hearthのお気楽洋書ブログ

洋書読みの洋書知らず。永遠の初心者。 まったりとkindleで多読記録を更新中 (ツイッターは、hearth@洋書&映画)

Anne of Windy Poplars (L. M. Montgomery) - 「アンの幸福」- 171冊目

ジャンル: 小説(児童)
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★★☆

アンという名前のつづりは後ろにeが付くアン(Anne)であり、こちらの方がただのAnnよりもっとロマンチックである、との主人公の主張はアン・ファン・テリブル(「恐るべき子供たち」ではなく、筋金入りのアン・ブックスファン)の方々に取っては有名な話です。 アン・ブックスを日本に紹介した翻訳者である村岡花子さんを主人公にした昔のNHK朝ドラ「花子とアン」のエピソードにも、幼少時の村岡さんの決めセリフ「はなじゃねえ。 花子と呼んでくりょう!」と言うのがありました。 後ろに「子」が付く方が素敵だとの設定は、きっとアンのスペルeエピソードのオマージュですよね。 (「はな」の方が可愛いと思うんですけど)

アンの文字へのこだわりはアンブックスシリーズの随所に現れています。 この作品にもありました。 同僚キャサリンの名前のつづりを見てアンが嬉しそうに言います。 「Kで始まるのがジプシー風で素敵、Cのような気取った始まりでなくて良かった」と。 Kのキャサリンがなぜジプシー風なのか想像の余地のないぼくにはよくわかりませんでした…

さて、アンの年齢の時系列で言えば、本作はアンブックスの4作目にあたりますが、実はアンブックス最終作とも言える「Rilla of Ingleside (アンの娘リラ)」(1921年発刊)よりもずっと後になってから、遡って書かれたものだそうです。 オリジナルタイトルは「Anne of Windy Willows (柳風荘のアン)」。米国版では「Windy Poplars」と改題されました。 (1936年発刊)

すったもんだのすえ、やっとお互いの愛情を確かめ合ったギルバートとアン。 このお話は二人の婚約時代にあたり、ギルバートが医者になるために大学で研鑽を積んでいる間、アンはサマーサイド高校の校長として赴任して活躍するエピソードが書かれています。 アンがギルバートに送る手紙の書簡形式でのストーリー展開は、「あしながおじさん」(1912年)と似ており影響を受けているのかもしれません。


メモポイント
● 印象に残るキャラクターは先ほど紹介したキャサリン・ブルック。 少し老けて見える気難しい性格。 サマーサイド高校の女性教師。 年下なのに校長として上司となったアンにキツくあたる。 「夢見る夢子ちゃんはキライなんだよね」って感じ。

But the thing that annoyed me most … Well, one day when I happened to pick up a book of hers in the staff room and glance at the flyleaf I said, ‘I’m glad you spell your name with a K. Katherine is so much more alluring than Catherine, just as K is ever so much more a gipsier letter than smug C.’
She made no response, but the next note she sent up was signed ‘Catherine Brooke’.

しかし、アンの「北風と太陽」のような態度に徐々に打ち解け始め、後に二人は心を許しあえる友となる。


● 多くは語るまい。 この本で一番好きな箇所はラストシーン。 少しへそ曲がりな家政婦、レベッカ・デューとの別れの場面。(なぜかレベッカ・デューは氏名がセットで呼ばれる) これが秀逸。 シャイで不器用なレベッカ・デューは、面と向かってアンに別れの言葉を言えず手紙を託す。 アンはその手紙を読んで涙ぐむ。そして車に乗ってWindy Willowsを離れていくアン。 彼女が最後に振り返って目にしたのは、窓から身を乗り出すようにして力いっぱいサヨナラのバスタオルを振るレベッカ・デューの姿だった。

(レベッカ・デューからのお別れの手紙に彼女の想いが切々と記されている)
Your obedient servant,
REBECCA DEW
PS God bless you.

