ジャンル: 小説(SF)
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★★☆
ふーっ、やっと読み終わりました。 この長いストーリーの前半にあたる「Blackout 」(238冊目)を含めると全部で1400ページ超! 途中で何度リタイヤしようと思ったことか。 後半の章である本作の二割ぐらいに達してからからようやく話が面白くなり出しました。すれ違いばかりの登場人物たち。 本当にもどかしくてイライラする小説。 これがコニー・ウィリスの「売り」なんでしょうけど、どっと疲れたー。
ですが、最後まで読み終えるとその長かった苦労が十分満たされます。 ほろ苦いエンディングと、人の心の美しさがもたらす感動の嵐。 全ての伏線が見事に回収され読後感はとても素晴らしい。
前作の粗筋は以下の通りです。(再掲)
本作は、2060年のイギリス・オックスフォード大学の学生たちがタイムマシンを使って過去の世界でフィールドワーク研究をするという「オックスフォード大学・史学科」シリーズ物の一つです。 今回は第二次世界大戦の終盤のロンドンが舞台で、三人の学生がタイムトラベルを行いそれぞれが貴族の豪邸のメイド(アイリーン)、デパートの売り子(ポリー)、新聞記者(マイク)に身をやつして当時の社会に溶け込むのですが、どういう訳かタイムマシンが不調で、ダンワーシー教授率いるオックスフォード大の緊急レスキュー部隊とも連絡が取れません。未来に帰られず空襲も始まり命の危険に晒されつつある三人、どうなることかと読み進めるうちに最後のページまで来てしまいました。
(そしてここからが本作の内容。)
以前に別の研究でこの時代に来たことのあるポリー。彼女にはもう残された時間が殆どありません。 タイムトラベラーは同時間帯に同一人物として存在する事ができないので、そのデッドラインまでに未来に帰らないと消滅してしまいます。 この三人が引き続き苦しみながらも、お互い励まし助け合いながらポリーのデッドラインまでに未来に帰ろうと悪戦苦闘するのですが、どうやってもタイムマシンに辿り着けない、またたどり着いてもその扉が開かない。
そして彼らはある驚愕の真実に思い至ります。 それは彼らタイムトラベラーがふとしたきっかけで過去の歴史の歯車を少しずらしてしまったかもしれないこと、そしてその影響により歴史を大きく変えてしまったかもしれないこと。 つまり、イギリスはナチスに占領され連合国軍が敗れてしまうかもという可能性が出てきます。そして歴史には生き物のように自らの整合性を保とうする機能があり、過去の歴史を変えられないようにするために、タイムトラベラー達と彼らと直接関わったその時代の人々全ての存在自体を消そうとしているという推論が展開されます。
彼らを助けようとする未来からのレスキュー隊員も登場しますが、彼らを探そうにもどこにいるのかさっぱり分からない。1990年代の歴史博物館に飛んで当時の彼らを知る人を探そうとするなど気の遠くなる努力を続けます。
この絶望的な状況にあっても一縷の望みを失わず懸命に未来に帰る道を探そうとする彼ら。 ラストは「こう来るかー」と想像を超えた月末に思わず正座して読んでしまいました。
(2010年発刊)
メモポイント(少しネタバレ)
● 戦時中の過去に取り残された三人。 それでも生は続く。どん底からの再生。スカーレット・オハラのよう。
She fished a sixpence out of her bag, laid it on the desk, folded the picture into quarters, put it in her pocket and went outside. ‘We need to go,’ she said to Mike and Eileen.
‘We’ll be late for work. And we must take the ambulance back to Bart’s.’
‘And get my coat,’ Mike said. ‘And Eileen’s.’
‘I need to take the children home first,’ Eileen said. ‘Alf! Binnie!’ she called to them.
● タイムトラベラーのちょっとしたミスにより、過去の歴史が塗り替えられようとしている。 それを防ぐためにその歴史自身がまるで生き物のようにタイムトラベラーと過去の世界の彼らに関わった全ての人々を抹殺しようとしている。
すぐにでも周りの人との関係を断つべきと言われたアイリーン。
「孤児たちを見殺しにはできない! どうせあの子たちが死んでしまう運命を変えられないのなら、せめて私に捨てられたと傷ついて死なせる事は耐えられない。私はあの子たちを決して見捨てない」
‘Eileen—’
‘Don’t you see? If I send them away, they may be killed, and if I keep them here, they may be killed. But if I send them away, they’ll think I’m abandoning them, and that will kill them. They’ve already been abandoned by everyone they’ve ever known. They can’t survive that again. And I swore I’d take care of them.’
But don’t you see? You can’t.
● 「これは自己犠牲なんかではないのよ、ポリー。私は嬉しいの」
‘It wasn’t a sacrifice. Polly, you have no idea how much I’ve despised being helpless, how much I’ve hated knowing you and Mr Dunworthy were going to die and not being able to stop it. You saved my life that night at Padgett’s and, oh, dozens of times since then – especially after Mike died – but I couldn’t do anything to save yours.’
She clasped Polly’s hands. ‘But it wasn’t true. There was something I could – I can – do. I can stay here. I can find Colin and tell him where you are,’ she said, her face radiant. ‘And I’m so glad!’
● 「私たちを残して元の世界に帰るんでしょ?」目に一杯涙を溜めて語る孤児のビニー。 そんな彼女にアイリーンは語りかける。
‘And that’s why you had to stay here. To tell him.’
‘No, I stayed because I couldn’t leave you and Alf.’ She smiled at Binnie. ‘Who’d take care of me if I left—?’
But she didn’t get it out. Binnie had flung herself at her, her arms around her neck, clinging so tightly Eileen could scarcely breathe.
‘Binnie—’ Eileen said gently, enfolding her in her arms.
タイムトラベラーチームの中で、一番か弱く思えたアイリーン。 しかし実は彼女が最も人として成長し周りの人々を支えるまでになった。感涙を抑えられません。
●「愛する人や物のために尽くすこと、それは犠牲なんかではありません。例えそれがあなたの自由、人生、若さを費やすことになったとしても」 これが本作のモチーフです。
To do something for someone or something you loved, England or Shakespeare or a dog or justice or the Hodbins or history – wasn’t a sacrifice at all. Even if it cost you your freedom, your life, your youth.
映画化は無理でしょうね、誰が誰と同一人物か分かっちゃいますからね。クリスティのアクロイド殺しみたいな叙述トリック話です。
- 作者:Willis, Connie
- 発売日: 2011/10/20
- メディア: Kindle版