hearthのお気楽洋書ブログ

洋書読みの洋書知らず。永遠の初心者。 まったりとkindleで多読記録を更新中 (ツイッターは、hearth@洋書&映画)

Flowers for Algernon (Daniel Keyes) - 「アルジャーノンに花束を」- 212冊目

ジャンル: 小説 (SF)
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★★★


小説を読んでいて、最後の一頁(もしくは最後の一行)に思いっきり心を揺さぶられた経験はありませんか? そんな類まれなる本に出会えた時、しばらくの間シビれてしまって茫然としてしまうことがあります。
 
それは必ずしも読者の予想の裏をかいた「どんでん返し」ネタというわけではありません。 この最後の一頁に出会うために長いストーリーを追いかけてきたんだという満足感と、もうこれでこの話は終わりなんだという寂しさに似たような感慨でしょうか。


例えば、Garcia Marquezの「One Hundred Years of Solitude」 (百年の孤独、107冊目) の最後のページ。

この一説を読んだとき、映画「レイダース」のラスト近く、亡霊たちが巻き起こした雷鳴を伴う大混乱の後、聖櫃の蓋が閉じられ一気に静寂が戻るシーンを思い出しました。

Before reaching the final line, however, he had already understood that he would never leave that room, for it was foreseen that the city of mirrors (or mirages) would be wiped out by the wind and exiled from the memory of men at the precise moment when Aureliano Babilonia would finish deciphering the parchments, and that everything written on them was unrepeatable since time immemorial and forever more, because races condemned to one hundred years of solitude did not have a second opportunity on earth.


それから短編では、Jack Finneyの「The Love Letter」(愛の手紙、12冊目)とか。

(ちなみに、これは絶対に原文で読むのがオススメ! 翻訳では、過去形・未来形の違いが表現しきれないため、このラストの魅力が半減します。)

Only a week ago, on my fourth day of searching, I finally found it. It was late in the evening and the sun was almost gone, when I found the old headstone among all the others stretching off in rows under the quiet trees.

Then I read the inscription etched in the weathered old stone: HELEN ELIZABETH WORLEY—1861–1934.

Under this were the words, I NEVER FORGOT.

And neither will I.


そして、前置きが長くなりましたが、本日のご紹介本、「Flowers for Algernon」。

前回の「All She Was Worth」(火車、211冊目)に続いての、徹夜本です。間違いなし!!



粗筋を少し。(ここからネタバレがあるので注意!)

心優しく誰からも愛される青年で知的障害者のチャーリー。 昼はパン屋で働き、夜は障害者の学習クラスに通っていた彼は、ある日、学習クラスの担任であるアリスから開発されたばかりの脳手術を受けることを勧められた。 それは、動物実験対象であるハツカネズミの「アルジャーノン」がこの脳手術により驚異的な知能を獲得したとの臨床結果によるものだった。

そして手術は成功、チャーリーはIQ185という驚異的な知能の持ち主となる。 高知能を持った彼は知識を得る喜びを得たものの、過去に自分が周りの人々から虐げられていたり親に捨てられていた事実を理解するようになる。 また、彼はかつての担任のアリスを恋人として愛しはじめるが、ついには彼女をはるかに超える高知能を得たがゆえに皮肉にも二人は相いれなくなってしまう。 やがて回りの人間を見下し肥大した自尊心を抱えるようになったチャーリーは孤独にさいなまされるようになる。 そんなある日、脳手術を先に受け彼が世話をしていた高IQハツカネズミのアルジャーノンに異変が現れる。 手術で獲得した知能が退行し、しかも以前よりも下降してしまうというものだった。 そしてその手術の欠陥は彼にもいずれ迫ってくる事実であった。

「どんどん 分からなくなっていく」

手のひらからこぼれる落ちる砂のように少しずつチャーリーの知能も退行していく。。。

最後の一文が涙をさそいます。
(1966年発刊)


メモ:
● チャーリーの日記に綴られた言葉。 最初は誤字脱字だらけの文章だったが、手術の効果によりどんどん高度な内容にシフトしていく。 そこには学びの喜びがあった。 その過程は「フランケンシュタイン」(93冊目)のくだりを思い出させる。 このフランケンシュタインが作り上げた怪物も、書物によりミルトン、プルタークゲーテを知り、後天的に高度な知能を獲得していく。

It’s exciting to hear them talking about poetry and science and philosophy—about Shakespeare and Milton; Newton and Einstein and Freud; about Plato and Hegel and Kant, and all the other names that echo like great church bells in my mind.