Anne’s eyes were misty as she folded the letter up. Though she strongly suspected Rebecca Dew had got most of her phrases out of her favourite Book of Deportment and Etiquette that did not make them any the less sincere, and the PS certainly came straight from Rebecca Dew’s affectionate heart.
‘Tell dear Rebecca Dew I’ll never forget her, and that I’m coming back to see you all every summer.’
‘We have memories of you that nothing can take away,’ sobbed Aunt Chatty.
‘Nothing,’ said Aunt Kate emphatically.
But as Anne drove away from Windy Willows the last message from it was a large white bath towel fluttering frantically from the tower window. Rebecca Dew was waving it.

キャサリンレベッカ・デュー、古くはダイアナのジョセフィンおばさん等々、アンはちょっと気難しめの人の心に飛び込んで大ファンにさせてしまう天才ですね。 男で言えば、本宮ひろ志のマンガに出てくる「サラリーマン金太郎」みたい。 (偏屈なお婆ちゃんが実は政財界の大物だったりする)

ということで取り留めのない話になりました。
それではごきげんよう。さようなら。

にほんブログ村 本ブログ 洋書へ
にほんブログ村


洋書ランキングへ

Super Crunchers (Ian Ayers) - 「その数学が戦略を決める」- 170冊目

ジャンル: サイエンス・ロジック
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★☆☆

統計計算により戦略を決める。 今でこそこの手の本はたくさん出版され本屋でもよく見かけますが、この本が出版された2008年当時はビッグデータデータマイニングという言葉が注目されはじめた頃であり、まだ目新しかったように思います。 ぼくがこの本を手にしたのは、大量のデータ枚挙により裏に隠れた真実をあぶり出す手法が斬新だったグラッドウェルの著作を読むのよりももっと以前のことで、統計による数字の説得力、力強さに圧倒されグイグイと引き込まれたのを覚えています。

例えばビンテージワインの品質を見定める話。(たしかカーネマンのThinking, Fast & Slowにもこのエピソードが紹介されていたかと思います) 通な人しか分かり得ないと考えられていたワインの評価。 実は3点ほどのシンプルな評価軸のみで価格を算定したところ、実際の時価にピッタリだったのにびっくり。 専門家の言葉にできない暗黙知よりも、統計による分析の方が有用だとの例が紹介されています。


データの有用性、雰囲気での判断ではなく根拠データを示すことが説得力を生む。 併せてオススメは Steven Levitt「Freakonomics」(156冊目) 、Nate Silver 「The Signal and the Noise」(4冊目)、それから Kaiser Fung「Numbers Rule Your World」(90冊目)。

Super Crunchers: Why Thinking-By-Numbers is the New Way To Be Smart

Super Crunchers: Why Thinking-By-Numbers is the New Way To Be Smart

にほんブログ村 本ブログ 洋書へ
にほんブログ村


洋書ランキングへ

The Elements of Style (William Struck Jr. / E.B.White) - 169冊目

ジャンル: その他
英語難易度: ★☆☆
オススメ度: ★★★☆☆

ずいぶんと昔の話です。 新卒で会社に入ってから10年ほど経った頃でしょうか、人事異動で職場が変り、カナダ人の上司の下で働くことになりました。 仕事で英語を使わざるを得ない状況になったのです。 それまでずっと英語と無縁の環境にいた純国産人間でしたので、読むのも書くのも聞くのも話すのもダメダメの四重苦。 その上司はとても明るく気さくな良い方で気を遣ってゆっくり話しかけてくれたのですが、ぼくにベースとなる英語知識がないので何を言っているのかさっぱり分かりません。ぼくはひたすら「微笑みの国の人」となりちょっと困ったようなあいまいな笑顔を浮かべるばかり。 英文メールを書く必要も出てきました。 パソコンの前で沈思黙考すること一時間あまり。 ネバってひねり出したのがたった数行の英文メール… 「拝啓、拙者○○と申す者で御座候。 皆様方におかれましてはますます御健勝のことと…」 って、時代劇かいな? きっとこんな感じのイメージの英文だったでしょうね。 落語の「延陽伯(たらちね)」のようなもんです。受け取った相手はきっと驚いたことでしょう。

「これはいかん。早く何とかしなきゃ引導を渡されてしまう」 まったくのカナヅチが嵐の海に突き落とされたような悲壮感が漂っていただろうと思います。 情けなさのあまり、洋書を読んだり英語のテープを聞いたりとアレコレもがき始めました。この本も英文を書くならコレがオススメという事で、当時高い評判に惹かれてすがりついた本でした。

この本を手にした方はご存じでしょうが、これは英作文に限らず、日本語で作文した場合にも当てはまる、分かりやすい文章の黄金律が書かれています。(1918年発刊)


以下、メモポイント

● まずは書く前のプランニング、これが大事。

planning must be a deliberate prelude to writing.


