hearthのお気楽洋書ブログ

洋書読みの洋書知らず。永遠の初心者。 まったりとkindleで多読記録を更新中 (ツイッターは、hearth@洋書&映画)

Absent in the Spring (Agatha Christie) - 「春にして君を離れ」- 235冊目

ジャンル: ミステリー
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★☆☆

邦題が美しい小説です。 原題の”Absent in the Spring”とはシェイクスピアソネットの一節だそうですが、このタイトルの邦訳は翻訳者の方のセンスでしょうか。 以前にも書きましたが、「たったひとつの冴えたやりかた」や「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」など、素敵なタイトルの小説はカバーを見ただけで読んでみたくなりますよね。


そして本作、その雅な邦題からは想像もしていなかったヘビーな内容でした。 毒親一代記。 子を持つ親なら皆、思い当たるフシがあるかも。 おー、こわ… 夫を、そして家族を愛していると思い込んでいた本作の主人公Joan。 しかし実のところ彼女が最も愛していたのは自分自身なのでした。どのように周りから見られているかが彼女の関心の全て。 ミセス・ブランニュー・デイ。 割とよくあるタイプの人かもしれません。


「 私に任せておけばいいの! 私は全て分かっているんだから。」そう思い込んでいた彼女。 しかし残念ながら実は「分かっていなかった」のは彼女だけでした。 本作、ページをめくるたびに詳細に描かれたエピソードを通して、少しずつ彼女の鈍感さが浮き彫りにされていきます。 とても愚かな(でも可哀想な)妻であり母親である一人の女性の心理を描いた佳作です。
(1944年発刊)



粗筋を少し。
病気で寝込んでいる末娘を見舞い家事を手伝うために、嫁ぎ先であるバグダッドに向かったJoan。 無事に役目を果たして娘夫婦から感謝され慰留されつつもイギリスへの帰途に着いた。 その旅路の途中で偶然出会ったのは女学校時代の友達Blancheだった。 かつての美人でクラスの人気者、スクールカーストの頂点にいた彼女は、今では身持ちが悪くすっかり落ちぶれた老女となっていた。 「可哀想なBlanche。私は彼女とは違う。素敵なダンナとすっかり大人になって幸せに暮らす子供達…」ガサツで落ちぶれて見えるBlanche。 しかし彼女の裏表のない率直な言葉はJoanにとっての本当の幸せの定義について見直すきっかけとなった。 モヤモヤとした気持ちを抱えつつ、運行の乱れによりいつ来るか分からない大陸横断鉄道を砂漠の駅で待つJoan。 Blancheは目的地に向かって先に立ち去り、持ってきた本も全て読み終わり話し相手もいない砂漠の宿。 やがて他にすることがないJoanの心にある一つの疑念が湧いてくる。 それは忘れようとしても鎌首を持ち上げてくるトカゲの様な恐ろしい想像だった…


(ここから、以下ネタバレなんでご注意!)

砂漠の中で自身と向き合わざるを得ない状況となったJoan。 そして煩悶を重ねながらついに彼女はある確信にたどり着く。それは無意識のうちに今まで避けてきた考え、彼女が理想型として作り上げてきた家族の絆は実は幻想だったかもしれないという悲しい推理だった。 それは大事に育ててきた彼女の人生は全て悲しい「家族ごっこ」であったことを認めることだった。 自身の勇気の無さに気づいたJoan。 神の啓示を受けた今なら家族の愛を取り戻せるかもしれない。その最後のチャンスを逃さないために必要なこと。 それは今までずっと大事にしているフリをしながら実際には虐げていた夫のRodneyや子供たちに対して、帰国してすぐに自身の弱さを伝え詫びることだった。 はたして彼女は自身と向き合いこれからの人生をやり直せるのか、それとも今まで通り現実から目を背けて「家族ごっこ」のバーチャルリアリティを生きるのか。この二者択一の場面は手に汗握ります。



メモポイント

● 「夫婦のうちで本当に分かっているのは私だけ。オトコなんて子供みたいなものよ。全然分かってないんだから」
自分が全ての正解を持つと思っている妻。

She must be wise for the two of them. If Rodney was blind to what was best for him, she must assume the responsibility. It was so dear and silly and ridiculous, this farming idea. He was like a little boy.


● 「私は自分のことなんて、今まで考えたこともなかったわ。 全て子供たちのため、そして愛するRodneyのために尽くしてきたの」
なんとおめでたい思い込み。

Well, that is what she had done—always thought of others. She hardly ever thought of herself—or put herself first. She had always been unselfish—thinking of the children—of Rodney.


● 「今までなんて酷いことをしてきてしまったのだろう。 こんな私を受け入れてくれたRodney…」
やっと自身の真実の姿に気がついたJoan。
彼女の心は稚拙で愚かだったが、しかしそこには確かに愛はあったのだ。彼女は帰途につく旅路において心に誓う。 夫と子供たちに再会したらすぐに告げよう。 さあ、夫、そして子供たちとの愛の再建は叶えられるのか…

Because, in his gentleness, he had not fought with her and conquered her, he was so much the less, for all his days on the earth, a man …
She thought, Rodney … Rodney …
She thought, And I can’t give it back to him … I can’t make it up to him … I can’t do anything …
But I love him—I do love him …
And I love Averil and Tony and Barbara …
I always loved them …


● エピローグ。 夫の独白で締めくくられます。 簡潔で見事、そしてあまりにも残酷。 「高慢と偏見」に出てくる主人公の両親を思い出しました。 思慮の浅い母親とそれを内心軽蔑する事で自分のプライドを保つ父親。 ざらりとした読後感はイヤミスとも言えるでしょう。さすがChristie ですね。

She came to him with a sudden rush, almost breathing, she said:
‘I’m not alone. I’m not alone. I’ve got you.’
‘Yes,’ said Rodney. ‘You’ve got me.’
But he knew as he said it that it wasn’t true.
He thought: You are alone and you always will be. But, please God, you’ll never know it.


