hearthのお気楽洋書ブログ

洋書読みの洋書知らず。永遠の初心者。 まったりとkindleで多読記録を更新中 (Xは、hearth@洋書&映画)

Outlander  (Dianna Gabaldon) - 「アウトランダー :  時の旅人クレア」-  245冊目

ジャンル: 小説(ロマンス)
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★★☆

 いやー、良かったー。 えっ、何がって? もうロマンチックの嵐に感動です。しかしながら、本作は単なる大甘ハーレクイン的てんこ盛りラブロマンスではありません。 もちろんお約束のホットなシーンはいっぱいあるのですが、18世紀のスコットランドを舞台にした歴史物語の面白さあり、タイム・トラベラーである主人公を取り囲むSF&ミステリー要素もあり、はたまた人生・愛に真っ向から向き合う真摯なカップルの心を綴った哲学書の様でもあり… 堪能しました。 このシリーズがベストセラーとなり、数年前に放映された同名のテレビドラマも大人気というのも納得です。

 粗筋を少し。
第二次世界大戦の後、イギリスの従軍看護婦だったクレアは、今まで離れ離れだった学者であり優しい夫フランク・ランドルとの久しぶりの小旅行を楽しんでいた。スコットランド巡りの途中、立ち寄ったストーンヘンジの様な観光遺跡を訪れ、その石に触れたところ、どういう訳か彼女だけが200年前のスコットランドにタイムスリップしてしまう。 右も左も分からない世界に放り出された彼女が出会ったのが、夫フランクと生写しの男、彼の祖先であるイギリス軍竜騎兵隊のジョナサン・ランドル隊長だった。だがそっくりなのは姿形だけ、性格は正反対の残忍なサディスト。 その隊長から逃げ出したクレアは、今度は敵対グループであるスコットランドの部族、マッケンジー族に捕まってしまう。 イギリス人であるクレアはスコットランド人からスパイの疑いをかけられ監視下に置かれ、イギリス・スコットランドの板挟みに苦しみながらも元の世界に戻ろうと悪戦苦闘を続ける。 そんな中、彼女はマッケンジー族の外戚で年下の若者フレイザー族のジェイミーと政略のために結婚することになった。 当初は不本意偽装結婚に納得していなかった彼女であるが、段々とこの若者に惹かれていく自分に気づく。200年後の世界にフランクという夫がおり、未だに彼を愛しているのは間違いない。しかし同時にジェイミーも愛し始めてしまった。 不倫ではないかと良心の呵責に責められながらも、勇敢で正義感溢れるジェイミーへの想いを抑えられない彼女。 魔女裁判に巻き込まれたり、悪漢ランドル隊長に再度捕らえられたり、ジェットコースター的展開にはハラハラドキドキ、一体どうなってしまうん?
(1991年発刊)


メモポイント
 (名場面が多いのでたくさん引用しました?盛大にネタバレあるのでご注意)

⚫︎ 18世紀に生きるクレアの夫、ジェイミー。 これがまたカッコいい理想の男性として描かれている。 平井和正ウルフガイシリーズの名作、「狼の紋章」犬神明少年のイメージに重なる。常人離れした身体能力、数カ国後を操り冷静な頭脳と正義感の持ち主でありながら、一方女性にはシャイで人見知り。(なんとクレアが彼が経験する初めての女性となる)  こんな若者が、謎の過去を持つ女性を全身全霊を込めて愛する。これで惚れない女性はいないでしょう。
 このシーン。偽装結婚の時に未来から来た事実は伏せながらも、前の夫フランクの存在を恐る恐るジェイミーに語るクレア。 ジェイミーはそれ以上は詮索せずクレアの気持ちを尊重する。「僕の妻になるからといって彼の事は忘れられないだろうし、忘れる必要はないんだよ、クレア。 君がフランクを愛しているのなら、きっと彼は素晴らしい男に違いない」
 五代君かよ。

 “It’s a good idea. It feels a little easier to talk while we’re touching. Why did you ask about my husband, though?” I wondered a bit wildly if he wanted me to tell him about my sex life with Frank, so as to know what I expected of him.
 “Well, I knew ye must be thinking of him. Ye could hardly not, under the circumstances. I do not want ye ever to feel as though ye canna talk of him to me. Even though I’m your husband now—that feels verra strange to say—it isna right that ye should forget him, or even try to. If ye loved him, he must ha’ been a good man.”