● 単一のトピックは単一のパラグラフで。

Thus, a brief description, a brief book review, a brief account of a single incident, a narrative merely outlining an action, the setting forth of a single idea—any one of these is best written in a single paragraph.


● 肯定文で書け。 明確に意図を伝えろ。

Put statements in positive form.


● クリアで具体的な言葉を使え。

Use definite, specific, concrete language.


● 不要な言葉を入れるな。 絵画や機械に余分な線や部品が無いのと同じ。

Omit needless words.

for the same reason that a drawing should have no unnecessary lines and a machine no unnecessary parts.


● 締まりのない文章をダラダラと続けるな。下手な書き手は、接続詞等で文を長くしてしまうきらいがある。

Avoid a succession of loose sentences.

An unskilled writer will sometimes construct a whole paragraph of sentences of this kind, using as connectives and, but, and, less frequently, who, which, when, where, and while, these last in nonrestrictive senses. (See Rule 3.)


● 対等レベルの複数アイデアは同じ形式で表現しろ。

Express coordinate ideas in similar form.


● 強調したい言葉は文末に。

Place the emphatic words of a sentence at the end.

この本は評判に違わず名著だと思います。 ただ当時の四重苦状態のぼくにとって、あせりと勢いのみで買ったこの英文で書かれた参考書がすぐに即戦力になるはずもありませんでした。 その後も英語に苦しむ日々が数年間続きました。 (あっ、もちろん今も修行途中ですが…) ヒィヒィ言いながら悪戦苦闘しているうちに、ちょっと希望の薄日が射してきたかな、と感じ始めたのは、英語の例文を必死で暗記して、それが1000個ぐらいに達しようかとする頃でした。 それらの例文をいろいろと組み合わせてメールを書いたり話したりして、上司や海外の人と最低限の意思疎通をはかることができ始めた頃は、ただもう嬉しくて嬉しくて、世界がパッと開けるような思いでした。 例文の暗記、英語の世界に慣れる取っ掛かりとしては、今思い返せばこれが一番役に立ったような気がします。 で、この本はしばらくお蔵入りだったのですが、ずっと後になってキンドルで再購入。 やっと書かれている文章の意味がなんとなく分かるようになりました…

この辺りのポイントをキチンとカバーしている本としては、ブルーバックスの「理系のための英語ラィティング上達法」(倉島保美・著)をオススメします。 この本は理系の人に限らず、すべての英文の書き手に重宝されるお役立ち本ですよ。 何よりもまず、これは日本語で書かれてありますからね…

The Elements of Style (annotated) (English Edition)

The Elements of Style (annotated) (English Edition)

にほんブログ村 本ブログ 洋書へ
にほんブログ村


洋書ランキングへ

A Concise Guide to Macroeconomics (David A. Moss) - 「世界のエリートが学ぶマクロ経済入門」- 168冊目

ジャンル: ビジネス・経済
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★☆☆

「世界のエリートが学ぶマクロ経済入門」。 いかにもな邦題ですが、 ナンチャッテなビジネス本に見えるこのタイトルで損している? いや、売り上げ的には得しているのかもしれません。 数式や専門用語をなるべく使わずに書かれています。 (2014年発刊)


メモポイント
リカードが唱えた比較優位論 (Comparativel advantage)。 みんなが最も得意なことに専念して分業すれば、結果みんなハッピー。
サミュエルソンも言ってます。 「現実世界はそんな単純じゃあないんだよ、という人の気持ちはわかります。それはモデルに過ぎないですからね。 でも、全てがその通りにはいかないからと言ってこの考え方を無視していれば、いずれあなた損しますよ」だって。