Christie がMary Westmacott名義で書いた本作はミステリーではありません。 最後まで読んだ方は分かると思いますが、どちらかというと心理ホラーです。ゾッとする現代の怪談。 バーチャルリアリティ
「The Daughter of Time (時の娘)」(105冊目に感想) の主人公の様に、人間はヒマを持て余すといろんなことを考えてしまうもんですね。

Absent in the Spring (English Edition)

Absent in the Spring (English Edition)

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On Reading and Books (Arthur Schopenhauer) - 「読書について」- 234冊目

ジャンル: 哲学
英語難易度: ★★★
オススメ度: ★★★☆☆

むかーし、「目がつぶれるほど本が読みたい」っていうキャッチコピーがありました。 角川書店が文庫販促キャンペーンで使っていたものです。 このフレーズ、元はこの角川書店の創業者である角川源義の若き日のエピソードが元になっています。彼がたまたま手にした河合栄治郎の著書の欄外に、この言葉「目がつぶれるほど…」の書き込みがあったそうです。どこの誰とも分からないその読者の強烈な思い。 心揺さぶられた源義さんは、戦後まもなく焦土と化した日本で、衣食住にも事欠くような状況下にあってもなお知性に対する市井の人々の渇望を感じ取り、精神の再生と文化の興隆を図るべく角川書店を創業したと言われています。

それにしてもこのフレーズ、なかなか過激な表現で今の世ならストップがかかりそうですね。 しかし、当時のどん底状態の中でもインテリジェンスに憧れと切実な願い持った人々が多く存在していた。 その思いがこの過激な一言に溢れているような気がします。本当の本好きならばこの気持ち、分かるような気がします。

そして本好きの一人として、本日お話ししたい本はショーペンハウアーの「読書について」です。 あまりにも有名なこのエッセイ、多くを語る必要はないでしょう。 アフォリズムに溢れたこの作品、自戒のためにメモポイントに抜き書きしたいと思います。

ハウアーさんはこのエッセイの中で、読書の弊害について述べており、「読書なんて良くない習慣だ」と主張されているように一見、読めてしまいます。 がしかし、実際にはそれほど単純に「読書を避けろ」と言っているわけではありません。
ポイントは次の二つに尽きると思います。

1. 所詮、読書は著者の思索の後追い。 読んだだけで読者自身が深く思索し行動に移さなければまったく意味がない。

2. 世の中にはあまりにも多くの本で溢れている。 数年で消える悪書に時間を使うのは限りある人生の上で無駄。長年の風雪に耐えた良書を読むべき。

ちなみにこの作品、キンドルではなくネット上のPDFで見つけたのですが、どうも難しい。 単語は平易なものの意味を取るのに難儀しました。 結局、和訳本を買って答え合わせをしてしまいました… こういう著作はよく噛んで味わって何度も読まないといけませんな。
(1851年発刊)


メモポイント

● 我々が本を読むとき、それは著者の思考を単に後追いしてなぞっているだけなのだ。 それは、小学生が鉛筆を手にして先生に言われた通りに意味も分からずつづり方を覚えているようなもんだ。

When we read, another person thinks for us: we merely repeat his mental process. It is the same as the pupil, in learning to write, following with his pen the lines that have been pencilled by the teacher.

自分で思索もせず、他人の思考に便乗して満足している人のいかに多いことか。


● 本を読んでいるとき、読者の頭の中は他人であるその著者の考え方に占められている。 頭脳を他人に預けているということ。 読書はこのようにして、自分自身で考えるという筋力を少しずつ奪っていく。 与えられた思考で満足するのは、馬に乗り続けた人の脚が萎えてしまい、自分の力で歩けなくなるようなもんだ。

But, in reading, our head is, however, really only the arena of some one else’s thoughts. And so it happens that the person who reads a great deal — that is to say, almost the whole day, and recreates himself by spending the intervals in thoughtless diversion, gradually loses the ability to think for himself; just as a man who is always riding at last forgets how to walk.

かなり辛辣です。 読書の弊害を強調していますが、読書をすると同時に読みっぱなしではなく思索を重ねて行動に移すことの重要性を説いているのだと解釈しました。
それにしても、こんなに辛辣な事を書いているハウアーさん自身も大変な読書家ですからね。 自身への戒めのためにもこのように表現したのかも知れません。


● したがって、読書をする上での最も大切な技術とは、「(悪書を) 読まないこと」である。

Hence, in regard to our subject, the art of not reading is highly important.

せやかて工藤、名著やなくても面白い本もあるし。 しゃーないやんか。 なあ、和葉。


● 悪書は読まなければ読まないほど良い。 良書はいくら読んでも読み過ぎるということはない。 悪書は知性に対する毒薬であり、精神を破壊する。 良書を読むための条件とは、悪書を避けることである。 命短し。 読む力と時間は限られているのだから。

One can never read too little of bad, or too much of good books: bad books are intellectual poison; they destroy the mind.
In order to read what is good one must make it a condition never to read what is bad; for life is short, and both time and strength limited.

