hearthのお気楽洋書ブログ

洋書読みの洋書知らず。永遠の初心者。 まったりとkindleで多読記録を更新中 (ツイッターは、hearth@洋書&映画)

The Seven-Per-Cent Solution (Nicholas Meyer) - 「シャーロック・ホームズ氏の素敵な冒険」- 210冊目

ジャンル: 小説 (推理)
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★☆☆

ホームズのパスティーシュの中でもかなり良くできていてオススメです。 正典をたくさん読んだ方には、たまらないひねりも効いています。 もともとこの本の設定は、ワトスン博士の未発表の手記が発見されたとの建てつけで始まります。 ワクワクしますね。
(1974年発刊)


粗筋を簡単に。
ホームズはコカイン中毒により精神を病んでおり、世界の悪の権化で宿敵であるモリアーティ教授にずっと付きまとっていた。が、実はモリアーティはごく平凡で善良な一市民(なんと、少年時代のシャーロック・マイクロフト兄弟の数学の家庭教師だった!)であり、ホームズの妄想による思い込みで尾行されたり、脅迫の電報を送りつけられたりしてホトホト参っていた。 見かねて心配したワトスンが、兄のマイクロフトの知恵を拝借、モリアーティをオトリにして、彼がヨーロッパを悪の世界に染めるために暗躍しているとホームズに思わせて、治療を受けさせるためにホームズを遠くウィーンにまで連れ出すことに成功した。 ウィーンで待つ医者とは名医であり心理学者でもある、かのジークムント・フロイト。 精神状態ボロボロであるホームズだが、フロイト博士の治療により徐々に回復していった。そんなおり、フロイト博士の元に奇妙な患者が現れ、重大事件の発端となった。 ホームズは名探偵の目の輝きを取り戻して事件の解明に乗り出す…

どうです、 このプロットを聞いただけでも面白そうでしょう。 実際、面白いのですよ。 ホームズとワトスンの熱い友情話もあり、ホームズファンにはぜひオススメです。
それから本作は映画化もされました。これも秀逸。

ちなみに、ホームズファンには自明なことですが、タイトルの「The Seven Per-Cent Solution 」とは、ホームズを中毒にしたコカインの水溶液の濃度のことです。
正典である「Sign of Four」(55冊目)にもこの辺りの記述が出てきます。

“Which is it today,” I asked, “morphine or cocaine?”
He raised his eyes languidly from the old black-letter volume which he had opened.
“It is cocaine,” he said, “a seven-per-cent solution. Would you care to try it?”
“No, indeed,” I answered brusquely.


それと、ホームズのパスティーシュ物で僕のイチオシは、各務三郎・編「ホームズ贋作展覧会」(河出文庫)ですね。 短編集なのですが、この中の「テルト最大の偉人」が特に面白い。 なんと、ホームズの正体はシェークスピアだった!

Seven-Percent Solution

Seven-Percent Solution

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The Only Neat Thing to Do (James Tiptree Jr.) - 「たったひとつの冴えたやりかた」- 209冊目

ジャンル: 小説(SF)
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★★☆

「たったひとつの冴えたやり方」

この邦題が有名です。センスを感じます。 SF小説の翻訳タイトルにはステキなのが多いですね。「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」とか「星を継ぐもの」とか。 思わず手に取りたくなります。

さて本作。 SF用語、多めです。 それほどSFものに造詣が深くないものですから、冒頭から知らない単語が多くてちょっと難しかった… でもガマンして読み続けていると会話文が増えてきます。 急に読みやすくなりました。

ストーリーをご存知の方も多いでしょうが、粗筋を簡単にご紹介します。

16歳の誕生日を迎えた少女コーティは父親からプレゼントされた宇宙船に乗って、両親に黙って宇宙へと冒険の旅に出ます。 途中、立ち寄った星でメッセージパイプを拾うのですが、実はこのパイプの中には異星生物シロベーン(愛称シル)が入っていました。この生物は他の生物に寄生して胞子を増やしていくという性質を持っています。 コーティは気づかぬうちにシルによって脳に入り込まれます。このシルという生き物、恐ろしい寄生モンスターと言うよりも、思いのほかシャイで優しくそして少し冒険好きな生物でした。人間に例えるとコーティと同世代の女の子のような感じ。 友情が芽生え意気投合した二人は冒険の旅を始めましたが、思いがけない運命が彼女たちを待っていました…