Economists have since shown that Ricardo’s result can be generalized to as many countries and to as many goods as one wants to include. Although we can certainly specify conditions under which mutual gains from trade break down, most economists tend to believe that these conditions—these possible exceptions to free trade—occur relatively rarely in practice. Indeed, the Nobel Prize-winning economist Paul Samuelson once acknowledged that “it is a simplified theory. Yet, for all its oversimplification, the theory of comparative advantage provides a most important glimpse of truth. Political economy has found few more pregnant principles. A nation that neglects comparative advantage may pay a heavy price in terms of living standards and growth.”


● アウトプットを増加させる三つの源とは。 それは、労働、資本、そして前に記した二つ(input)を使っての効率化である。

Beginning with the question of what makes output rise over time, economists often point to three basic sources of economic growth: increases in labor, increases in capital, and increases in the efficiency with which these two factors are used.


● じゃあ、労働も資本もタップリあるのになんで不景気になるんでしょうか? イギリスの経済学者ケインズはこう考えました。「それはみんなが将来に対して悲観的に考える不安心理によるものだ。これにより消費は低迷する 」と。

Since all the necessary inputs (labor and capital) were there, why had output fallen so dramatically in just a few short years?
The British economist John Maynard Keynes claimed to have the answer. “If our poverty were due to earthquake or famine or war—if we lacked material things and the resources to produce them,” he wrote in 1933, “we could not expect to find the means to prosperity except in hard work, abstinence, and invention. In fact, our predicament is notoriously of another kind. It comes from some failure in the immaterial devices of the mind. . . . Nothing is required, and nothing will avail, except a little clear thinking.”
His key insight, implied by the phrase “immaterial devices of the mind,” was that the problem was mainly one of expectations and psychology. For some reason, people had gotten it into their heads that the economy was in trouble, and that belief rapidly became self-fulfilling. Families decided that they had better save more to prepare for the future. Seeing a drop in consumption on the horizon, businesses decided to scale back both investment and production, leading to layoffs, which reduced workers’ incomes and thus exacerbated the drop in consumption.


マクロ経済学の基本書として多くのレビューワーからオススメされています。 うん、確かに文章は平易で読みやすかったし、説明もわかりやすいと思います。

A Concise Guide to Macroeconomics, Second Edition: What Managers, Executives, and Students Need to Know

A Concise Guide to Macroeconomics, Second Edition: What Managers, Executives, and Students Need to Know

にほんブログ村 本ブログ 洋書へ
にほんブログ村


洋書ランキングへ

Lolita (Vladimir Nabokov) - 「ロリータ」- 167冊目

小説: 小説 (モダンクラシック)
英語難易度: ★★★
オススメ度: ★★★☆☆

ロリコンの語源にもなったこの小説、もっとエロティックな内容かと思っていました。 ですがさにあらず、かなり淡々としています。 そしてまあなんとも後味の悪い話。 (1955年発刊)

小児性愛ハンバート・ハンバートの独白録といった体裁のこの小説。 オープニングの有名かつ粘着質な一節がこれ。

"Lolita, light of my life, fire of my loins. My sin, my soul. Lo-lee-ta: the tip of the tongue taking a trip of three steps down the palate to tap, at three, on the teeth. Lo. Lee. Ta."

少女ロリータの名前をネットリと口の中で転がし味わう感じ。 「ロ、リー、タッ」だって。 切って言いなさんな!

ハンバートの行動は、自分をどのように満足させるか、という考えに基づいていました。そこには本来なら愛の対象となるべきはずのロリータ自身の視点が存在しません。 読者の中には生理的にムリと感じる方も多いと思います。 ところが、不思議なことに読み始めはどうも嫌悪感が先立っていましたが、後半まで読み進めるうちにここまで嫌われるハンバートのことがだんだん憐れに思えて来るようになりました。 (ジェフ・ゴールドブラムの「フライ」みたいな感じです。)


● あらすじを少し。(かなりネタバレです)

幼い頃に知り合った少女アナベルと主人公の少年ハンバート・ハンバート。 彼はセックスを致す寸前までの関係になったアナベルを病気で亡くします。 アナベルを忘れられないハンバートは彼女の死がトラウマになり、それ以来、少女のみを性愛の対象とするようになってしまいました。
ちなみに、ハンバートは小悪魔的妖精ニンフェットを次のように定義しています。

Now I wish to introduce the following idea. Between the age limits of nine and fourteen there occur maidens who, to certain bewitched travelers, twice or many times older than they, reveal their true nature which is not human, but nymphic (that is, demoniac); and these chosen creatures I propose to designate as “nymphets.”

