駁の主張の展開には既視感があった。それは本多勝一の「貧困なる精神」シリーズに似ていると感じる。


同様のドキュメンタリーの力作として、Robert Kursonの「Shadow Divers」(38冊目に感想)もオススメです。 こちらは高山ではなく海中での極限状態の人間を描いています。気圧変化の影響、酸素欠乏の恐怖、そしてパニックに陥った際の人間の行動等、克明に描写されており手に汗握る作品です。

Into Thin Air: A Personal Account of the Everest Disaster (English Edition)

Into Thin Air: A Personal Account of the Everest Disaster (English Edition)

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