⚫︎  元の世界に戻ろうとジェイミーに黙ってストーンヘンジに向かったクレアだが、またランドル隊長に捕まってしまう。今まさにレイプされそうな時に、一人でランドルの駐屯地に乗り込んだジェイミーが登場、窮地の彼女を救い出す。しかし二人して逃げ出したものの、ランドルに襲われて気が動転しているクレアはジェイミーの事をセックスの事しか考えないさかりのついた若いオスだと罵る。彼に黙って立ち去ろうとした彼女に更に罵られ裏切られた思いで、深く傷ついたジェイミー。 
 「僕がどんな思いで君を追いかけてきたかわかるかい? 君を助けるために何の勝算もなく丸腰でランドルの陣地に乗り込んできたんだ。襲われている君を放っておくことが出来なかった。でももう分かったよ。僕のプライドはズタズタだ。」
  彼の笑顔が次第に消えていく。

    “I knew that, and I didna hesitate for one second to go into that place after you, even thinking that Dougal might be right! Do ye know where I got the gun I used?” I shook my head numbly, my own anger beginning to fade. “I killed a guard near the wall. He fired at me; that’s why it was empty. He missed and I killed him wi’ my dirk; left it sticking in his wishbone when I heard you cry out. I would have killed a dozen men to get to you, Claire.”
    His voice cracked. “And when ye screamed, I went to you, armed wi’ nothing but an empty gun and my two hands.” Jamie was speaking a little more calmly now, but his eyes were still wild with pain and rage. I was silent. Unsettled by the horror of my encounter with Randall, I had not at all appreciated the desperate courage it had taken for him to come into the fort after me.
      He turned away suddenly, shoulders slumping.
     “You’re right,” he said quietly. “Aye, you’re quite right.” Suddenly the rage was gone from his voice, replaced by a tone I had never heard in him before, even in the extremities of physical pain.
      “My pride is hurt. And my pride is about all I’ve got left to me.” He leaned his forearms against a rough-barked pine and let his head drop onto them, exhausted. His voice was so low I could barely hear him.
      “You’re tearin’ my guts out, Claire.”


⚫︎ ジェイミーを騙すつもりがなかった事を伝えるため、自分は未来からタイムスリップして来た人間だと、ついにクレアはジェイミーに告げる。彼が信じようと信じまいと、狂人だと思われようと構わない。
 慟哭しながら真実を伝えるクレアに、ゆっくりと微笑んでジェイミーは応える。「何のことだか僕にはまったく理解できない。でも僕は君の言葉を信じるよ、クレア。 それが何であれ、君は真実を伝えてくれた。 今はそれで十分だよ」

  “Do you know when I was born?” I asked, looking up. I knew my hair was wild and my eyes staring, and I didn’t care. “On the twentieth of October, in the Year of Our Lord nineteen hundred and eighteen. Do you hear me?” I demanded, for he was blinking at me unmoving, as though paying no attention to a word I said. “I said nineteen eighteen! Nearly two hundred years from now!
  Do you hear?” I was shouting now, and he nodded slowly.
  “I hear,” he said softly.
(中略)
   “I believe you,” he said firmly. “I dinna understand it a bit—not yet—but I believe you. Claire, I believe you! Listen to me! There’s the truth between us, you and I, and whatever ye tell me, I shall believe it.” He gave me a gentle shake.
   “It doesna matter what it is. You’ve told me. That’s enough for now.


⚫︎ 真実を告げたクレアを連れて、黙ってジェイミーがやって来たのは、例のストーンヘンジだった。
 彼はクレアの手を取りぎこちなくキスをして告げる。「クレア、愛しい人。もう我慢する必要はないんだよ。ここで別れよう。」ジェイミーの真意に気づくクレア。
「君は元に居た場所に帰れるんだ。そこが本来、君がいるべき場所だ。そしてそこには君の夫の…フランクがいる」
 「ええ、フランクがいる…」
 「ここは君がいるべき場所じゃない。 暴力や危険のない場所に帰れるんだよ。行くんだ!」
 彼はクレアをストーンヘンジの方に押し出した。
 「ジェイミー、本当にここは私がいるべき場所ではないと思っているの? あなたはそれでいいの?」
 「さよならだ」

  At last he turned to me and grasped both my hands. He raised them to his lips and kissed each one formally.
  “My lady,” he said softly. “My … Claire. It’s no use in waiting. I must part wi’ ye now.”
  My lips were too stiff to speak, but the expression on my face must have been as easily readable as usual.
  “Claire,” he said urgently, “it’s your own time on the other side of … that thing. You’ve a home there, a place. The things that you’re used to. And … and Frank.”
  “Yes,” I said, “there’s Frank.”
  Jamie caught me by the shoulders, pulling me to my feet and shaking me gently in supplication.  
  “There’s nothing for ye on this side, lass! Nothing save violence and danger. Go!” He pushed me slightly, turning me toward the stone circle. I turned back to him, catching his hands.
  “Is there really nothing for me here, Jamie?” I held his eyes, not letting him turn away from me.

