ジャンル: 哲学
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★☆☆
孫子の戦略論の英語タイトルは「The Art of War」、そして本作、エーリッヒ・フロムによる愛に関する考察のタイトルは「The Art of Loving 」、「愛する」ということは、習得が可能であり、またそのためにはある種のトレーニングが必要となる「技」なんですね。 大事なポイントは、この本は愛される人になるための指南書ではなく、いかにして自らが能動的に人を愛せるようになるかということ。 この一点が世にたくさんある一山いくらの軽い「愛され」本とは違うのでしょうね。 そしてよく言われるような「一瞬で恋に落ちる」などの恋愛は、本当の意味での愛ではなく、性欲に基づいた本能のままの行動であり、その情熱は長続きせず時とともに薄れていく、と説いています。
この本で説明されている愛とは、恋愛のみに限った話ではありません。 母や父、我が子に対する家族愛や友愛、また自己愛についても含めて論じています。 相手のことを大事にする、つまり相手の思いに配慮して相手がきちんと生きていけるように責任を持ち相手の人格を尊重し、そして相手の立場になってその人を良く理解しようとする。 これが愛する技術であり、そしてその「人を愛せる人」こそが人から愛される人なのだと説いています。 結局は人に愛を与えられる人が最も幸せな人なのかもしれません。
(1956年発刊)
メモポイント
- 「恋に落ちる」とは、恋愛市場という取引場において様々な選択肢(付き合う相手)の中から、自分自身の持ち札(価値レベル)を考慮しつつ、等価よりも少しでも高い価値のある相手を獲得しようとする取引。 結構、生々しい表現。
the object should be desirable from the standpoint of its social value, and at the same time should want me, considering my overt and hidden assets and potentialities. Two persons thus fall in love when they feel they have found the best object available on the market, considering the limitations of their own exchange values.
- 愛とは学習により習得できる技術である。
The first step to take is to become aware that love is an art, just as living is an art; if we want to learn how to love we must proceed in the same way we have to proceed if we want to learn any other art, say music, painting, carpentry, or the art of medicine or engineering.
- 愛とは能動的なものであり、受け身なものではない。 知らず知らずのうちに恋に落ちるのではなく、自ら選択するものである。 愛とは受け取るものではなく、与えていくものである。
Love is an activity, not a passive affect; it is a “standing in,” not a “falling for.” In the most general way, the active character of love can be described by stating that love is primarily giving, not receiving.
- 愛は与えることにて育まれる。性行為も出産もそう。すべての喜びは受け身ではなく、自ら相手に愛を与えることで満たされる。
The culmination of the male sexual function lies in the act of giving; the man gives himself, his sexual organ, to the woman. At the moment of orgasm he gives his semen to her. He cannot help giving it if he is potent. If he cannot give, he is impotent. For the woman the process is not different, although somewhat more complex. She gives herself too; she opens the gates to her feminine center; in the act of receiving, she gives. If she is incapable of this act of giving, if she can only receive, she is frigid. With her the act of giving occurs again, not in her function as a lover, but in that as a mother. She gives of herself to the growing child within her, she gives her milk to the infant, she gives her bodily warmth. Not to give would be painful.
(中略)
Not he who has much is rich, but he who gives much. The hoarder who is anxiously worried about losing something is, psychologically speaking, the poor, impoverished man, regardless of how much he has.
- 産まれたての赤ん坊が大きくなるにつれて、自分のリアクションで母親が喜ぶことを知る。そこで初めて一方的に愛を受け取るのではなく、相手に愛を与えることの喜びを知る。 愛されるよりも愛する方が大きな喜びとなることを覚えるのだ。
For the first time, the child thinks of giving something to mother (or to father), of producing something—a poem, a drawing, or whatever it may be. For the first time in the child’s life the idea of love is transformed from being loved into loving; into creating love. It takes many years from this first beginning to the maturing of love. Eventually the child, who may now be an adolescent, has overcome his egocentricity; the other person is not any more primarily a means to the satisfaction of his own needs. The needs of the other person are as important as his own—in fact, they have become more important. To give has become more satisfactory, more joyous, than to receive; to love, more important even than being loved.
私の敬愛する読書ブロガーに「スゴ本の中の人、Dain さん」という人がおられるのですが、この方が以前にどなたかの本からの引用でしょうか、次のような話をツィート(今はXですね)されていました。 人を愛することを端的に表しているなー、と感じたので印象に残っています。
"電話の声が素敵だね、とか 笑った皺がかわいいね、とか お茶碗の洗い方が丁寧だね、とか、 ほんとにもうなんでも、どんな小さな、ささいなことでもよくて、 「他人」という目線でそのひとの素敵なポイントを見つけて、 言葉にして手渡してあげることだと思っています。
ひたすら相手のいいところを見つけて言葉で肯定し続ける、 その積み重ねは自信になって、その自信はわたしがいなくなっても わたしの大切なひとをつらいことから守る盾になってくれると思っています。"
愛する人と家庭を築き子を持つ親となって、歳を重ねるとともにこの気持ちが分かってきたような気がします。 与えることは与えられることよりも大きな喜びとなり、自分一人の満足よりも自分の愛する人の笑顔を見ることに幸せを感じる。 本当にそう思えます。