メモ (ネタバレあります)

● この寄生生物が宿主の脳神経を操って幸福感を感じるようにさせるところなど、少し気味が悪かったですね。アリに寄生する菌みたいです。寄生されたアリはゾンビアリとなり本能もコントロールされる… 自分の英文読解が間違っているのかも知れませんが、寄生生物に脳を食べられつつある宇宙飛行士たち(多分、男同士の)が菌の生殖のために身体を操られてセックスをするという描写もあり、なんだか凄まじさを感じます。


● ここはラストのクライマックス。未読の方は、読み飛ばして下さい。 いくつか読んだSF小説の中でも圧倒的に感動を呼ぶシーン。 ストーリーは知っていましたが、それでもこの辺りを読むとジーンとしてしまいました…

生殖本能が暴発し宿主であるコーティの命を食い尽くしてしまおうとする衝動を、理性で必死に抑えようとする寄生菌異星人の女の子シルと、他の人たちへの寄生菌繁殖の被害を食い止めようとの使命感のみで痛みに耐えながら動くコーティ。 彼女たちが選択した「The Only Neat Thing to Do (たった一つの冴えたやり方)」とは、シル自身の胞子の繁殖を自分たちの間だけに留めるために、宇宙船ごと太陽に突っ込んで自分たちの命を葬りさることでした。

(ボイスレコーダーに残ったコーティの最期の言葉)
「お願いみんな、シルのこと忘れないで。彼女は本物よ。 彼女は人類のためにこの道を選んだの。そして彼女の種族のためにも… 彼女なら私の脳を操って私を止めることもできたのにそうしなかった、それだけは信じて! みんな、サヨナラ…」
衝撃音。そして音声が途切れ、あとは静寂のみ続く。

この録音をコーティの父親が他のスタッフと聞いているのですが、このシーンが辛かった。

“Good-bye, all. To my folks … Oh, I do love you, Dad and Mum. Maybe somebody at FedBase can explain—ow!! Oh … Oh … I can’t … Hey, Syl, is there anybody you want to say good-bye to? Your mentor?”
A confused vocalization, then, faintly, “Yes …”
“Remember Syl. She’s the real stuff, she’s doing this for Humans. For an alien race. She could have stopped me, believe it. Bye, all.”
A crash, and the record goes to silence.

“Han Lu Han,” says the xenobiologist quietly into the silence. “He was that boy on the Lyra mission. ‘It’s the only really neat thing to do.’ He said that before he took the rescue-run that killed him.”

ラストの印象が強いために、元気女子たちの冒険譚、感動小説のイメージが強いのですが、菌に寄生された宇宙探索員のコーとボーニィのからみの部分や、宿主の脳を食べたのちに、その顔に穴を空けてそこから寄生菌の胞子が飛び出すところなんか結構エグいですね。 この設定、マンガの「寄生獣」のミギーみたいな感じです。


話は変わりますが。

昨年にその使命を終えた土星調査衛星カッシーニの最後をご存知ですか。 13年間という長い年月を通して人類に貢献しその使命を遂げたカッシーニは、土星の大気圏に突入して燃え尽きました。 搭載燃料が尽きたとしてもそのままずっと土星の周回軌道に乗せるという方法もあったでしょう。 しかし、仮に故障して土星の自然衛星であるタイタンやエンケラドスに衝突などした場合には、カッシーニに付着しているかもしれない地球由来の微生物により既存の環境を汚染してしまう恐れがありました。 (そして、タイタンやエンケラドスに生命が存在する可能性があることを見出したのは、なによりカッシーニ自身でした!) そしてカッシーニには最後のミッションが与えられます。それは自身を土星に突入させて溶解滅却させるのと同時に土星の大気組成のデータを地球に送ることでした。