ハウアーさんは特に、今一番売れているベストセラーというものは悪書であり「時間の無駄本」として絶対に避けるべきと強く主張しています。 それでは、読むべき本とはいったい何なのか? それは長年の風雪を耐え、試練の時期を乗り越えて生き残ってきた作品のみが読書に値すると説いています。 確かに、売れているからと手にしたものの、読み終わってイマイチだなあと虚しく感じてしまうことは良くありますね。本を選ぶ技術は大事だなと深く感じます。 なので、なるべく人からのオススメ本や書評での高評価のある本を優先して読むようにしています。

「Life is very short, and there’s no time. For fussing and fighting, my friend」
John Lennon も言ってましたよね。




本を読んだだけで満足してしまい、思索をしない。 耳が痛いです… こうやって感想を書くことで、少しは自分なりに作品を反芻したり、自身の考え方の糧になっていれば良いのですが。

ところで。
私の好きな本に『深代惇郎の青春日記』という日記本があります。 深代惇郎さん。当代一の知識人と言われたこの方。 朝日新聞記者で、天声人語の執筆者の一人でした。1975年に46歳で急性白血病で早世。 若き日に記された彼の日記からは知性を貪欲に身につけたいという「インテリげんちゃん」の青臭さがほとばしっています。とても好きな本です。 まさにこんな人が「目がつぶれるほど本が読みたい」と思ったんだろうなーと感じました。 良かったら手にしてみて下さい。


https://ebooks.adelaide.edu.au/s/schopenhauer/arthur/essays/chapter3.html

読書について 他二篇 (岩波文庫)

読書について 他二篇 (岩波文庫)

(Amazonで英文のキンドル版を見つけられなかったので、翻訳本のリンクを貼っておきます)


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The Lean Startup (Eric Ries) - 「リーンスタートアップ」- 233冊目

ジャンル: 経済・ビジネス
英語難易度: ★☆☆
オススメ度: ★★★☆☆

本作を解説するセミナーの講師がいたら、こんな感じなんでしょうか。

「はい。というわけでですね。 本作のポイントを一言で言いますよ。今日はこれだけ覚えて帰ってくださいねー。 いいですか。

[新規のビジネスモデルを試すには、小さくスピーディに始めましょう]

これに尽きます。」

あとはこの主題に従って、いろんな紹介事例が続きます。 フォードの自動車製造システムに端を発するマス生産のスケールメリットは認めるものの、新規ビジネスモデルに当てはめるには余りにもリスクが高過ぎる、等々。 実際に起業するときだけではなく、現行企業の中で新しいプロジェクトに携わる時にも同様の知見が求められるので、この本が役立つ機会も多いかと思います。
(2011年発刊)


メモポイント
● スタートアップ企業にとってみれば、先の事は不確実。細かくプランを立てるよりもフレキシブルに変えられるようにするのが肝要。

Unfortunately, too many startup business plans look more like they are planning to launch a rocket ship than drive a car. They prescribe the steps to take and the results to expect in excruciating detail, and as in planning to launch a rocket, they are set up in such a way that even tiny errors in assumptions can lead to catastrophic outcomes.
(中略)
The Lean Startup method, in contrast, is designed to teach you how to drive a startup. Instead of making complex plans that are based on a lot of assumptions, you can make constant adjustments with a steering wheel called the Build-Measure-Learn feedback loop.


● 最低限の機能が実装された状態(Minimum viable products) でカスタマーに提供して、まずは相手の反応を見る。あとは走りながら調整。 動かずしていろいろと考えるよりも実際に試すことには敵わない。

Minimum viable products range in complexity from extremely simple smoke tests (little more than an advertisement) to actual early prototypes complete with problems and missing features. Deciding exactly how complex an MVP needs to be cannot be done formulaically. It requires judgment. Luckily, this judgment is not difficult to develop: most entrepreneurs and product development people dramatically overestimate how many features are needed in an MVP. When in doubt, simplify.


● 小さく始めるためのコツの一つ。 名付けて「オズの魔法使い」作戦。
例えば「こんな機能をカスタマーが欲しがるんじゃないかな」ってアイデアがあっても、実際に大掛かりなプログラムやシステムをコストをかけて作り上げると失敗した時のダメージが大きい。 まずは実装せずにマンパワーでカバーする方法。 カスタマーは最新型のAIか何かを駆使して最適解の情報を得ていると思っているが、実は中身は人間が回答している。テストで確認したいのは、この新規のビジネスモデルがウケるかどうかだけなのでこれで十分。 面白い。

Instead, they used Wizard of Oz testing to fake it. In a Wizard of Oz test, customers believe they are interacting with the actual product, but behind the scenes human beings are doing the work.


惜しむらくは、本作、ちょっと同じことを言い換えして繰り返している感あり。
「少量バッチは本当は効率的なんだよ。 欠陥が分かったら直ぐにリカバリー効くし。 大量在庫は運転資金の無駄遣い」等々。 この種の本はもっと圧縮して1/3ぐらいの分量にしてもメッセージは伝わるんじゃないかいな、と思いますね。

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The Blue Castle (Lucy M. Montgomery) - 「青い城」- 232冊目

ジャンル: 小説 (古典)
英語難易度: ★☆☆
オススメ度: ★★★★☆

「バカヤロー!」っていうオムニバスの邦画が昔ありました。仕事や人間関係で閉塞感にヘキエキしてどうしようもなくなっている主人公たちがガマンにガマンを重ねた後についに爆発するというコメディ映画です。

さて、今日はそんなシチュエーションを彷彿とさせる一冊のご紹介。 読後感は極めて爽快でスカッとしたい方にぜひオススメの一冊です。

ずっと今までロクデナシと呼ばれ押さえつけられてきた本作の主人公ヴァランシー。 全てのヤツラに「バカヤロー」と叫び、家を飛び出し自らの幸せを自身で手に入れる。この爽快感はもうホントに小気味好い。 「ちょっとロマンチックなあまりハーレクインみが過ぎるのでは」と思うところもありますが、読後感は最高です。 アン・ファン・テリブル(アン・ブックスの熱烈ファンの意)を自称する自分としては、「モンゴメリなら任せとけ」と思ってたのですがこの本はノーマークでした。ほんとウカツ。 娘が勧めてくれるまでこの本の存在自体もあまり知らなかったのでした… このちゃぶ台返し後のヴァランシーのキャラクター、アンよりも好きだという人も多いでしょうね。


