hearthのお気楽洋書ブログ

洋書読みの洋書知らず。永遠の初心者。 まったりとkindleで多読記録を更新中 (Xは、hearth@洋書&映画)

There's a Boy in the Girl's Bathroom (Louis Sachar) -296冊目

ジャンル: 小説(児童)
英語難易度: ★☆☆
オススメ度: ★★★★☆

 ずっと昔に読んだ灰谷健次郎の「兎の眼」を思い出しました。 頑なで扱いにくい(と思われてきた)問題児の少年と、彼に寄り添い心を通わせていく心優しき女先生や周りの友だちの物語。 
 洋書多読ファンの中ではこの本はかなり有名なようですね。 たくさんの感想がウェブに上がっています。 著者は名作「Holes」(5冊目)を書いたLouis Sachar。 ベタなのかもしれませんが、こういう話、好きです。

 粗筋を少し。 主人公の小学生ブラッドリーは人と心を通わせることが苦手で勉強にもついていけないクラスの嫌われ者。 そしてわざと周りに嫌われ期待されないことで、諦めとどこか安心感を覚えている少年でした。 それにしても、このブラッドリーのひねくれ具合、嘘つき具合がハンパない。ここまでウソを平気でつけるようになってしまったこれまで過ごしてきた日々を思うと、読むのが辛くなってきます。 甘過ぎるけど優しい母親と、ちょっと厳格だけどまともな感性の父親、弟をからかうものの愛情もある姉と暮らしていて、なぜこんなにも頑なになってしまったのか、不思議なくらい。
 そんな彼が学校の嘱託カウンセラー、カーラ先生と出会います。 カーラ先生はブラッドリーを一切否定しません。 彼の良いところを見つけ出し根気よく話しかけ続けたことで、彼は少しずつ心の壁を開き、やがてクラスのみんなに受け入れられるというストーリー。 そしてラストは単純なハッピーエンドではありませんでした。 少しのほろ苦さが深みを添えることによって、この本が多くの人に愛されている理由が分かった気がします。
(1987年発刊)


メモポイント(ネタバレ注意)

  • 担任のエベル先生から、息子のブラッドリーがいかに問題児であるか聞かせられる母親。改善されるかどうか分からないないが、特別にカウンセリングを受けるかどうか提案をされる。「あの子は本当はいい子なんです!」 母の無償の愛。どれほど手のかかる子供でも、母は愛し続ける。

 “The school has just hired a counselor,” said Mrs. Ebbel. “I’d like your permission for Bradley to begin seeing her once a week.”
 “Anything that will help my son,” said Mrs. Chalkers.
  “I don’t know if she can help him or not,” said Mrs. Ebbel. “Bradley has a very serious behavior problem. If he doesn’t show improvement soon, more drastic measures will have to be taken.”
 “Deep down, he really is a good boy,” said Bradley’s mother.
 

  • Miss Davis(カーラ先生)と母親の出会い。「おお、あなたがブラッドリー・チョーカーのお母様ですね! 」

 おすおずとうなずく母親。 
「 ここに私が赴任してからまだ3時間も経ってないんですが、ホントにぜーんぶの先生方からブラッドリーがいかに恐ろしいか、気をつけた方がいいよ、という忠告をわざわざしに来てくれましたよ」と新任のカウンセラー。 
「おお先生、どうか。あの子は本当は良い子なんです!   あの子は…」
 遮るようにカウンセラー、「ええ、だから私はブラッドリーに会えるのが待ちきれません! とてもチャーミングに思えるんですもの、会えるの、とても楽しみです」

 Miss Davis took the form from her.
 “Oh! You’re Bradley Chalkers’ mother!”
 Mrs. Chalkers nodded.
 “You would not believe all the horror stories I’ve heard about Bradley Chalkers,” said the new counselor. “I’ve been here less than three hours but it seems like every teacher in the school has dropped by to warn me about him.”
 “Deep down, he really is—” Bradley’s mother started to say.
 “I can’t wait to meet him,” the counselor interrupted. “He sounds charming, just delightful.”

  • 「友だちができたんだ!」

 飛び込んできたブラッドリーの機関銃のように喜び勇んだ説明に、前もってその情報を仕入れていたカーラ先生は、かろうじてついていくことができた。
「全部、カーラ先生のおかげだよ!」 
「良かった、でもそれはブラッドリー、あなた自身の力なの、私じゃない」
「ううん、先生の魔法の本のおかげなんだ」
「私の本? それがどうして… どうしたのブラッドリー?」
ブラッドリーは泣いて顔を隠していた。
「あなた泣いてるの? 何があったの?」
 しゃくり上げながら答えた。
「ぼく、誕生日パーティーに行ったことがないんだ。 クラスメートの女の子に誘われたんだけど、どうすればいいか分からない…」

 Fortunately, Carla had heard most of it already, otherwise she wouldn’t have understood a thing he said.
  “It’s all because of you,” said Bradley.
 “You did it, Bradley, not me.”
 “It was your magic book!”
 “My book? What’s that got to do with—Bradley, what’s wrong?”
 He was crying. One second he was beaming about her magic book, and the next he was sobbing and shaking all over.
  “Bradley?” He covered his face with his hands. Tears spilled out of his eyes. “What is it?” asked Carla.
 “What happened?”
 He shook his head. Carla rose from the table, got a box of tissues, and placed it in front of him. He pulled out a tissue, but didn’t use it.
 “I’ve never been to a birthday party,” he blubbered.