2017年9月15日、カッシーニに最後の日が来ます。 燃え尽きて機体が溶けてしまい流れ星となるその最後の瞬間まで、地球に観測データを送り続けました。 当初の設定プログラムよりも30秒も長く地球に通信を送ってきたそうです。 まるでサヨナラを言うように… カッシーニの親代わりのプロジェクトリーダーは愛する探査機の最後についてこう語ったそうです。「悲しみと、カッシーニの功績への誇りで胸がいっぱいだ。」


そして、このニュースを聞いてすぐに思い出したのがこの「The Only Neat Thing to Do」だったのです。

カッシーニよ、永遠なれ😭

The Starry Rift (English Edition)

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Dracula (Bram Stoker) - 「吸血鬼ドラキュラ」- 208冊目

ジャンル: 小説(ホラー)
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★☆☆

ミナお嬢様と勇敢なる冒険者たちの物語。

はじめに抱いていたイメージとは違ってました。古典っぽくて読みにくいのかなと思っていたら、全然。100年以上も昔の話なんですが、単語も分かりやすいですよ。 土地の古老が話す訛りの強いdialectsを除けば今でも違和感なくスッと読めます。

「Frankenstein」(93冊目)を読んだ時も感じましたが、日本の古文と比べて、英文のクラッシックが広く読まれている理由のひとつに、言葉の変化があまり激しくないという要素があるんじゃないかと思います。 小説というよりも、手紙や電報、日記をつなぎ合わせるという形式で物語が構成されています。 カメラ(コダックという商品名で登場)や蓄音機での音声日記の記述など、当時では最新式だったであろうガジェットも出てきます。 作者のブラム・ストーカーは当時としては斬新な手法にチャレンジしていたのではないでしょうか。
(1897年発刊)


メモ (ちょっとネタバレ)
● これで後世に伝わる典型的なドラキュラ伯爵のビジュアルイメージが出来上がったんでしょう。

His face was a strong, a very strong, aquiline, with high bridge of the thin nose and peculiarly arched nostrils, with lofty domed forehead, and hair growing scantily round the temples but profusely elsewhere. His eyebrows were very massive, almost meeting over the nose, and with bushy hair that seemed to curl in its own profusion.
The mouth, so far as I could see it under the heavy moustache, was fixed and rather cruel-looking, with peculiarly sharp white teeth.


● で、ヒロインのミナが可憐、可愛いのです。 なおかつ頭も良い。 吸血鬼ハンターの男たちに励ましと希望を与えるキャラクター。なんだか男が描いた理想の脳内女性像っぽいです。ちょっと宮崎駿カントク系?

We women have something of the mother in us that makes us rise above smaller matters when the mother spirit is invoked. I felt this big sorrowing man's head resting on me, as though it were that of a baby that some day may lie on my bosom, and I stroked his hair as though he were my own child.

詳しく書くとネタバレになりますが、形成不利となり姿をくらましたドラキュラ伯爵の居場所を何人もの男たちがかかってもさっぱり分からない時に、ホームズ顔負けのロジカルな名推理でミナ嬢が突き止めるシーンは圧巻です。


● 伯爵に血を吸われて (また伯爵の血を飲まされて) 吸血鬼になってしまった少女ルーシー。 彼女を懸命に助けようとするヘルシング教授。 彼は自らの危険を顧みず渾身的につくす医者の鑑なのですが、唐突に出てくる教授のヒステリー症状には面食らいます。少女の死に立ち会ったのちに発作的に笑いが止まらなくなってしまう。これって本作のストーリー構成として必要なんでしょうかね? 実話ドキュメンタリーならあり得ると思いますが、あまり小説の要素としてはそぐわない気がしてなりません。

Arthur and Quincey went away together to the station, and Van Helsing and I came on here. The moment we were alone in the carriage he gave way to a regular fit of hysterics. He has denied to me since that it was hysterics, and insisted that it was only his sense of humor asserting itself under very terrible conditions. He laughed till he cried, and I had to draw down the blinds lest any one should see us and misjudge. And then he cried, till he laughed again, and laughed and cried together, just as a woman does.