あらすじを簡単に。
いつも静かで引っ込み思案のヴァランシーは来年は30歳になる未婚女子。 当時の29歳はオールドミスとして 「行き遅れ」と家族・親戚一同からバカにされ、しょーもないセクハラオヤジギャグのネタにされ、心を許せる友達もいなくていつも独りぼっち。 可愛くて人気者のいとこオリーブといつも比べられ、幼い頃から影の薄い「透明人間」みたいな扱い。心の底から笑ったこともない。同居する毒親と年老いた親戚の元でずっと軽んじられてきた彼女。 このまま男性と知り合い手を握りキスすることさえなく、ただ歳を取り朽ちていくことを待つだけの人生。そんな彼女の唯一の気晴らしは、森の生活を描写した覆面作家ジョン・フォスターの作品を図書館で借り家族に隠れてベッドでコッソリ読み、彼女だけの夢の家「The Blue Castle 」に想いを馳せるだけという、つましいものだった。しかしもう29歳になる。こんな子供染みた想像は終わりにして現実に向き合わなきゃ…
そんなある日、ヴァランシーは身体の不調を感じる。詮索好きな家族親戚には秘密にして、医者に行った彼女が受け取った知らせは、あまりにも残酷な結果だった。 心臓の病で余命一年…

さあ、ここからが彼女のスゴイところ! 「私にゃ今しかない! どうせ散りゆく命だ! やりたくないことやってるヒマはねえ」ということで、今まで受けてきた「借り」を返すべく彼女は一大決心をして大胆な行動に出ます。 ラストへのグルーヴ感溢れる怒涛の展開は爽快かつ伏線の回収もお見事、絶品と言えるでしょう!
(1927年発刊)



メモポイント
(かなりのネタバレが入ります。読むと面白さが半減します。 未読の方はここでストップ!)

● ヴァランシーの切なさよ。 正直、前半部分は読むのが辛くなるほどの悲惨さです。

「本当に心の底から幸せな時がたった一時間でもあるならば女性はそれを糧にして生きていけるもの、って昔読んだ本に書いてあった。 けど私にはそんな事など一度も無かった。 もしそんな時間が死と引き換えに私に与えられるならば、もう今すぐに死んでもいいと思う」

I remember reading somewhere once that there is an hour in which a woman might be happy all her life if she could but find it. I've never found my hour--never, never. And I never will now. If I could only have had that hour I'd be willing to die.


● 「彼が何をしたの? 何を証拠に彼が犯罪者だって言えるの? 一日中、彼について回って見ていたとでも言うの?」
自分の親戚に対して、村の近くに住む風変わりで謎の青年バーニーのことをヴァランシーが弁護するこのシーンは圧巻。
「ヤツは犯罪者だ。」「人を殺したこともあるらしい」と、伝聞と憶測で人を嫌う感じがすごく現れている。ヘイトスピーチみたい。バーニーを弁護するヴァランシーのことをみんなで寄ってたかって「気が触れた」と言う。 そして、自分たちの偏見にはまったく気づかない。

"What has he done?" asked Valancy suddenly.

Uncle Wellington stared at her, forgetting that she was to be ignored.

"Done! Done! He's done everything."

"What has he done?" repeated Valancy inexorably. "What do you know that he has done? You're always running him down. And what has ever been proved against him?"

バーニーはその謎の暮らしぶりから、村人からは殺人者だ前科者だと噂されていたが、 実際の彼は知的水準も高く紳士であり、「ウォールデン」のソローのようなイメージ。


● 未婚の母となるもその赤子を亡くしたシシー。そして更に不幸なことに彼女は重い病によりもうすぐ死を迎えようとしていた。村人は未婚の母だった彼女を身持ちの悪い女だと遠ざけて誰も付き合おうとしなかった。自らの死期を知っているヴァランシーは幼馴染のシシーを看病するために一緒に暮らすことを決める。
「とても孤独だったの。」と泣きながらヴァランシーにしがみつくシシー。 そして大事なことに気づく。 今まで親戚一同から邪魔者扱いされてきたヴァランシーは、人に必要とされることの幸せを初めて実感する。

The last time Valancy had seen Cecilia Gay those faded, piteous eyes had been limpid, shadowy blue pools aglow with mirth. The contrast was so terrible that Valancy's own eyes filled with tears. She knelt down by Cissy and put her arms about her.

"Cissy dear, I've come to look after you. I'll stay with you till--till--as long as you want me."

"Oh!" Cissy put her thin arms about Valancy's neck. "Oh--will you? It's been so--lonely. I can wait on myself--but it's been so lonely. It--would just be like--heaven--to have some one here--like you. You were always--so sweet to me--long ago."

Valancy held Cissy close. She was suddenly happy. Here was some one who needed her--some one she could help. She was no longer a superfluity. Old things had passed away; everything had become new.

家を飛び出してシシーの看病をするヴァランシー。バーニーは言う。

「こんな状態でシシーの面倒をみるなんて君はなんていい人なんだ。」

「とんでもない。私はここが好きなだけ。好きでやってるだけよ。 Mt.Gay(シシーの老父)もお手伝いのお給金を払ってくれるし。 ほら、私、今まで働いてお金をもらったことないのよ。 こういうの、いいなぁと思って。」
前科者と噂されているバーニーだが、彼女は彼にはなんでも話せるような気がした。

「君がシシーにしてあげていることは、世界中のお金を集めても買えないような素晴らしいことだよ。」

"Miss Stirling, you're a brick! You're a whole cartload of bricks. To come here and look after Cissy--under the circumstances."

"There's nothing so bricky about that," said Valancy. "I'd nothing else to do. And--I like it here. I don't feel as if I'd done anything specially meritorious. Mr. Gay is paying me fair wages. I never earned any money before--and I like it." It seemed so easy to talk to Barney Snaith, someway--this terrible Barney Snaith of the lurid tales and mysterious past--as easy and natural as if talking to herself.