ハンバートは成人したのちに、ある日出逢った12歳の女の子ロリータにアナベルの面影を見いだし衝撃を受けます。 目ん玉を舐めさせるとは… この年齢にしてなんと官能的!

“It’s right there,” she said, “I can feel it.”
“Swiss peasant would use the tip of her tongue.”
“Lick it out?”
“Yeth. Shly try?”
Sure,” she said.
Gently I pressed my quivering sting along her rolling salty eyeball. “Goody-goody,” she said nictating. “It is gone” “Now the other?” “You dope,” she began, “there is noth—” but here she noticed the pucker of my approaching lips. “Okay,” she said co-operatively, and bending toward her warm upturned russet face somber Humbert pressed his mouth to her fluttering eyelid. She laughed, and brushed past me out of the room. My heart seemed everywhere at once. Never in my life—not even when fondling my child-love in France—never—

ロリータを我が物にすべく、母親である未亡人シャルロッテに近づき再婚までしてしまうハンバート。 この未亡人はハンバート(結構ハンサムで洗練された紳士風)に惚れてぞっこんまいってしまいました。 だからこそ、ハンバートの日記を盗み見てダシに使われていただけでもう用済みとなった自分の役割を知った時の、彼女のショックは凄まじいものでした。 そして、事実を娘に知らせようと家を飛び出した彼女は不幸にも自動車事故にあい亡くなってしまいます。 これでハンバートは名実ともにロリータを手に入れることになりました。

彼は義理の娘ロリータと二人きりで、アメリカ国内の名所を車で巡る旅に出ます。場末のモーテルに泊るなど、ロードムービーのような展開に。 (本作、読む前はもっと貴族趣味のゴテゴテした話かと想像していましたが、こんなにも詳細にアメリカ各地について記述があるとは予想外でした。) 母を亡くしてハンバートに依存せざるを得ないロリータは、彼女の「身体」をエサにハンバートを操りつつ、この異常で爛れた関係を断ち切るべく、ハンバートから逃げ出す機会をうかがいます。 そしてある日、他の男の手引きにより忽然と姿を消します。

そして三年後。 ロリータを探し続けていたハンバートはやっとロリータと再会します。 彼女は妊娠しており金に困窮して義理の父に助けを求めたのでした。 ロリータはすでにかつての小悪魔のような妖精ではありませんでした。 ハンバートが目にしたのは、戦争負傷者の夫を持ち、生活にくたびれ、亡き母シャルロッテによく似た一人の不幸な近眼の妊婦でした。 (しかもその夫とは、ロリータの逃亡を促した男ではなく、その男に捨てられた後に行きずりで知り合っただけの男でした。) ナボコフは不幸な女性を描くのがうまいと実感。 かつての妖しい魅力をたたえたロリータがここまで堕ちたのか、と思ってしまいます。 「愛したニンフェットがこのようになってしまうとは…」 しかしハンバートは、すでに精彩を欠いてくたびれた女となったかつての妖精をまだ愛していることに気づきます。 よりを戻そうと懇願するハンバートに、妊婦ロリータは「それはありえない」と一言。 幼い自分を凌辱し続け人生を台無しにした男の元に戻ることは彼女にとってあり得ない選択でした。

I insist the world know how much I loved my Lolita, this Lolita, pale and polluted, and big with another’s child, but still gray-eyed, still sooty-lashed, still auburn and almond, still Carmencita, still mine;
(中略)
“One last word,” I said in my horrible careful English, “are you quite, quite sure that—well, not tomorrow, of course, and not after tomorrow, but—well—some day, any day, you will not come to live with me? I will create a brand new God and thank him with piercing cries, if you give me that microscopic hope” (to that effect).
“No,” she said smiling, “no.”
“It would have made all the difference,” said Humbert Humbert.
(中略)
I loved you. I was a pentapod monster, but I loved you. I was despicable and brutal, and turpid, and everything, mais je t’aimais, je t’aimais!