● 「僕は以前、ウスノロで無知だったからみんなの笑いものにされていた。 ところが今では、僕が知識と知性を持っているからといってみんなから憎まれている。 どうして! 僕はどうすりゃいいんだ!」

Before, they had laughed at me, despising me for my ignorance and dullness; now, they hated me for my knowledge and understanding. Why? What in God's name did they want of me?



● チャーリーより先に知能が低下して狂暴になった後、死んでしまったアルジャーノン。 チャーリーは自らの行く末をこのネズミに重ね合わせる。

「僕はアルジャーノンの小さな亡骸をチーズの箱に入れ、そして裏庭に埋めた。 僕は泣いた。」

I put Algernon's body in a cheese box and buried him in the backyard. I cried.


● もうすぐ知能が低下する事を知ったチャーリー。 全てが分からなくなってしまう前に、今までは真相を知ることを恐れて近づけなかった生みの母親に意を決して会いに行った。チャーリーは幼い頃ずっと、母親に褒められたかった記憶を思い出した。

「お母さん、ほら、僕だよ。チャーリーだよ。捨てられたあなたの息子です。でも恨んでいるわけじゃないんだ。 ただ、僕がこんなに頭がよくなったことを母さんに知って欲しかったんだ。 ほら、なんでもいい、試しに何か難しいことを僕に尋ねてみて。 僕は20か国語も話せる、数学の天才と言われている、後世に残るような素晴らしいピアノコンチェルトも作曲できるんだ。本当だよ」

Here look at me. I'm Charlie, the son you wrote off the books? Not that I blame you for it, but here I am, all fixed up better than ever. Test me. Ask me questions. I speak twenty languages, living and dead; I'm a mathematical whiz, and I'm writing a piano concerto that will make them remember me long after I'm gone.



● 「お願いだからどうか僕を可哀そうだなんて思わないで。。 少しの間だけでも頭がよくなるチャンスを得れらたこと、ほんとに嬉しかったんだ。 たとえ僅かだったとしても僕が今までまったく知らなかったこの世界のことを学ぶことができたんだから。 ほんとに嬉しかった」

...Don't feel sorry for me. I'm glad I had a second chance in life like you said to be smart because I learned a lot of things that I never knew were in this world, and I'm grateful I saw it even for a little bit.



● 最後にチャーリーが記すたどたどしい手紙が胸を刺す。 それは彼にとって、一時的に知能が高くなった時に恋人として愛した人であり、今では「そんけいするキニアンせんせい」に戻ってしまったアリスに宛てたものだった。

「ついしん  もし せんせいが こんど きてくれることがあったら うらにわのアルジャーノンのおはかに おはなをあげてください」

“P.S. please if you get a chanse put some flowrs on Algernons grave in the bak yard.”


愛する人さえも分からなくなってしまう」
この美しいラストはずいぶんと僕の中でショッキングなもので、この切なさに、智恵子抄の「山麗の二人」を重ね合わせてしまいました…

Flowers for Algernon (English Edition)

Flowers for Algernon (English Edition)

にほんブログ村 本ブログ 洋書へ
にほんブログ村


洋書ランキングへ

All She Was Worth (Miyuki Miyabe) - 「火車」- 211冊目

ジャンル: 小説(推理)
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★☆☆

徹夜本推理小説と言えばこれ! 文句なしの面白本として、誰にでもオススメしているのがこの本。

今から20年ぐらい前でしょうか。 本作がテレビドラマ化されていたのを観た記憶があります。 確か、主人公の刑事を三田村邦彦さん、謎の女性を財前直見さんが演じていました。 とても良くできたドラマで、今でもよく覚えています。 特にラストシーンで謎の女性が待ち合わせ場所である喫茶店の階段を降りてくるシーンがゾクゾクするくらい怖くて良かった。  バックでウィルマ・ゴイクが歌った60年代のイタリアのポップス「In un fiore(花のささやき)」が流れていたかと思います。


粗筋を少し。 失踪した婚約者ショウコの行方を捜してほしい、とある親戚(カズヤ)から私的に相談を持ち掛けられたちょっとくたびれた休職中の中年刑事シュンスケ。 ショウコが失踪したきっかけとは、彼女がクレジットカードを持っていないと知ったカズヤが「それでは不便だろう」と作成を進めたところ、審査の段階で彼女が自己破産経験者であることが判明した事によるものだった。 カズヤが自己破産について問い詰めたところ、彼女は突然、職場からも住まいからも姿を消す。 人探しの依頼を受けたシュンスケは、「少し調べればすぐ分かるだろう」と考えていた。 ところが調べれば調べるほど、不審な点が次から次へと出てくる。 ショウコの自己破産手続きを行った弁護士に実際に会って聞き出したところ、自己破産したショウコとは水商売に手を出し容貌も人並みの女性であり、失踪した真面目そうで清楚なイメージの美人であるショウコとは全く似ても似つかなかい。 二人は別の女性だった。 それではショウコと名乗りカズヤと婚約までした後に、行方が分からなくなってしまった彼女はいったい誰なのか。。。
(1996発刊) 