"All the money in the world couldn't buy what you're doing for Cissy Gay," said Barney. "It's splendid and fine of you. And if there's anything I can do to help you in any way, you have only to let me know.


● 29歳で初めてギフト(キャンディーボックス)をもらったなんて、可哀想過ぎる。
バーニーからの贈り物があまりにも嬉しすぎて勿体無くて食べられなかったヴァランシー。 彼女の心が急速にバーニーに流れ始めた。そしてずっと彼のことを考えている自分に気づくのである。
「彼が自分のことをどう思っているのか知りたい!」
「自分の事を好きになってくれなくてもいい。自分はあと僅かしか生きられないし。 でも自分は彼が好きなのはどうしようもない!」
なんと思い切りのいい。

He always brought Cissy fruit and flowers. Once he brought Valancy a box of candy--the first box of candy she had ever been given. It seemed sacrilege to eat it. She found herself thinking of him in season and out of season. She wanted to know if he ever thought about her when she wasn't before his eyes, and, if so, what.


● 死期が迫っているとの同情からヴァランシーからの突撃プロポーズを受けて結婚したバーニー。 しかし彼女と過ごす時間の中で同情が愛情に変わる。 彼の心は急速に彼女に惹きつけられるようになった。
「僕が森を抜けて帰るとき、遠くから家に灯りが灯っているのが見えるんだ。 そして君がそこに居てくれることを実感するんだ。 こんな風に思うこと、今まで無かった。僕は本当に嬉しいんだ」
ロマンチックが過ぎるだろ。

"Ah, now you have it," said Barney. "That's all the freedom we can hope for--the freedom to choose our prison. But, Moonlight,"--he stopped at the door of the Blue Castle and looked about him--at the glorious lake, the great, shadowy woods, the bonfires, the twinkling lights--" Moonlight, I'm glad to be home again. When I came down through the woods and saw my home lights--mine--gleaming out under the old pines--something I'd never seen before--oh, girl, I was glad--glad!"


同情から始まった結婚だが、バーニーに変化が。

"You do laugh beautifully," Barney told her once. "It makes me want to laugh just to hear you laugh. There's a trick about your laugh--as if there were so much more fun back of it that you wouldn't let out. Did you laugh like that before you came to Mistawis, Moonlight?"

"I never laughed at all--really. I used to giggle foolishly when I felt I was expected to. But now--the laugh just comes."

It struck Valancy more than once that Barney himself laughed a great deal oftener than he used to and that his laugh had changed. It had become wholesome.


● しかし、突然に二人に訪れる別れ。 なんと、ヴァランシーの余命一年とは誤診だった。 結果としてバーニーを騙して自分と結婚させてしまったことになった。 もう彼の前には姿を見せられない。「騙すつもりはなかった」と置き手紙を書き、彼のいない間に立ち去ったヴァランシー。 勤めて事務的に事実のみを書いた。 そうしないと涙が溢れて止まりそうになかったから。

"Dear Barney:--

I went to Dr. Trent this morning and found out he had sent me the wrong letter by mistake. There never was anything serious the matter with my heart and I am quite well now.
I did not mean to trick you. Please believe that. I could not bear it if you did not believe that. I am very sorry for the mistake. But surely you can get a divorce if I leave you. Is desertion a ground for divorce in Canada? Of course if there is anything I can do to help or hasten it I will do it gladly, if your lawyer will let me know.
I thank you for all your kindness to me. I shall never forget it. Think as kindly of me as you can, because I did not mean to trap you. Good-bye.

Yours gratefully, Valancy."

It was very cold and stiff, she knew. But to try to say anything else would be dangerous--like tearing away a dam.

さあ、二人のその後はどうなるのか…
まあモンゴメリーなんで、だいたい想像つくでしょうけどね。

ところどころで登場するヴァランシーの夢の「青い城」が実現したバーニーと暮らす森の生活の描写がカナダの自然と相まってとても美しい文章だと感じました。


ところで。
業田良家さんの「自虐の詩」というマンガをご存知ですか。幸江と言う名の周りから見ると不幸としか思えないが本人は愛に溢れて幸せというある女性の生い立ちを綴った四コマのギャグ漫画なんですけど、軽い内容かなと手にしてみると読んでいくうちにズンズンと引き込まれていく。 それが段々感動に変わっていくという類稀なる感動ギャグ漫画なのです。 そう、この主人公の不幸を物ともせず、健気に人生を謳歌していこうという姿がこのヴァランシーに重なるのです。 未読の方、良かったら手にしてみて下さい。

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Factfulness (Hans Rosling) - 「ファクトフルネス」- 231冊目

ジャンル: ノンフィクション
英語難易度: ★☆☆
オススメ度: ★★★☆☆

「人は自分が見たいように見る」
かなりの意訳らしいですが、カエサルの言葉です。 本来は客観的であるはずの事実に対して、人はそれぞれが自分の考え方に合うように解釈(曲解)して判断するという意味だったと思います。 自身の思考フィルターを通過して入ってきた事実はその時点でいくらかの客観性が失われているということなのでしょう。

新聞、テレビ、ツイッターを読むと凄惨な事件が毎日のように取り上げられています。私たちの世界はこれからどうなっていくんだろうと気が滅入ることが多くあります。しかし、これも(決してそのようなネガティブな状況を望んでいるわけではないが) 、読者の注意を引く「読みたい」記事がクローズアップされているからなのでしょう。

「いい話はニュースにならない」これはホントにそう思います。 マスコミ・ジャーナリズムの運命とでもいいましょうか。「少しずつ、かつゆっくりではあるものの、私たちを取り巻く世界・生活は良くなってる」なんてのは記事にはなりません。 そのようなメディアは売れるはずもなくビジネスとして成り立ちません。