異常者ハンバートの憐れさ。 対象者を傷つけ自身も葬ってしまうストーカーの心理ってこんな感じなのでしょうかね。
そして、ラストはハードボイルド小説のような展開に。

ちなみに、読了後にはぜひJohn Ray博士が書いた(という設定の)序文を読み返すことをオススメします。最初に読んだときはサラッと読み飛ばしてしまいましたが、後で読み返して全体が腹落ちしました。 これはプロローグというよりエピローグですよね。

Lolita (Vintage International)

Lolita (Vintage International)

にほんブログ村 本ブログ 洋書へ
にほんブログ村


洋書ランキングへ

Predictably Irrational (Dan Ariely) - 「予想どおりに不合理」 - 166冊目

ジャンル: サイエンス・ロジック
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★☆☆

日本でもブームになった行動経済学オモシロ本の先駆けになりました。とても読みやすい。 昔の経済学の教科書では、「経済人=経済的合理性に基づいて個人主義的に行動する人間(homo economics)」と説かれていました。 でも、そんなMr.スポックみたいな人がその辺をブラブラ歩いているとは思えませんね。 人間は時に不合理な行動を取ってしまうもので、それが人間くささというもんでしょうか。 その不合理な行動の裏にもそれなりの理由はあるもんです。 別に行き当たりばったりのランダムに不合理な行動をとるというわけではなく、そのように行動してしまう必然性があるということ。だからこそ「予想どおり」に「不合理」なことをしてしまうのだと著者は説いています。(2008年発刊)


メモポイント

● 新聞購読の料金設定(ダミーの料金コースを設定して誘導する)、アンカリング(最初に設定した数値が基準値となり後の判断に影響を与える)、プロスペクト理論(得するよりも損するのを避けようとする)、等々、オモシロ事例がいっぱいです。

● 託児所のお迎えの話。 いつも親のお迎えが遅い事に業を煮やした託児所側はお迎えが遅れた親に対して罰金を科する事にした。 すると結果は、遅れが減るどころか増えてしまった。金を払うならば遅れてもよいという考えにシフトしてしまったのだ。 「こいつはマズイ」と、元に戻して罰金をやめたのだが、遅刻は更に増える一方に。 なぜか?

BUT THE REAL story only started here. The most interesting part occurred a few weeks later, when the day care center removed the fine. Now the center was back to the social norm. Would the parents also return to the social norm? Would their guilt return as well? Not at all. Once the fine was removed, the behavior of the parents didn't change. They continued to pick up their kids late. In fact, when the fine was removed, there was a slight increase in the number of tardy pickups (after all, both the social norms and the fine had been removed).
This experiment illustrates an unfortunate fact: when a social norm collides with a market norm, the social norm goes away for a long time. In other words, social relationships are not easy to reestablish. Once the bloom is off the rose—once a social norm is trumped by a market norm—it will rarely return.


モーセ十戒を意識する、裁判陳述でバイブルに誓う、弁護士や医者がプロとして宣誓する。 単に儀式的に見えるたったこれだけの行動だけでも、その宣誓を行なった本人の中で「正直であるべき」との精神的強制力が働く事が実験で証明されている。

FOR ONE, PERHAPS we could bring the Bible back into public life. If we only want to reduce dishonesty, it might not be a bad idea. Then again, some people might object, on the grounds that the Bible implies an endorsement of a particular religion, or merely that it mixes religion in with the commercial and secular world. But perhaps an oath of a different nature would work. What especially impressed me about the experiment with the Ten Commandments was that the students who could remember only one or two Commandments were as affected by them as the students who remembered nearly all ten. This indicated that it was not the Commandments themselves that encouraged honesty, but the mere contemplation of a moral benchmark of some kind.
If that were the case, then we could also use nonreligious benchmarks to raise the general level of honesty. For instance, what about the professional oaths that doctors, lawyers, and others swear to—or used to swear to? Could those professional oaths do the trick?