● ルーシーは伯爵の毒牙にかかり死後に吸血鬼となったが、最後は首を切られて退治された。 そして親友のルーシーと同様にミナにも自身の血を飲ませて吸血鬼にさせようとしていた伯爵。 ミナは徐々に自身が伯爵の穢れた血で吸血鬼に同化して行くことを自覚していました。 そして、ついに最愛の夫に懇願するミナ。
「お願い、誓って。 私が自分で無くなってしまったら、そしてルーシーの様に吸血鬼になってしまいそうになったら、迷わずあなたの手で私を殺して欲しいの」

"Then I shall tell you plainly what I want, for there must be no doubtful matter in this connection between us now. You must promise me, one and all, even you, my beloved husband, that should the time come, you will kill me."


● 伯爵の穢れた血の洗礼を受けたミナは、伯爵に操られてしまったものの、実はミナも伯爵の心が読めるようになっていました。 これってハリー・ポッターがヴォルテモートから受けた傷が元で、ヴォルテモートの心が読めるようになったのと似ていますね。

He think, too, that as he cut himself off from knowing your mind, there can be no knowledge of him to you. There is where he fail! That terrible baptism of blood which he give you makes you free to go to him in spirit, as you have as yet done in your times of freedom, when the sun rise and set.


果たして男たちはヒロインのミナが完全に吸血鬼になってしまう前に、彼女を助けることができるのか! 現代のミステリー&ファンタジー小説みたいで、想像していたよりも結構面白かったですよ。

Dracula

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The Lottery (Shirley Jackson) - 「くじ」- 207冊目

ジャンル: 小説(ホラー)
英語難易度: ★☆☆
オススメ度: ★★★★☆

「臓器くじ」の話をご存知でしょうか。 哲学者ジョン・ハリスが示した思考実験です。

1. 公平なくじで健康な人をランダムに一人選んで殺す。
2. その人の臓器を取り出し、臓器移植を必要とする人々に配る。
3. くじに当たった人は死ぬが、代わりに多くの人が救われる。
4. さてこのような行為が倫理的に許されるだろうか。

サンデル教授のトロッコ問題にも似たこの究極の選択の話は 功利主義を人間の肉体にまで当てはめてしまうと不快感の強い結果を示すものの明らかに誤りであると指摘するのは大変困難である、というものです。 主張と反論を含め、結構ヘビーです。 (詳しく知りたい方はウィキペディアを参照ください。)

「くじ」という確率的に平等な手続きを踏めば、どんな結果が出たとしてもそれは正当であり甘んじて受けるべきであると考え、そもそもその結論の正しさについて吟味することも行われなくなる。この仮定の話を聞いて思い出したのが本作「The Lottery 」です。

本作、「後味の悪い本」の話題になった時に、たまたま娘から勧められました。 あっと言う間に読めてしまうとても短い話です。 人口300人程の小さな村。 そこで村人全員がが集まって毎年平等にくじを引く話。不条理。 この話のキモはストーリーそのものなので、詳しくは書けませんが、ごく自然に進められるこのくじの手続きが当然のように生活の一部として違和感なく溶け込んでいて、くじそのものの異常性については誰も指摘しない。得体の知れない居心地の悪さを増幅させます。 淡々とくじの結果を受け入れる、それがたとえ自分の家族の身に起こった事だったとしても… そして、何が起きるのだろうと落ち着かない読者にさし向ける最後の一頁。
(1948年発刊)


メモ
● この一節を読んだ時にはゾッとしました。 未読の方にはここだけ取り出しても分かりにくいと思いますので、ぜひ本文を読んでみてください。

Mr. Dunbar had small stones in both hands, and she said, gasping for breath.
"I can't run at all. You'll have to go ahead and I'll catch up with you."
The children had stones already. And someone gave little Davy Hutchinson few pebbles.