私たちがネガティブなニュースに気を取られる理由は生物の進化過程において獲得された本能によるものだそうです。 つまり生命の危険を避けるために、ネガティブかつ即時的なリスク情報を過大視させ注意を引くようにセットされているという事であると、今日の紹介本 Hans Rosling「Factfulness」で主張されています。 厳然として存在する危機について目を背ける事が良くない事であると同時に、危険を必要以上に過大視することも同様に正しくないと著者は指摘しています。

思い込みと事実はいかに異なるかについて、具体的な事実をデータで示しながら説明されています。 データの裏付け確認もせず世間で声高に叫ばれている主張に雰囲気で乗っかって判断することの何と危険なことか。 なるほどと首肯することが多い。 でもこの手の話を書いた人は寡聞にして知りません。コロンブスの卵のようですね。 気付いて書ける、これがすごい事なのでしょう。英文も平易で読みやすいですよ。
(2018年発刊)


メモポイント
● この一言に尽きる。
「我々を取り巻く世界は少しずつではあるが、確実に良くなってきている。これは事実に基づいた世界観だ」

Step-by-step, year-by-year, the world is improving. Not on every single measure every single year, but as a rule. Though the world faces huge challenges, we have made tremendous progress. This is the fact-based worldview.


● これぞこの本の主題。主張の根拠をファクト・エビデンスで示せ。

I liked her definition because it was so clear. We could check it against the data. If you want to convince someone they are suffering from a misconception, it’s very useful to be able to test their opinion against the data.


● レベル4とは先進国での生活標準のこと。 欧米諸国は自国の文化のみ優れており他国は未開で劣っていると考えがち。もっと謙虚な姿勢を持つ事で、勘違いしないようにと戒めている。

Be cautious about generalizing from Level 4 experiences to the rest of the world. Especially if it leads you to the conclusion that other people are idiots.
(中略)
Assume people are not idiots. When something looks strange, be curious and humble, and think, In what way is this a smart solution?

この視点はすごく大事。ツイッターでも何でも高みから諭すように声高に意見を述べる人はこの誤謬に陥っているかもしれない。 自分だけがよく分かっていて周りは愚鈍だと考える。 でも大抵の場合は自分だけが優れているなどあり得ない。単なる勘違い。


● 善意から来る誤解は最も始末に困る。 これは出口治明氏も著書の中で述べていた。 相手が悪人ならば自身の行動を理解しているので交渉による取り引きもできる。 しかし善意による思い込みは、分かっていないが故に別の視点に気づかせるのは容易ではない。

When seemingly impregnable logic is combined with good intentions, it becomes nearly impossible to spot the generalization error.


● 分かりやすい主張、単純な主張、極論は耳に残り受け入れやすい。しかし、必ずしも真実を表しているとは限らない。「分かりやすい説明」がもてはやされる風潮があるが、複雑な説明が不可避な場合も間違いなく存在する。 現実はもっと複雑なのだ。

We find simple ideas very attractive.


● ある社会に環境の向上が見られる場合、その貢献をトップやリーダーなどの一個人に帰するケースが多いが、実際には個人としての影響力などたかが知れている。実際にものを言うのは、Institution (制度・仕組み)とtechnology (技術の進歩)だ。

It must make one ask if the leaders are that important. And the answer, probably, is no. It’s the people, the many, who build a society.
(中略)
The fight against the lethal Ebola virus was won not by an individual heroic leader, or even by one heroic organization like Médecins Sans Frontières or UNICEF. It was won prosaically and undramatically by government staff and local health workers, who created public health campaigns that changed ancient funeral practices in a matter of days; risked their lives to treat dying patients; and did the cumbersome, dangerous, and delicate work of finding and isolating all the people who had been in contact with them. Brave and patient servants of a functioning society, rarely ever mentioned—but the true saviors of the world.

アフリカの僻地でエボラ熱の脅威から世界を救ったのは一人のヒーローではなく、平凡なしかし勇気ある現場の公務員たちの目立たない努力とそれを可能にした仕組みづくりだった。事の成果を属人的に考えるのは分かりやすいが、大抵の場合は一人の力でできるものではない。


● また同様に、一人のトップが悪者となって世界・環境を悪化させると言うこともあり得ない。 悪者を作って責めることは簡単で分かりやすいがそれでは事態の改善には繋がらない。

• Look for causes, not villains. When something goes wrong don’t look for an individual or a group to blame. Accept that bad things can happen without anyone intending them to. Instead spend your energy on understanding the multiple interacting causes, or system, that created the situation.

• Look for systems, not heroes. When someone claims to have caused something good, ask whether the outcome might have happened anyway, even if that individual had done nothing. Give the system some credit.


なお、著者はこの本の出版を待たずにガンで亡くなられたそうです。 本の最後に共著者でもある息子夫婦のOlaとAnnaが、エピローグとしてその最後のやり取りを描いています。 短文ですが父親に対する愛情溢れる文章です。


ところで。
上でも書きましたが、出口治明氏の著書にも同様の主張が記されています。 氏は「数字・ファクト・ロジック」で判断することの重要性を説いています。 また、個人の力量には大差なく(人間はみんなちょぼちょぼやと)、仕組み作りが大事だとも書かれています。 興味ある人はぜひ読んでみてください。 (出口治明・著「人生の教養が身につく名言集」)
この書名はちょっとアレで、「なんちゃって」ビジネス書っぽいですが… 読書を通じて氏が得た洞察力に納得することしきりでしたよ。

Factfulness: Ten Reasons We're Wrong About the World?and Why Things Are Better Than You Think (English Edition)

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First Steps in SAP Controlling (CO) (Ashish Sampat) - 230冊目

ジャンル: ビジネス・経済
英語難易度: ★☆☆
オススメ度: ★★☆☆☆

今回はERP(基幹系の統合情報システム)導入の勉強の為に、業務上必要になって読んだ本です。 備忘記録の為にここに書いているだけなもんで、特に感想という程のものはありません。