アダム・スミスの名言。「ビジネスにおいて、正直は最良の戦略である」 これは単なる青臭い倫理観に基づいて言っているのではない。 「正直であること」は、作戦として優れているという事だ。 これは「自分からは裏切らない」というノイマンが確立したゲーム理論の戦略とも符号する。

Adam Smith reminded us that honesty really is the best policy, especially in business.


以前にも書きましたが、行動経済学といえばダニエル・カーネマンの名著「Thinking, Fast & Slow」(72冊目)ははずせません。 本作よりも少し骨太感がありますが体系的に知りたいのであればこちらがオススメ。

鬼平は言いました。
「人間というものは妙な生きものよ。悪いことをしながら善いことをし,善いことをしながら悪事を働く。 心をゆるし合う友をだまして,その心を傷つけまいとする」
人は不合理にできている。

Predictably Irrational: The Hidden Forces that Shape Our Decisions

Predictably Irrational: The Hidden Forces that Shape Our Decisions

にほんブログ村 本ブログ 洋書へ
にほんブログ村


洋書ランキングへ

War Criminal (Saburo Shiroyama) - 「落日燃ゆ」- 165冊目

ジャンル: ノンフィクション
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★★☆

先日、NHKスペシャル東京裁判」が再放送されたそうですね。 ぼくはうっかりして見逃してしまいました。 残念。 この裁判の話を聞くと、いつもある人物の名を思い出します。 広田弘毅

第二次世界大戦後、東京裁判で死罪判決を受けた7人のA級戦犯のうちただ一人の文官であり外交官出身の元総理、広田弘毅。  戦争推進派に囲まれた中、最後までたった一人で戦争回避に尽力したものの、時代の大きな流れに翻弄されて開戦に巻き込まれた。 敗戦後、アメリカを中心とする連合国軍が設けた東京裁判では他の武官と同様に戦犯と見なされ、その告発に一切の弁解もせず絞首台の露と散った…(1974年発刊)

ずいぶん昔ですが、広田弘毅の「自ら計らわぬ」生き方に感動したあまり何度も読み返し、ぜひ英文でも読んでみたいと思い中古本をアマゾンで入手しました。 どういうわけか2回もポチってしまったようで、中古ペーパーバックが2冊届いたのもいい思い出です。 日本語で読んだあとで英文でもう一度読もうとした本はそれほど多くはありませんが、これはそんな数少ない本のうちのひとつ。(他はファインマンさん、赤毛のアン星の王子さま、アルジャーノン、火車ぐらいです。)


本作のメインテーマは他人をかばうことに主眼を置いた自己犠牲の潔さに尽きるでしょう。 この「黙して語らず」の精神は現在の尺度から考えると、必ずしも正しいものではなく決して褒められるものでもありません。 自分が我慢すればそれでいいという訳ではないでしょう。 それは分かってます。 ええ、分かっていますとも… それでもねえ、一切の未練がましい言い訳をしなかったこの一人の不器用な男の生き方に鮮烈な感動の念を覚えるのを禁じ得ないのです。

As you can see, I'm in good health. I have no message; just tell them, please, that I went to my death quietly and in good health.

夫婦の愛情も本作の大きなテーマのひとつです。 広田は最愛の妻に先立たれる(正確には獄中の夫の気がかりを減らすために妻は自害する)のですが、この辺りも切なさを誘います。 妻亡き後も広田が獄中から自宅に送る手紙の宛先はすべて妻「静子殿」と書かれていました。


著者の城山三郎自身も愛妻家でした。 晩年はその愛する妻に先立たれています。  亡き妻が傍らにいない喪失感を綴った名著、「そうか、もう君はいないのか」。 こちらもぜひぜひおススメします。

War Criminal: The Life and Death of Hirota Koki

War Criminal: The Life and Death of Hirota Koki

にほんブログ村 本ブログ 洋書へ
にほんブログ村


洋書ランキングへ