hearthのお気楽洋書ブログ

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The Eagle Has Landed (Jack Higgins) - 「鷲は舞い降りた」- 219冊目

ジャンル: 小説(アクション)
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★★☆

カッコいい男たちの話を読みたい! そう思いました。 そして評判を聞いて手にしたこの一冊。 期待は裏切られませんでした。 男前な文章があるとすれば、きっとこのような文章のことを言うのでしょう。キビキビとして硬質な文章。 読んでいて小気味よいとはこのことです。 簡潔でいて味がある。 そして感動で鳥肌が立つような心揺さぶる名シーンがいっぱい。 惚れてまうやろー! (古い…)

一言で言えば、ナチスドイツ軍によるイギリス首相チャーチルの誘拐作戦の顛末記。(もちろんフィクションです) 読み手側は、結局チャーチルは誘拐されない、ドイツ軍は敗北に終わる、この歴史の結果を知っています。 それでも、この作戦がどのように立案、遂行され、そしてほころびを見せるかについて、まるでドキュメンタリーのような冷静なタッチでリアルに描写されている、この点が本作が高く評価されている理由なのでしょう。本作以前は、小説の題材として扱われる第二次大戦時のドイツは、ナチスを中心とした典型的な悪の権化として描かれることがほとんどでした。 しかしここでのSteiner中佐の部隊のように、ドイツ軍が誇りや苦悩を同様に抱える人間として魅力的に描かれるのは、当時はかなり斬新な視点だったようです。


粗筋を簡単に。 第二次大戦末期の敗色濃いナチスドイツ軍。 ゲシュタポのトップであるヒムラーの命により、一発逆転のチャンスを狙って、連合国軍の中枢であるイギリス首相チャーチルを誘拐するという作戦が仕組まれた。 イギリスに潜伏中のおばちゃまスパイ・Mrs. Joanna Grayからの情報により、チャーチルがお忍びでイギリスのある片田舎で休養するというのだ。連合国ポーランド義勇軍幹部のフリをして標的に近づくため、白羽の矢が当たったのはドイツ人の父とアメリカ人の母を持つドイツ空軍パラシュート部隊のリーダーKurt Steiner中佐(Lt. colonel)と、アイルランド共和軍(IRA)の伝説的なテロリストLiam Devlin。 この荒唐無稽とも思われる作戦は多くの障害を乗り越えながらもかろうじて進んでいく。 そしてついに、ポーランド軍パラシュート部隊の制服に身を包み、Steiner一行は標的近くのNorfolk に何とか上陸した。その際の暗号コードが、この小説のタイトル「The Eagle Has Landed」(鷲は舞い降りた)。 上陸後、その土地の村人たちにも信用されていたSteiner中佐の部隊だが、彼らが人間らしく振る舞ったがゆえの、ある「善行」から、思いがけずもこの作戦が綻び始める…
(1975年発刊)



メモポイント (かなりネタバレあります。注意!)

● 本作を魅力的にしているポイントは男気溢れる野郎どもの話だけではない。作戦の先導役として村に潜伏したLiam Devlinと、そこで出逢った村娘Molly Priorの恋物語
Mollyは、恋人となったDevlinの不審な行動を見て彼が闇市場の違法ビジネスに手を出しているのではないかと勘違いをして、彼の身の上が気になって仕方がない。(もちろんドイツ軍のスパイとは想像もしていなかったが) そして、その後どういうわけか「彼はイギリス軍の特殊任務についているのだ」との勘違いをして安心するのだが、その彼女の安堵した時の描写があまりにも可愛らしくてたまらない。 恋人が国に忠誠を誓った信頼できる男と分かって、誤解が解けて心が飛び跳ねているよう。

「これで分かったろう、モリー。 良い子だからもうあまり詮索しないで俺からの連絡を待っていてくれ。そんなに待たせないよ」
「うん、大丈夫よ、ライアム。 信じて、もう邪魔しない!」

I thought it was something to do with the black market and you let me think it. But I was wrong. You’re still in the army, that’s it, isn’t it?’
‘Yes,’ he said with some truth. ‘I’m afraid I am.’
Her eyes were shining. ‘Oh, Liam, can you ever forgive me thinking you some cheap spiv peddling silk stockings and whisky round the pubs?’
Devlin took a very deep breath, but managed a smile. ‘I’ll think about it. Now go home like a good girl and wait until I call, no matter how long.’
‘I will, Liam. I will.’
She kissed him, one hand behind his neck and swung up into the saddle. Devlin said, ‘Mind now, not a word.’
‘You can rely on me.’