このストーリーはもう有名ですので言うまでもありませんね。 前にも書きましたが、英語の小説に慣れるには既に内容を知っている面白本を読むのが効果的かと思います。  特に本作は名作ですので、既に知っている展開でもハラハラドキドキが止まりません! 十分に楽しめるかと思います。(ただオリジナルは日本語の小説でしたので、オススメ度は星3つにしました)


知らぬ間に借金地獄に陥ってしまったショウコ。 彼女はどこにでもいる普通の若い女性でした。 それほど華美な暮らしを夢見たわけではありません。 少し良い服を着たかっただけ。 少し良い暮らしをしたかっただけ。  「私、どこで間違えたんだろう。 こんなはずじゃなかった。」  

この独白が心に残ります。

[asin:0395966582:detail]
にほんブログ村 本ブログ 洋書へ
にほんブログ村


洋書ランキングへ

The Seven-Per-Cent Solution (Nicholas Meyer) - 「シャーロック・ホームズ氏の素敵な冒険」- 210冊目

ジャンル: 小説 (推理)
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★☆☆

ホームズのパスティーシュの中でもかなり良くできていてオススメです。 正典をたくさん読んだ方には、たまらないひねりも効いています。 もともとこの本の設定は、ワトスン博士の未発表の手記が発見されたとの建てつけで始まります。 ワクワクしますね。
(1974年発刊)


粗筋を簡単に。
ホームズはコカイン中毒により精神を病んでおり、世界の悪の権化で宿敵であるモリアーティ教授にずっと付きまとっていた。が、実はモリアーティはごく平凡で善良な一市民(なんと、少年時代のシャーロック・マイクロフト兄弟の数学の家庭教師だった!)であり、ホームズの妄想による思い込みで尾行されたり、脅迫の電報を送りつけられたりしてホトホト参っていた。 見かねて心配したワトスンが、兄のマイクロフトの知恵を拝借、モリアーティをオトリにして、彼がヨーロッパを悪の世界に染めるために暗躍しているとホームズに思わせて、治療を受けさせるためにホームズを遠くウィーンにまで連れ出すことに成功した。 ウィーンで待つ医者とは名医であり心理学者でもある、かのジークムント・フロイト。 精神状態ボロボロであるホームズだが、フロイト博士の治療により徐々に回復していった。そんなおり、フロイト博士の元に奇妙な患者が現れ、重大事件の発端となった。 ホームズは名探偵の目の輝きを取り戻して事件の解明に乗り出す…

どうです、 このプロットを聞いただけでも面白そうでしょう。 実際、面白いのですよ。 ホームズとワトスンの熱い友情話もあり、ホームズファンにはぜひオススメです。
それから本作は映画化もされました。これも秀逸。

ちなみに、ホームズファンには自明なことですが、タイトルの「The Seven Per-Cent Solution 」とは、ホームズを中毒にしたコカインの水溶液の濃度のことです。
正典である「Sign of Four」(55冊目)にもこの辺りの記述が出てきます。

“Which is it today,” I asked, “morphine or cocaine?”
He raised his eyes languidly from the old black-letter volume which he had opened.
“It is cocaine,” he said, “a seven-per-cent solution. Would you care to try it?”
“No, indeed,” I answered brusquely.


それと、ホームズのパスティーシュ物で僕のイチオシは、各務三郎・編「ホームズ贋作展覧会」(河出文庫)ですね。 短編集なのですが、この中の「テルト最大の偉人」が特に面白い。 なんと、ホームズの正体はシェークスピアだった!