ただ、この手の本は無味乾燥なマニュアル仕様が多くて取っつきにくいのが普通ですから、少しでも楽しんで読めるような読み物仕立てのものがないかと物色していました。

そこでKindle の試し読みサンプルで見つけたのが本作。 一見、読み物仕立て風。「 おっ、エリヤフ・ゴールドラット(Eliyahu Goldratt)の「ザ・ゴール (The Goal)」(188冊目に感想)みたいに主人公が出てきて専門的な内容を噛み砕いて説明するヤツか。これはありがたい、と早速、買い求めました。


ビジネス洋書にはよくあるパターンの各章の最初に格言みたいなのもついてました。
(こんなの↓)

“さて株主の皆様、今回の我々の半期決算の損益計算書には、ほんの些細なタイプミスがあったことをご報告いたします。 それは表最下段に記載された「Profit」の文字は「Loss」の誤りでした。” (元CFO)


ふん。なるほど。 そんなに面白いジョークでもないけど、こんな軽いタッチなら読みやすいかも… ふんふん、主人公はアレックスって名前なんだ。これも「ザ・ゴール」とおんなじだな。(この著者はザ・ゴールのファンなのかもしれない)

アレックスの新しいボス、ボブが職場の仲間を紹介する。「私はエリン。Finance とAccounting を担当しているの。よろしくね、アレックス。」 ボブは「SAPのControlling のことならなんでも彼女に聞いてくれ」

アメリカのシットコムのような画像が浮かんでくる。 おお、いいぞいいぞ。この2人はこの後、プロジェクトを進める方針を巡って熱いバトルを展開するのかもしれない。それとも真摯に取り組むけど空回りして業務に悩むアレックス、そして彼の無精髭の残る疲れた表情を心配するエレン、やがて彼女の心が同情から愛情に変わっていくのにたいして時間はかからなかった、とか。 浮気を疑うアレックスの奥さんとの小競り合いもあるかもな。 よしよし。


“「さて、このSAPの社内業務マニュアルを読むとするか。」アレックスはマニュアルを読み始めた…”


はい、ここからずっと画面と機械的なシステムの説明が最後まで続きます。なんだこれ、おかしいな…

それでも最後まで読みました。
結果: アレックスはSAPに関する新しい業務を学びました。おしまい。

恋愛や駆け引きや、はたまた裏切りなど何もない。
「 猿でも分かる」とうたったお勉強系マンガテキストを開いてみたら、最初の5ページだけがイラスト付きマンガで後は業務マニュアルがただ付けられていただけだった、という感じでした。

まあ、これは著者のせいではなく、こっちが勝手にそんな展開を勘違いしただけで、これはこれで有用な本なんですけどね。
それにしてもこんなことなら最初からもっと初心者向けの参考書然とした本を探せばよかったなあ、という感想でした。

どっとはらい

First Steps in SAP Controlling (CO) (English Edition)

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Rebecca (Daphne Du Maurier) - 「レベッカ」- 229冊目

ジャンル: 小説 (ミステリー)
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★☆☆

一言で言うと、少女の恋愛妄想暴走小説。とにかく果てしなく妄想する新妻。
そんな感じです。
ヒッチコックの映画でも有名なお話です。

あらすじを少し。 主人公である「私」(年の頃なら二十歳少し超えの妙齢の女性。彼女の具体的な名前はこの小説内では一切出てきません。)は、モンテカルロの高級ホテルでバカンスを過ごす金持ちで少し粗野なアメリカ人奥様の小間使い(「コンパニオン」との肩書きですが)として雇われる。 ボンビーガールで他に選択肢のない「私」は嫌々ながらもお金のために奥様の雑用をこなす毎日だった。 そんなある日、いかにも裕福な年配の紳士マキシムとこの高級ホテルで出会う。みるみるうちに打ち解けた二人は一緒にドライブに行くまでの親密な仲に。 そして奥様がホテルを立つことになったその日、涙ながらにマキシムに別れを告げに行った「私」。 ところがなんと彼から逆にプロポーズされることに。 彼はイギリスの名門貴族マキシム・デ・ウインター。 マンダレーにある彼の邸宅とは、「私」が幼い頃に持っていた絵葉書の写真にあった憧れの城だった事が分かる。ボンビーガールから名門貴族のデ・ウインター夫人となった彼女の妄想が炸裂する。

新妻となった「私」は舞い上がりつつ、新居の邸宅に来たものの、すぐに歓迎されていない雰囲気に気づく。一年前にボートの遭難で不慮の事故死をとげた前妻のレベッカは絶世の美女でファッションセンスも素晴らしく非の打ち所がない女性だった。 レベッカの幼い頃からの付き人で、邸宅の家事の一切を取り仕切る痩せた鶏ガラ幽霊のような家政婦のデンバース夫人は、後妻で人見知りの「私」に冷たく当たる。慇懃無礼な召使いたちもどこか小馬鹿にしているよう。 旦那もあまり真面目に「私」の悩みに取り合ってくれない。 邸宅のあちこちには亡きレベッカがまだ暮らしているかの様に整えられている。
「ああ、やっぱり旦那様はまだレベッカのことを愛しているんだ。彼女には勝てるわけがない。デ・ウインター夫人は未だにレベッカなんだ」とノイローゼ気味になり、ついには自死までも考え始める「私」。
そしてウインター家を取り巻くこの不穏な人間関係には実は驚きの秘密が隠されていた…
(1938年発刊)



メモポイント
● 上にも書きましたが、この話の見どころは何と言っても、「私」の豊かな脳内妄想の表現でしょう。 結構、このシーンは気に入ってます。
恋心を抱いたマキシムに涙ながらに別れを告げる前の妄想シーン。いかに彼が「私」のことをいとも簡単に忘れるだろうと、自虐的にはこれでもかこれでもかと書き連ねます。