 カーラ先生の「聞く力」、カール・ロジャース(182冊目)ばりに、相手を否定せず長所を伸ばす、その接し方は物語、絵空事かもしれないけれど、それでも最高だ。

  • (カーラ先生が貸してくれた「魔法」の本の感想文を書いたブラッドリー。 それを担任のエベル先生に出してしまうと、こんなに感想文を喜んでくれたカーラ先生に渡せるものがなくなってしまう。 ブラッドリーは困っていた)

 カーラ先生は微笑んで言った。
「なんて優しい子、でも私が言ったのはそういう意味じゃないの。あなたの感想文はエベル先生に提出してほしい。私が嬉しかったのはあなたがこんなにも頑張って、素敵な感想文を書き上げたことなのよ。 それがあなたが私にくれたプレゼント。」
「ほんとに?」
「本当よ。 今まで私が貰った中で一番なプレゼントです! 」
 良かったー。 カーラ先生が喜んでくれて。しかもエベル先生にも感想文を出せるんだ… 「先生、どうしたの?」
カーラ先生は涙をぬぐっていた。 その口元がかすかに震えていた。
「泣いてるの?」
「ブラッドリー、実はあなたに伝えないといけないことがあります。 怒ったりしないで聞いてね」
 ブラッドリーは急に怖くなった。聞きたくなかった。
「明日で私がこの学校に来るのが最後の日になります。」
「えっ」
「だからあなたがそんなに素敵な感想文を書いてくれたのが本当に嬉しかったの。 あなたはもう私がいなくても大丈夫。 あなたのことはとても誇りに思うわ」
「いなくなっちゃうの?」
先生はうなずいた。
「私は別の学校の幼稚園に移らないといけないの。ここにいたのはほんの数日だったけど、あなたは私に特別な思い出をくれました。あなたに会えて本当に良かった…」
「ウソだ! そんなの、ズルいよ!」
「お願い、ブラッドリー、聞いて。 私たちまだ会えるわ。 今度の土曜日に…」
ブラッドリーは激しく首を振って、「いやだ、いやだ、行っちゃダメだー」
「行かないといけないの」

 Carla laughed and shook her head.
 “That’s very sweet, Bradley, but that’s not what I meant. I want you to give it to Mrs. Ebbel. It just makes me very happy that you did such a wonderful job. That’s the present you gave me.”
 “Really?”
 “Really,” said Carla. “It was the best present I could have gotten.”
 He thought that was great. He was able to give it to Carla and still give it to Mrs. Ebbel. “What’s wrong?”
 Carla wiped her eyes. The corners of her mouth trembled.
 “Are you crying?” he asked.
  “Bradley, I have something I have to tell you,” she said. “I hope you can listen to what I have to say without feeling scared or upset.”
 He suddenly felt very scared and upset.
 “Tomorrow will be my last day here at Red Hill School.”
 “Huh?”
 “That’s why I’m so glad you’ve written such a wonderful book report. I know you can continue to do good work without me. I’m very proud of you.”
 “You’re leaving?”
 She nodded. “I’ve been transferred. I’ll be teaching kindergarten at Willow Bend School. But I want to thank you, Bradley. You’ve made my short time here very special. I’m so glad we got to know each other.”
 “You’re leaving?”
 “We can still see each other,” she said.
 “Saturday, I’m—” He shook his head.
  “No, you can’t go. It’s not fair.”
 “I have to.”


 人と話すときはこのカーラ先生のように行うべきだと感じました。 彼女は大人ですが、大人の論理を振りかざさずに、相手の目線に立って話します。 相手に至らないところがあっても大きな包容力で受け止める、そこにはまず何よりも相手を大事にしたいという気持ちがあります。 彼女が小学生と気の合うただの気持ちが若い人ではないことが、彼女と小学校の父兄会のミーティングでのやりとりでよく分かります。 (この小学校の父兄たちがカーラの仕事を理解せずに彼女をクビにしたのでした)
 大人としての分別を持ちながらも、子供達の視線に立てる。まさに「包み込むように」子供たちと接しています。 

「夢に花 花に風 君には愛を そして明日を 包み込むように」
泣けてきました…

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