Seven-Percent Solution

Seven-Percent Solution

にほんブログ村 本ブログ 洋書へ
にほんブログ村


洋書ランキングへ

The Only Neat Thing to Do (James Tiptree Jr.) - 「たったひとつの冴えたやりかた」- 209冊目

ジャンル: 小説(SF)
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★★☆

「たったひとつの冴えたやり方」

この邦題が有名です。センスを感じます。 SF小説の翻訳タイトルにはステキなのが多いですね。「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」とか「星を継ぐもの」とか。 思わず手に取りたくなります。

さて本作。 SF用語、多めです。 それほどSFものに造詣が深くないものですから、冒頭から知らない単語が多くてちょっと難しかった… でもガマンして読み続けていると会話文が増えてきます。 急に読みやすくなりました。

ストーリーをご存知の方も多いでしょうが、粗筋を簡単にご紹介します。

16歳の誕生日を迎えた少女コーティは父親からプレゼントされた宇宙船に乗って、両親に黙って宇宙へと冒険の旅に出ます。 途中、立ち寄った星でメッセージパイプを拾うのですが、実はこのパイプの中には異星生物シロベーン(愛称シル)が入っていました。この生物は他の生物に寄生して胞子を増やしていくという性質を持っています。 コーティは気づかぬうちにシルによって脳に入り込まれます。このシルという生き物、恐ろしい寄生モンスターと言うよりも、思いのほかシャイで優しくそして少し冒険好きな生物でした。人間に例えるとコーティと同世代の女の子のような感じ。 友情が芽生え意気投合した二人は冒険の旅を始めましたが、思いがけない運命が彼女たちを待っていました…



メモ (ネタバレあります)

● この寄生生物が宿主の脳神経を操って幸福感を感じるようにさせるところなど、少し気味が悪かったですね。アリに寄生する菌みたいです。寄生されたアリはゾンビアリとなり本能もコントロールされる… 自分の英文読解が間違っているのかも知れませんが、寄生生物に脳を食べられつつある宇宙飛行士たち(多分、男同士の)が菌の生殖のために身体を操られてセックスをするという描写もあり、なんだか凄まじさを感じます。


● ここはラストのクライマックス。未読の方は、読み飛ばして下さい。 いくつか読んだSF小説の中でも圧倒的に感動を呼ぶシーン。 ストーリーは知っていましたが、それでもこの辺りを読むとジーンとしてしまいました…

生殖本能が暴発し宿主であるコーティの命を食い尽くしてしまおうとする衝動を、理性で必死に抑えようとする寄生菌異星人の女の子シルと、他の人たちへの寄生菌繁殖の被害を食い止めようとの使命感のみで痛みに耐えながら動くコーティ。 彼女たちが選択した「The Only Neat Thing to Do (たった一つの冴えたやり方)」とは、シル自身の胞子の繁殖を自分たちの間だけに留めるために、宇宙船ごと太陽に突っ込んで自分たちの命を葬りさることでした。

(ボイスレコーダーに残ったコーティの最期の言葉)
「お願いみんな、シルのこと忘れないで。彼女は本物よ。 彼女は人類のためにこの道を選んだの。そして彼女の種族のためにも… 彼女なら私の脳を操って私を止めることもできたのにそうしなかった、それだけは信じて! みんな、サヨナラ…」
衝撃音。そして音声が途切れ、あとは静寂のみ続く。

この録音をコーティの父親が他のスタッフと聞いているのですが、このシーンが辛かった。

“Good-bye, all. To my folks … Oh, I do love you, Dad and Mum. Maybe somebody at FedBase can explain—ow!! Oh … Oh … I can’t … Hey, Syl, is there anybody you want to say good-bye to? Your mentor?”
A confused vocalization, then, faintly, “Yes …”
“Remember Syl. She’s the real stuff, she’s doing this for Humans. For an alien race. She could have stopped me, believe it. Bye, all.”
A crash, and the record goes to silence.

“Han Lu Han,” says the xenobiologist quietly into the silence. “He was that boy on the Lyra mission. ‘It’s the only really neat thing to do.’ He said that before he took the rescue-run that killed him.”

ラストの印象が強いために、元気女子たちの冒険譚、感動小説のイメージが強いのですが、菌に寄生された宇宙探索員のコーとボーニィのからみの部分や、宿主の脳を食べたのちに、その顔に穴を空けてそこから寄生菌の胞子が飛び出すところなんか結構エグいですね。 この設定、マンガの「寄生獣」のミギーみたいな感じです。


話は変わりますが。

昨年にその使命を終えた土星調査衛星カッシーニの最後をご存知ですか。 13年間という長い年月を通して人類に貢献しその使命を遂げたカッシーニは、土星の大気圏に突入して燃え尽きました。 搭載燃料が尽きたとしてもそのままずっと土星の周回軌道に乗せるという方法もあったでしょう。 しかし、仮に故障して土星の自然衛星であるタイタンやエンケラドスに衝突などした場合には、カッシーニに付着しているかもしれない地球由来の微生物により既存の環境を汚染してしまう恐れがありました。 (そして、タイタンやエンケラドスに生命が存在する可能性があることを見出したのは、なによりカッシーニ自身でした!) そしてカッシーニには最後のミッションが与えられます。それは自身を土星に突入させて溶解滅却させるのと同時に土星の大気組成のデータを地球に送ることでした。