 クレアが無事に元の世界に戻れたかどうかを見届けるために、ストーンヘンジから少し離れた小屋で、打ちひしがれながら寂しく時を過ごすジェイミー。 そして明け方にジェイミーが目にしたのは自分の元に戻ってきたクレアの姿だった。彼女は敢えて元の時代に帰らなかったのだ。


⚫︎ 彼の元に戻ったクレアに。
「僕はずっと一晩祈りを捧げていた。それは君に帰ってきて欲しいという祈りじゃない。それは正しくない事は分かっている。 僕が神に祈ったのは、どうか僕に強い勇気を与えて欲しいという事だった。君を見送って元の世界に送り出す勇気、君の前に跪いてどうか帰らないで欲しいと懇願することを我慢する勇気だ。こんなに辛かったのは生まれて初めてだったよ」

  “Thank God,” he said, smiling, “and God help you.” Then he added, “Though I’ll never understand why.”
   I put my arms around his waist and held on as the horse slithered down the last steep slope.
  “Because,” I said, “I bloody well can’t do without you, Jamie Fraser, and that’s all about it. Now, where are you taking me?”
  Jamie twisted in his saddle, to look back up the slope. “I prayed all the way up that hill yesterday,” he said softly. “Not for you to stay; I didna think that would be right.
   I prayed I’d be strong enough to send ye away.” He shook his head, still gazing up the hill, a faraway look in his eyes.
  “I said ‘Lord, if I’ve never had courage in my life before, let me have it now. Let me be brave enough not to fall on my knees and beg her to stay.’ ” He pulled his eyes away from the cottage and smiled briefly at me. “Hardest thing I ever did, Sassenach.”


⚫︎  この小説、後半にどんどん盛り上がってくる。 悪漢ランドル隊長は両刀使いであり、実はクレアよりもジェイミーの体を自分のものにしようと狙っていた。囚われの身となったクレアを助けるためにクレアの解放と引き換えに自らの体をランドルの慰みものとして差し出すジェイミー。 ランドルに拷問・レイプされた後のジェイミーの精神と肉体が崩壊する様は読んでいて辛くなる。 その後、地方豪族の力を借りてクレアはジェイミーを助け出すことができたのだが、性暴力の犠牲となったジェイミーは、クレアの事を心の底から愛しているのにもかかわらず、もう彼女に触れることができなかった。一度触れると忌わしい記憶が甦り吐き気がする。彼女を愛しているのに結ばれない、何と切ない。
  そして錯乱し拷問の後遺症で瀕死の状態となったジェイミーの命を救うために、クレアは悪魔にでも魂を売る覚悟を決めた。自らをランドルの姿に重ねてショック療法を試みるのだ。 ランドル隊長が付けていたラベンダーの香水を体に擦り込んで、もう数時間後に死ぬであろう錯乱状態のジェイミーに最後の望みを持ってランドル隊長に成りきって肌を寄せる。 クレアは意識朦朧となったジェイミーに語りかける。「よーし、この薄汚いスコットランド野郎、俺が可愛がってやる。 俺はまだイッてないぞ」 自分の夫だったフランクが自分を愛撫していた記憶を頼りに、ランドル隊長の声色を使い、ジェイミーの体をまさぐるのだった。 それはかつての最愛の夫であったフランクを冒涜する事であったが、ジェイミーを助けるために、クレアはフランクを忘れようと懸命になった。

 With a deep breath for courage, I picked up the vial of ammoniacal spirits. I stood by the bed a moment holding it, looking down at the gaunt, stubbled face. At most he might last a day; at the least, only a few more hours.
  “All right, you bloody Scottish bastard,” I said softly. “Let’s see how stubborn you really are.” I lifted the injured hand, dripping, from the water and set the soaking dish aside.

 なんとも深い愛の形。 天啓の書、黙示録。悪魔と取引をしたとしても愛する人を助けたかった思い。この後、ジェイミーは奇跡的な復活を遂げ、物語は大団円へ。
 かなりのボリュームのある小説ですが、一気に引き込まれました。 
 スコットランド人はイギリス人の事を「サセナッチ」とのあだ名で呼ぶそうですが、ジェイミーはいつもクレアのことをからかい半分で「サセナッチ」と呼んでいました。そう呼ばれるクレアのはじけるような笑顔が目に浮かぶようです。

にほんブログ村 本ブログ 洋書へ
にほんブログ村


洋書ランキングへ