hearthのお気楽洋書ブログ

洋書読みの洋書知らず。永遠の初心者。 まったりとkindleで多読記録を更新中 (ツイッターは、hearth@洋書&映画)

Factfulness (Hans Rosling) - 「ファクトフルネス」- 231冊目

ジャンル: ノンフィクション
英語難易度: ★☆☆
オススメ度: ★★★☆☆

「人は自分が見たいように見る」
かなりの意訳らしいですが、カエサルの言葉です。 本来は客観的であるはずの事実に対して、人はそれぞれが自分の考え方に合うように解釈(曲解)して判断するという意味だったと思います。 自身の思考フィルターを通過して入ってきた事実はその時点でいくらかの客観性が失われているということなのでしょう。

新聞、テレビ、ツイッターを読むと凄惨な事件が毎日のように取り上げられています。私たちの世界はこれからどうなっていくんだろうと気が滅入ることが多くあります。しかし、これも(決してそのようなネガティブな状況を望んでいるわけではないが) 、読者の注意を引く「読みたい」記事がクローズアップされているからなのでしょう。

「いい話はニュースにならない」これはホントにそう思います。 マスコミ・ジャーナリズムの運命とでもいいましょうか。「少しずつ、かつゆっくりではあるものの、私たちを取り巻く世界・生活は良くなってる」なんてのは記事にはなりません。 そのようなメディアは売れるはずもなくビジネスとして成り立ちません。

私たちがネガティブなニュースに気を取られる理由は生物の進化過程において獲得された本能によるものだそうです。 つまり生命の危険を避けるために、ネガティブかつ即時的なリスク情報を過大視させ注意を引くようにセットされているという事であると、今日の紹介本 Hans Rosling「Factfulness」で主張されています。 厳然として存在する危機について目を背ける事が良くない事であると同時に、危険を必要以上に過大視することも同様に正しくないと著者は指摘しています。

思い込みと事実はいかに異なるかについて、具体的な事実をデータで示しながら説明されています。 データの裏付け確認もせず世間で声高に叫ばれている主張に雰囲気で乗っかって判断することの何と危険なことか。 なるほどと首肯することが多い。 でもこの手の話を書いた人は寡聞にして知りません。コロンブスの卵のようですね。 気付いて書ける、これがすごい事なのでしょう。英文も平易で読みやすいですよ。
(2018年発刊)


メモポイント
● この一言に尽きる。
「我々を取り巻く世界は少しずつではあるが、確実に良くなってきている。これは事実に基づいた世界観だ」

Step-by-step, year-by-year, the world is improving. Not on every single measure every single year, but as a rule. Though the world faces huge challenges, we have made tremendous progress. This is the fact-based worldview.


● これぞこの本の主題。主張の根拠をファクト・エビデンスで示せ。

I liked her definition because it was so clear. We could check it against the data. If you want to convince someone they are suffering from a misconception, it’s very useful to be able to test their opinion against the data.


● レベル4とは先進国での生活標準のこと。 欧米諸国は自国の文化のみ優れており他国は未開で劣っていると考えがち。もっと謙虚な姿勢を持つ事で、勘違いしないようにと戒めている。

Be cautious about generalizing from Level 4 experiences to the rest of the world. Especially if it leads you to the conclusion that other people are idiots.
(中略)
Assume people are not idiots. When something looks strange, be curious and humble, and think, In what way is this a smart solution?

この視点はすごく大事。ツイッターでも何でも高みから諭すように声高に意見を述べる人はこの誤謬に陥っているかもしれない。 自分だけがよく分かっていて周りは愚鈍だと考える。 でも大抵の場合は自分だけが優れているなどあり得ない。単なる勘違い。


● 善意から来る誤解は最も始末に困る。 これは出口治明氏も著書の中で述べていた。 相手が悪人ならば自身の行動を理解しているので交渉による取り引きもできる。 しかし善意による思い込みは、分かっていないが故に別の視点に気づかせるのは容易ではない。

When seemingly impregnable logic is combined with good intentions, it becomes nearly impossible to spot the generalization error.


● 分かりやすい主張、単純な主張、極論は耳に残り受け入れやすい。しかし、必ずしも真実を表しているとは限らない。「分かりやすい説明」がもてはやされる風潮があるが、複雑な説明が不可避な場合も間違いなく存在する。 現実はもっと複雑なのだ。

We find simple ideas very attractive.


● ある社会に環境の向上が見られる場合、その貢献をトップやリーダーなどの一個人に帰するケースが多いが、実際には個人としての影響力などたかが知れている。実際にものを言うのは、Institution (制度・仕組み)とtechnology (技術の進歩)だ。

It must make one ask if the leaders are that important. And the answer, probably, is no. It’s the people, the many, who build a society.
(中略)
The fight against the lethal Ebola virus was won not by an individual heroic leader, or even by one heroic organization like Médecins Sans Frontières or UNICEF. It was won prosaically and undramatically by government staff and local health workers, who created public health campaigns that changed ancient funeral practices in a matter of days; risked their lives to treat dying patients; and did the cumbersome, dangerous, and delicate work of finding and isolating all the people who had been in contact with them. Brave and patient servants of a functioning society, rarely ever mentioned—but the true saviors of the world.

アフリカの僻地でエボラ熱の脅威から世界を救ったのは一人のヒーローではなく、平凡なしかし勇気ある現場の公務員たちの目立たない努力とそれを可能にした仕組みづくりだった。事の成果を属人的に考えるのは分かりやすいが、大抵の場合は一人の力でできるものではない。


● また同様に、一人のトップが悪者となって世界・環境を悪化させると言うこともあり得ない。 悪者を作って責めることは簡単で分かりやすいがそれでは事態の改善には繋がらない。

• Look for causes, not villains. When something goes wrong don’t look for an individual or a group to blame. Accept that bad things can happen without anyone intending them to. Instead spend your energy on understanding the multiple interacting causes, or system, that created the situation.

• Look for systems, not heroes. When someone claims to have caused something good, ask whether the outcome might have happened anyway, even if that individual had done nothing. Give the system some credit.


なお、著者はこの本の出版を待たずにガンで亡くなられたそうです。 本の最後に共著者でもある息子夫婦のOlaとAnnaが、エピローグとしてその最後のやり取りを描いています。 短文ですが父親に対する愛情溢れる文章です。


ところで。
上でも書きましたが、出口治明氏の著書にも同様の主張が記されています。 氏は「数字・ファクト・ロジック」で判断することの重要性を説いています。 また、個人の力量には大差なく(人間はみんなちょぼちょぼやと)、仕組み作りが大事だとも書かれています。 興味ある人はぜひ読んでみてください。 (出口治明・著「人生の教養が身につく名言集」)
この書名はちょっとアレで、「なんちゃって」ビジネス書っぽいですが… 読書を通じて氏が得た洞察力に納得することしきりでしたよ。

Factfulness: Ten Reasons We're Wrong About the World?and Why Things Are Better Than You Think (English Edition)

Factfulness: Ten Reasons We're Wrong About the World?and Why Things Are Better Than You Think (English Edition)

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