He would go back to Manderley, of course, in a few weeks; I felt certain of that. There would be a great pile of letters waiting for him in the hall, and mine amongst them, scribbled on the boat. A forced letter, trying to amuse, describing my fellow passengers. It would lie about inside his blotter, and he would answer it weeks later, one Sunday morning in a hurry, before lunch, having come across it when he paid some bills. And then no more. Nothing until the final degradation of the Christmas card. Manderley itself perhaps, against a frosted background. The message printed, saying ‘A happy Christmas and a prosperous New Year from Maximilian de Winter.’ Gold lettering. But to be kind he would have run his pen through the printed name and written in ink underneath ‘from Maxim’, as a sort of sop, and if there was space, a message, ‘I hope you are enjoying New York.’ A lick of the envelope, a stamp, and tossed in a pile of a hundred others.


● そして実際にホテルの部屋に赴いて別れの挨拶を告げた時にマキシムは…

‘Come in,’ he shouted, and I opened the door, repenting already, my nerve failing me; for perhaps he had only just woken up, having been late last night, and would be still in bed, tousled in the head and irritable.
He was shaving by the open window, a camel-hair jacket over his pyjamas, and I in my flannel suit and heavy shoes felt clumsy and over dressed. I was merely foolish, when I had felt myself dramatic.
‘What do you want?’ he said. ‘Is something the matter?’
I’ve come to say good-bye,’ I said, ‘we’re going this morning.’
He stared at me, then put his razor down on the washstand.
‘Shut the door,’ he said. I closed it behind me, and stood there, rather self-conscious, my hands hanging by my side.
‘What on earth are you talking about?’ he asked. ‘It’s true, we’re leaving today. We were going by the later train, and now she wants to catch the earlier one, and I was afraid I shouldn’t see you again. I felt I must see you before I left, to thank you.’
They tumbled out, the idiotic words, just as I had imagined them. I was stiff and awkward; in a moment I should say he had been ripping.

(中略)

‘So Mrs Van Hopper has had enough of Monte Carlo,’ he said, ‘and now she wants to go home. So do I. She to New York and I to Manderley. Which would you prefer? You can take your choice.’
‘Don’t make a joke about it; it’s unfair,’ I said; ‘and I think I had better see about those tickets, and say good-bye now.’
‘If you think I’m one of the people who try to be funny at breakfast you’re wrong,’ he said. ‘I’m invariably ill-tempered in the early morning. I repeat to you, the choice is open to you. Either you go to America with Mrs Van Hopper or you come home to Manderley with me.’
‘Do you mean you want a secretary or something?’
‘No, I’m asking you to marry me, you little fool.’


● マキシムのプロポーズを受けて、デ・ウインター夫人への道が開かれた「私」。 その瞬間から、幼いやんちゃな息子たちに囲まれて豪邸で暮らす幸せな家庭の妄想が始まります。

We should grow old here together, we should sit like this to our tea as old people, Maxim and I, with other dogs, the successors of these, and the library would wear the same ancient musty smell that it did now. It would know a period of glorious shabbiness and wear when the boys were young–our boys–for I saw them sprawling on the sofa with muddy boots, bringing with them always a litter of rods, and cricket bats, great clasp-knives, bows-and-arrows.
On the table there, polished now and plain, an ugly case would stand containing butterflies and moths, and another one with birds’ eggs, wrapped in cotton wool. ‘Not all this junk in here,’ I would say, ‘take them to the schoolroom, darlings,’ and they would run off, shouting, calling to one another, but the little one staying behind, pottering on his own, quieter than the others.


● 今度はある事件がキッカケで、マキシムから嫌われていると思い込む「私」。 妄想がネガティブに振れたときもすごい。
マンダリーに嫁いで来て一生懸命に上流階級に合わせようとする「私」だが、空回りする描写は痛々しい。 期待に胸を膨らませてきたが、実態は自分には務まりそうもないと分かってきてからの焦りや絶望感。

I had not come down for Maxim’s sake, for Beatrice’s, for the sake of Manderley. I had come down because I did not want the people at the ball to think I had quarrelled with Maxim. I didn’t want them to go home and say, ‘Of course you know they don’t get on. I hear he’s not at all happy.’ I had come for my own sake, my own poor personal pride. As I sipped my cold tea I thought with a tired bitter feeling of despair that I would be content to live in one corner of Manderley and Maxim in the other so long as the outside world should never know. If he had no more tenderness for me, never kissed me again, did not speak to me except on matters of necessity, I believed I could bear it if I were certain that nobody knew of this but our two selves. If we could bribe servants not to tell, play our part before relations, before Beatrice, and then when we were alone sit apart in our separate rooms, leading our separate lives.


ネタバレになるので未読の方はここでストップ。


上に書いたマキシム激怒の事件とは、マンダレーの屋敷で行われた結婚お披露目パーティーでの一幕。 亡きレベッカに心酔していた家政婦のデンバース夫人に騙されて、在りし日のレベッカと同じドレスを着てサプライズパーティーに挑んだ「私」(もちろん、「私」はこのドレスがレベッカがかつて選んだものとは知りません)。
喜んでくれると期待に胸膨らませていたところから、マキシムの逆鱗に触れて一気に奈落の底に。パーティーを台無しにできないので健気に振る舞うも悲しみに涙が止まらない。このシーンは不憫すぎて本が手放せない。 がぜん面白くなってきます。


前妻レベッカの隠された秘密姿がこの事件の後にだんだんと解き明かされていきます。この辺り、かなり面白いので未読の方は実際に手にして読んでみてはいかがでしょう。 そうですね、イメージでは映画「イヴの総て」に重なる感じです。

Rebecca (Virago Modern Classics Book 300) (English Edition)

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