想像するに、怖いのはこれらの村人たちはおそらくみんな笑顔だったのだろうという事。 時に、笑顔は恐怖を増幅させる。


永井豪のマンガに「ススムちゃん、大ショック」ってのがありましたけど、 あんな感じの後味の悪さでした…

The Lottery (Illustrated) (English Edition)

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Big Bang (Simon Singh) - 「ビッグバン宇宙論」- 206冊目

ジャンル: サイエンス・ロジック
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★★☆

サイモン・シン 科学啓蒙書シリーズ3作目は「Big Bang」です。 本当に彼の著作にはハズレがありません。 天文学の歴史を紐解きつつ、教科書のように単に知識を並べるのではなく、「なぜそうなるのか」について分かりやすく、かつドラマチックに展開してみせる手法は「Fermat’s Last Theorem」(197冊目)、「The Code Book」(199冊目) 同様にキレ味鮮やか、サスガです。 ガリレオが、ハッブルが、アインシュタインが、生身の人間として生き生きと動き回る!
(2004年発刊)


ご存知の通り、天動説はコペルニクスが唱えた地動説によって覆されましが、その地動説でさえ現代科学の視点から見れば完璧なものではありません。 科学の進歩とは仮説検証の歴史そのものであり、完成形というものがあるわけではなく、少なくとも現時点においては最も確からしい、という事が言えるに過ぎません。 新たな事実が発見されるたびにその事象に対して最も辻褄があうような理論が構築されていく、その繰り返しの歴史が本書にも数多くの例として記されています。

全体の展開や雰囲気はちょっとCarl Saganの「Cosmos」(192冊目)に似ていますが、本作の方がドラマチックに描かれており、グッと引き込まれてしまいます。サイモン・シンのこの三部作を超える科学書には(個人的には)今のところ出会っていません。 彼は科学とはカッコいいものだと教えてくれる伝道者そのものですね。

ちなみに、ビッグバンのネーミングですが、このビッグバン理論の反対派であるフレッド・ホイル自身が大ボラ話として名付けたんだそうな。揶揄して付けた名前が市民権を得るなんて驚いたことでしょう。(本人は生涯、ビッグバン理論を認めなかったそうですが…)

Big Bang: The Most Important Scientific Discovery of All Time and Why You Need to Know About It

Big Bang: The Most Important Scientific Discovery of All Time and Why You Need to Know About It

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Shawshank Redemption (Frank Darabont) - 「ショーシャンクの空に」- 205冊目

ジャンル: その他
英語難易度: ★☆☆
オススメ度: ★★★☆☆

先日は原作の方の「Rita Hayworth and Shawshank Redemptions (刑務所のリタ・ヘイワース) 」(200冊目)を紹介しましたが、今回は映画の方を。 大ファンなので脚本を買ってしまいました。 ティム・ロビンスが主人公アンディ・デュフレーンを演じました。
(2004年発刊)


この映画、名作の誉れ高くご覧になった方も多いかと思います。 敢えて付け足すコメントはありませんが、原作になくて映画のみ出てくる好きなシーンがあります。



● 囚人の身でありながら、執念の「啓蒙活動」により、刑務所内に図書室を作ったアンディ。 寄付として刑務所に送られてきた物品の中にモーツァルトのレコードを見つけます。 放送室に立てこもって鍵をかけ「フィガロの結婚」を大音響で流すシーン。 美しい音楽に長く触れていない囚人たちはしばし立ち止まって、虜囚の身である事を忘れて耳を傾けます。 放送室の外から「ドアを開けろ」と看守がドンドンとドアを叩くのも無視。 それどころか更にボリュームをあげる。 囚われの身なのに囚われていない、このフリーダム。 ホントすごい! 当然、指示を無視した規則違反なので懲罰用の独房に入れられるのですが、連行されるアンディの満足そうな笑顔が忘れられません。
それから原作ではレッドを演じたのは黒人の名優モーガン・フリーマンでしたが、原作のレッドは白人(アイルランド系)で、赤毛だからレッドというあだ名が付いていたかと記憶してます。


● レッドがアンディと再会するために約束の地「ジワタネホ」に向かう海沿いの道を走るバス、そして浜辺でのラストシーン。もう観るしかない!



