hearthのお気楽洋書ブログ

洋書読みの洋書知らず。永遠の初心者。 まったりとkindleで多読記録を更新中 (Xは、hearth@洋書&映画)

The Goal (Eliyahu Goldratt) - 「ザ・ゴール」- 188冊目

ジャンル:ビジネス・経済
英語難易度:★★☆
オススメ度:★★★★☆

「十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない。」
科学技術の話ではありませんが、ある不可思議な現象について、理論として理解している人から見ればしごく当然の事だったとしても、知らない人から見ればまるで魔法のように感じてしまうと唱えたのはアーサー・クラークでした。 「A Study in Scarlet 」で、初めてホームズと出会ったワトソンは「アフガン従軍」の件を言い当てられて「これはトリックではないか?」と訝しがりました。 本作に登場する物理学者Jonahは鮮やかな推理(?)で訪れたこともない主人公Alexの工場の苦境を言い当てます。Jonahにはホームズのようなイメージが重なります。

 離婚の危機に陥ったある夫婦(工場閉鎖の危機にある工場長であり仕事中毒の主人公Alexと、かまってチャン奥さんJulie)の家族再生物語。 本作、小説仕立てではありますが元々は生産における「ボトルネック」の考え方について分かりやすく解説する事を目的として書かれたビジネス啓蒙書だそうです。 ですが純粋に物語として読んでも十分に楽しめます。 僕としてはこの家族再生ストーリーの側面の方が印象に残りました。  女子大生会計士が主人公の小説仕立てのビジネス書が日本でも流行ったことがありましたが、本作は物語ビジネス書のはしりかもしれませんね。 三枝匡さんの企業小説を読んだときにも感じましたが、この臨場感はもうビジネス書のレベルを超えている!!
(1984年発刊)

ストーリーを少し紹介します。 壊滅的な状況下の工場で前任の工場長が辞め後任としてAlexが採用されました。 入社後たった半年にもかかわらず3ヶ月以内に赤字を解消しないと工場を閉鎖してクビだと宣告されます。 不慣れな上に状況がさらに悪化しつつある袋小路にいたある日、Alexは学生時代の恩師で物理学者のJonahに偶然にも空港で再会します。 Alexの二言三言の世間話のような会社のグチを聞いただけで、Jonahは工場の苦境を手に取るように鮮やかに分析してみせます。(ここはちょっとホームズ風) 彼の恐るべき洞察力に舌を巻いたAlexは彼にすがるように教えを請う事に…

本書の眼目である「ボトルネック」の考え方についてもう少し触れたいと思います。一言で言うと「複数の工程を経て完成するプロジェクトにおいて、そのプロセスの最も遅い工程が全体のタイムラインを決定する。」ということ。師匠Jonahが説くところによると、ボトルネックとはマーケットの需要よりもその供給が少ないポイント(つまり市場が飽和状態ではなく、作れば作っただけ売れる状態。 いわゆる「入れ食い」状態)であったならば、仮に他の工程での生産性がどれだけ高くても、そのボトルネックの限界までしか生産できないということ。

本作では主人公が息子のクラスの徒歩キャンプに父兄として引率した際に、一番歩くのが遅い太っちょの子供のスピードに全体のスピードを合わせざるを得ず、結局は目標時間ギリギリになってゴールに到着してしまうという出来事がありました。 このエピソードから主人公は「ボトルネック」の考え方に気づきます。 そしてさらに自身の工場の採算性を悪化させる一番の原因である原材料在庫が積み上がる理由を理解するようになります。


メモポイント
● 本当に重要な事のみに集中する。 Greg Mckeownの「Essentialism」を思い出す。 一番の目的に合致する事のみが生産的と言える。それ以外は全て非生産的なのである。

“Alex, I have come to the conclusion that productivity is the act of bringing a company closer to its goal. Every action that brings a company closer to its goal is productive. Every action that does not bring a company closer to its goal is not productive. Do you follow me?”


● 会社の究極のゴールはmake money 。あまりにも当たり前の話だが、この当たり前の事実をクリアに伝えて、ベストセラー本にしたのは作者の筆力だと思う。

If the goal is to make money, then (putting it in terms Jonah might have used), an action that moves us toward making money is productive. And an action that takes away from making money is non-productive.