● 現場の兵士たちの双方どちらも望まない不毛な戦い。 無能な将に率いられた部下たちがどれほど悲惨なものか。 ナチスドイツのヒムラーといい、在英米国軍のShafto大佐といい。 命の重さが感覚的に理解できない。 愚かなことは罪なこと。
ヒムラーの部下でドイツ本国で誘拐作戦の総指揮を取らされるRadl中佐。 家族をナチスの人質に取られたも同然の境遇。 「常に誰かが苦しんでいる… いつまで続くのか。 神よ、この茶番を早く終わらせたまえ」力なく独りごちた。

The field car moved off and he stood looking out to sea filled with an indescribable feeling of bitterness. Someone always suffered –always. His hand ached, the eye socket burned. ‘God, how I wish it was all over,’ he said to himself softly and he turned and walked away.


● ついにDevlinの正体がドイツ軍のスパイであることがMollyにバレた。 Mollyは自分を裏切って誘拐作戦に利用したDevlinが許せず「裏切り者は皆の前で縛り首になればいいわ!」と激怒しDevlinの前に姿を現した。 しかし、Devlinの愛が真実であることを知り、これから死地に自ら飛び込もうとする彼の姿を見ると、Mollyの憎悪の念はみるみる萎んでいく。

Molly said, ‘What are you going to do?’
‘Into the valley of death, Molly, my love, rode the six hundred and all that sort of good old British rubbish.’ He poured himself a glass of Bushmills and saw the look of amazement on her face. ‘Did you think I’d run for the hills and leave Steiner in the lurch?’ He shook his head. ‘God, girl, and I thought you knew something about me.’
‘You can’t go up there.’ There was panic in her voice now. ‘Liam, you won’t stand a chance.’ She caught hold of him by the arm.
‘Oh, but I must, my pet.’ He kissed her on the mouth and pushed her firmly to one side. He turned at the door. ‘For what it’s worth, I wrote you a letter. Not much, I’m afraid, but if you’re interested, it’s on the mantelpiece.’

The door banged, she stood there rigid, frozen. Somewhere in another world the engine roared into life and moved away. She found the letter and opened it feverishly. It said: 「Molly, my own true love. ......


● 村の子供たちが足を踏み外して川に落ちてしまった。溺れかけた子供たちの命を救うために命を落としたSteiner 中佐の部下の勇気ある行動により、彼らの出自がドイツ軍であることがバレてしまい、Steiner 達は在英米国軍の襲撃を受けて窮地に陥ることになる。 絶対絶命の中、助けた少年の母親にSteiner が声をかける。
「(溺れた友達を救おうと川に飛び込んだ) 勇敢な息子さんだ。」
その少年はSteinerを見上げて尋ねる。
「おじさん達はどうしてドイツ人なの? どうして僕たちの味方じゃないの?」
Steiner は思わず声に出して笑って、その母親に言った。
「さあ、息子さんを連れて行きなさい。なんとも答えに困ってしまう質問なんでね。」

‘He’ll be all right, Mrs Wilde,’ the young Oberleutnant said. ‘I’m sorry about what happened in there, believe me.’
‘That’s all right,’ she said. ‘It wasn’t your fault. Would you do something for me? Would you tell me your name?’
‘Neumann,’ he said. ‘Ritter Neumann.’
‘Thank you,’ she said simply. I’m sorry I said the things I did.’ She turned to Steiner. ‘And I want to thank you and your men for Graham.’
‘He’s a brave boy,’ Steiner said. ‘He didn’t even hesitate. He jumped straight in. That takes courage and courage is something that never goes out of fashion.’
The boy stared up at him. ‘Why are you a German?’ he demanded. ‘Why aren’t you on our side?’
Steiner laughed out loud. ‘Go on, get him out of here,’ he said to Betty Wilde. ‘Before he completely corrupts me.’



後半は、映画「ワイルドバンチ」状態のハードな銃撃戦が展開。 死地で育まれる男達の絆。 望月三起也のマンガで読みたいところです。
そして事件から数十年後にエピローグとして語られる後日談。あっと驚く展開が残されています。


それから、ドイツ軍を魅力的に描いた作品として、Uボート乗組員達の物語、Robert Kurson「Shadow Divers」(38冊目)もオススメです。

The Eagle Has Landed (English Edition)

The Eagle Has Landed (English Edition)

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