ちなみにタイトルのレデンプションは、直訳すると「(ションシャンク刑務所での)罪の償い」との意味ですが、レデンプションは会計用語で「償還」の意味もあります。社債の償還、貸した金はキッチリ返してもらうぜ、落とし前はつけてもらうぜ、というダブルミーニングになっているとのこと。

なるほどなるほど。

Shawshank Redemption: The Shooting Script

Shawshank Redemption: The Shooting Script

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The Origin of Species (Charles Darwin) - 「種の起源」- 204冊目

ジャンル: サイエンス・ロジック
英語難易度: ★★★
オススメ度: ★★★☆☆

小さい頃好きだった古いアニメに「メルモちゃん」というのがありました。 手塚治虫先生による名作です。 幼い女の子メルモちゃんが赤色と青色の不思議なキャンディを舐めることで、一気に歳を取りセクシーなお姉さんになったりお婆ちゃんになったり、また赤ん坊になったりするという摩訶不思議なストーリーなんです。 その中でも特にぶっ飛んでいる設定が、摂取するキャンディの配分を変えることで胎児にまで若返り、その後にイヌやネコなどの他の哺乳類に変身するというのがありました。受精卵からエラ付き魚、両生類を経て哺乳類になり、というシーンをよく覚えてます。 「ヒトも受精卵からの状態だと他の生物との共通の要素が多く、そこから他の種に分化(進化)して行くんだな」と驚きながら観ていました。 科学的には随分荒唐無稽な話ですが、これは僕が初めて「進化論」的なものに触れ合った最初の経験でした。
大人になってからDawkinsの「The Selfish Gene (利己的な遺伝子)」を読む機会があり(53冊目)、この本をよく理解するためには原点とも言える「the Origin of Species 」を読まねばならんと考えた次第です。


本書、オリジナルタイトルは「On the Origin of Species by Means of Natural Selection, or the Preservation of Favoured Races in the Struggle for Life」。 非常に長いです。デカルトの「Discourse on the Method (方法序説)」(122冊目)もそうですが、この長いタイトルというのが、昔は箔付けになってたんでしょうかね。
序論からの展開は科学論文というよりも平易な文章でどちらかと言えばエッセイのような感じがしました。 これが現在の生物進化論の大元となっていると思うと、なかなか感慨深いものがありました。 ただ中盤辺りになると徐々に専門的な内容になってきて、字面を追っていても目がスベるようになってきます。動植物の専門英単語名のオンパレードです。 正直、かなり激しく飛ばし読みしました…Kindleの辞書機能を使っていなかったら、おそらく読み終えられなかったと思います。噛みしめるように精読しなければ意味が取れません。 結果、随分と読了するの時間がかかってしまいました。
(1859年発刊)


メモポイント

● 遺伝子の存在がまだ発見されていない19世紀当時に、生存している生物の現象面のみを観察して、いま一般的に知られている生物の樹形図の原型を推理して創り出したところ、ダーウィンは恐るべき慧眼の持ち主と言えます。
その主張のメインは、「自然淘汰・適者生存」。 一言でいうと、環境に適したものが、たまたま(個体レベルではなく種のレベルで) 生き残るということ。 勘違いしてはいけないのが、キリンは環境に適応しようとして首が伸びたんじゃないということ。 たまたま首が長い種が高い木の葉っぱを食べて生き残りました。 そして生き残った種どうしで交配するとその特質は遺伝として更に残されていきます。 ですので今地球上にいる生物はたまたま環境に適応していて今ここにいるということなのです。それは必ずしも優秀だったり強かったりというわけじゃありません。変化するから生き残れるわけではないのです。 種はそれほど簡単に一代で変化などできません。同グループの交配の中で特徴が少しずつ異なる種ができる(遺伝子のちょっとした組み合わせの違いで) 、それによって気の遠くなるような長い期間を経て適応した種のみが残るということなのでした。 その考えに基づくと、今現在ぼくたちの周りにいるすべての生物は、等しく40億年という長い期間を経て自然淘汰の選択を生き残ってきた仲間でありライバルであると言えます。 単細胞生物といえども今でも存在している生物は環境に適合して生き残ってきた、つまり進化の結果であると言えるのでしょう。

Science has not as yet proved the truth of this belief, whatever the future may reveal. On our theory the continued existence of lowly organisms offers no difficulty; for natural selection, or the survival of the fittest, does not necessarily include progressive development—it only takes advantage of such variations as arise and are beneficial to each creature under its complex relations of life.