● 会社での会議の喧騒の中でAlexは一人考えている。みんなもっともらしい言葉や数字をこねくり回しているが、全部意味がない。

I have no idea what’s going on. Their words sound like a different language to me—not a foreign language exactly, but a language I once knew and only vaguely now recall. The terms seem familiar to me. But now I’m not sure what they really mean. They are just words. You’re just playing a lot of games with numbers and words.


● Alexと一緒に工場の危機を乗り越えた定年間近のLouという静かで落ち着いた雰囲気の会計責任者が出てくるんですが、このシーンがいい。 同じ会計に携わる者として心に残ります。「Alex、私はこんな中途半端なままで終わりたくないんだよ。やっと今気付いたんだ。」

I’ve never heard Lou talk for so long. I agree with everything he just said, but I’m totally confused. I don’t know what he’s getting at.
“Alex, I can’t stop here. I can’t retire now. Do me a personal favor, take me with you. I want the opportunity to devise a new measurement system, one that’ll correct the system we have now, so that it will do what we expect it to do. So that a controller can be proud of his job. I don’t know if I’ll succeed, but at least give me the chance.”
What am I supposed to say? I stand up and stretch out my hand. “It’s a deal.”


● すれ違いだった夫婦、AlexとJulie。 Julieは仕事の事など理解してくれないとAlexはずっと思い込んでいた。 しかし今やっと分かった。 真摯にAlexの悩みを受け止めてくれていたのはJulie だった。 彼女はAlexに取って真のアドバイザーだったのだ。

I look at her in silence. Here is my real, true advisor.


● ビジネスの舵取りには理論が必要だと主張する。 メンデレーエフの元素周期表の逸話。 彼の作った当初の周期表は歯抜けでお粗末なものだった。 しかし彼には理論があった。 理論が正しければ必ずや将来に明らかにされるとの確信があったのだ。周りから笑い者になりながらも、自身の周期表の理論に基づけば必ずこの「空白の表の位置」に元素は存在するはずだと主張し続けた。 そしてその通り。 後の歴史は彼の理論が驚くべき精度で正確であったことを証明したのだ。

“Skepticism is an understatement. Mendeleev became the laughing stock of the entire community. Especially when his table was not as neatly arranged as I described it to you. Hydrogen was floating there above the table, not actually in any column, and some rows didn’t have one element in their seventh column, but a hodgepodge of several elements crowded into one spot.”
“So what happened at the end?” Stacey impatiently asks. “Did his predictions come true?”
“Yes,” says Ralph, “and with surprising accuracy. It took some years, but while he was still alive all the elements that Mendeleev predicted were found. The last of the elements that he ‘invented’ was found sixteen years later. He had predicted it would be a dark gray metal. It was. He predicted that its atomic weight would be about 72; in reality it was 72.32. Its specific gravity he thought would be about 5.5, and it was 5.47.”


● データを集めるだけで仕事をした気になってはいけない。 科学的アプローチとは、ある現象を観察し、仮説を組み立て、それを検証する事だ。

“It’s how physicists approach a subject; it’s so vastly different from what we do in business. They don’t start by collecting as much data as possible. On the contrary, they start with one phenomenon, some fact of life, almost randomly chosen, and then they raise a hypothesis: a speculation of a plausible cause for the existence of that fact. And here’s the interesting part. It all seems to be based on one key relationship: IF … THEN.”
ホームズも言ってます。「不可能なことがらを消去していくと、よしんばいかにあり得そうになくても、残ったものこそが真実である、とそう仮定するところから推理は出発します」



著者のEliyahu Goldratt自身が物理学者であり、理論に基づいたビジネス指標がいかに重要であるかという事に力点を置いて書かれています。 巻末には「巨人の肩に乗って」という日立の失敗事例と改善方法の特集が掲載されています。 トヨタのカンバンシステムの説明もありプロジェクトXのような臨場感もあり秀逸です。

The Goal: A Process of Ongoing Improvement

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