● 細かい各種の動植物に関する分析を読んでいると、自然淘汰と退化の違いの一節など現在読んでいても古びていません。 「Frankenstein (フランケンシュタイン) 」(93冊目) を読んだ時も感じましたが、19世紀の文章が現在も違和感なく読むことができるとは文化資源として凄いことだと思います。


● 今でこそダーウィン自然淘汰説は最も正当な生物の進化についての理論であると共通認識されていますが、発刊当時は異端学説の一つとしての扱われていました。コペルニクスガリレオと同様、あまりにも世間に受け入れられ難いその考えを主張し続けたダーウィンの心持ちと情熱、臨場感がこの本には溢れています。 進化論に対する反論をこれでもかこれでもかとロジックで覆そうとしています。 その情熱たるや凄いものがあります。
論文発表後まもない頃、本心では進化論を認めている学者もいたようですが、おおっぴらにはしなかったようです。 後には、みんな認めるようになったと、ダーウィンは少し誇らしげです。

I formerly spoke to very many naturalists on the subject of evolution, and never once met with any sympathetic agreement. It is probable that some did then believe in evolution, but they were either silent or expressed themselves so ambiguously that it was not easy to understand their meaning. Now, things are wholly changed, and almost every naturalist admits the great principle of evolution.


ダーウィン反対派は、自然淘汰説に基づいて考えても有為な種が残る可能性は確率から見て非常に小さいと考えました。 すべての生物を創りたもうたのは神であり、特別な配慮がなければこれほどのバラエティに富んだ種が同時に存在するはずもない、と考えたのです。 当時の一般常識では「自分たちの祖先がサルだった」とは受け入れがたい理論だったのでしょう。(ただしこれは誤解です。 祖先がサルというわけではなくヒトとサルの共通の祖先からそれぞれ進化したということなのですが。) また反対派は次のようにも主張しました。 もし自然淘汰により徐々に進化(変化)を遂げたのであれば、なぜ途中経過の種の化石、つまり中間種が見つからないのか? キリンの首が長くなる進化の過程で中くらいの長さの首を持つキリンの先祖の化石は見つからないのか?

ダーウィンは次のように主張しました。
「化石はもともと特殊な条件でしか残らないので、十分に網羅されていないだけ。 今後はもっと発見されるだろう」
「中間種として種が分かれる時には、個体数が少なく分布エリアも狭いのでそもそも化石として残りにくく自然消滅しやすい」

As according to the theory of natural selection an interminable number of intermediate forms must have existed, linking together all the species in each group by gradations as fine as our existing varieties, it may be asked, Why do we not see these linking forms all around us? Why are not all organic beings blended together in an inextricable chaos? With respect to existing forms, we should remember that we have no right to expect (excepting in rare cases) to discover DIRECTLY connecting links between them, but only between each and some extinct and supplanted form.
(中略)
I have also shown that the intermediate varieties which probably at first existed in the intermediate zones, would be liable to be supplanted by the allied forms on either hand; for the latter, from existing in greater numbers, would generally be modified and improved at a quicker rate than the intermediate varieties, which existed in lesser numbers; so that the intermediate varieties would, in the long run, be supplanted and exterminated.


ちなみに読みにくいところを我慢して最終章、「recapitulate conclusion 」まで行けばグッと読みやすくなります。結論のサマリーになっているので、時間の無い方はここだけでも読んでみれば良いかもしれませんよ。

それから、トリビアをひとつ。 ダーウィン一族の華麗なる血筋なんですが、 磁器で有名なウエッジウッドの創業者は母方のおじいちゃんだそうですね。 そして妻となるエマもウェッジウッド家の出身。 いとこ同士の夫婦でした。

The Origin of Species: Filibooks Classics (Illustrated) (English Edition)

The Origin of Species: Filibooks Classics (Illustrated) (English Edition)

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