2017年9月15日、カッシーニに最後の日が来ます。 燃え尽きて機体が溶けてしまい流れ星となるその最後の瞬間まで、地球に観測データを送り続けました。 当初の設定プログラムよりも30秒も長く地球に通信を送ってきたそうです。 まるでサヨナラを言うように… カッシーニの親代わりのプロジェクトリーダーは愛する探査機の最後についてこう語ったそうです。「悲しみと、カッシーニの功績への誇りで胸がいっぱいだ。」


そして、このニュースを聞いてすぐに思い出したのがこの「The Only Neat Thing to Do」だったのです。

カッシーニよ、永遠なれ😭

The Starry Rift (English Edition)

The Starry Rift (English Edition)

にほんブログ村 本ブログ 洋書へ
にほんブログ村


洋書ランキングへ

Dracula (Bram Stoker) - 「吸血鬼ドラキュラ」- 208冊目

ジャンル: 小説(ホラー)
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★☆☆

ミナお嬢様と勇敢なる冒険者たちの物語。

はじめに抱いていたイメージとは違ってました。古典っぽくて読みにくいのかなと思っていたら、全然。100年以上も昔の話なんですが、単語も分かりやすいですよ。 土地の古老が話す訛りの強いdialectsを除けば今でも違和感なくスッと読めます。

「Frankenstein」(93冊目)を読んだ時も感じましたが、日本の古文と比べて、英文のクラッシックが広く読まれている理由のひとつに、言葉の変化があまり激しくないという要素があるんじゃないかと思います。 小説というよりも、手紙や電報、日記をつなぎ合わせるという形式で物語が構成されています。 カメラ(コダックという商品名で登場)や蓄音機での音声日記の記述など、当時では最新式だったであろうガジェットも出てきます。 作者のブラム・ストーカーは当時としては斬新な手法にチャレンジしていたのではないでしょうか。
(1897年発刊)


メモ (ちょっとネタバレ)
● これで後世に伝わる典型的なドラキュラ伯爵のビジュアルイメージが出来上がったんでしょう。

His face was a strong, a very strong, aquiline, with high bridge of the thin nose and peculiarly arched nostrils, with lofty domed forehead, and hair growing scantily round the temples but profusely elsewhere. His eyebrows were very massive, almost meeting over the nose, and with bushy hair that seemed to curl in its own profusion.
The mouth, so far as I could see it under the heavy moustache, was fixed and rather cruel-looking, with peculiarly sharp white teeth.


● で、ヒロインのミナが可憐、可愛いのです。 なおかつ頭も良い。 吸血鬼ハンターの男たちに励ましと希望を与えるキャラクター。なんだか男が描いた理想の脳内女性像っぽいです。ちょっと宮崎駿カントク系?

We women have something of the mother in us that makes us rise above smaller matters when the mother spirit is invoked. I felt this big sorrowing man's head resting on me, as though it were that of a baby that some day may lie on my bosom, and I stroked his hair as though he were my own child.

詳しく書くとネタバレになりますが、形成不利となり姿をくらましたドラキュラ伯爵の居場所を何人もの男たちがかかってもさっぱり分からない時に、ホームズ顔負けのロジカルな名推理でミナ嬢が突き止めるシーンは圧巻です。


● 伯爵に血を吸われて (また伯爵の血を飲まされて) 吸血鬼になってしまった少女ルーシー。 彼女を懸命に助けようとするヘルシング教授。 彼は自らの危険を顧みず渾身的につくす医者の鑑なのですが、唐突に出てくる教授のヒステリー症状には面食らいます。少女の死に立ち会ったのちに発作的に笑いが止まらなくなってしまう。これって本作のストーリー構成として必要なんでしょうかね? 実話ドキュメンタリーならあり得ると思いますが、あまり小説の要素としてはそぐわない気がしてなりません。

Arthur and Quincey went away together to the station, and Van Helsing and I came on here. The moment we were alone in the carriage he gave way to a regular fit of hysterics. He has denied to me since that it was hysterics, and insisted that it was only his sense of humor asserting itself under very terrible conditions. He laughed till he cried, and I had to draw down the blinds lest any one should see us and misjudge. And then he cried, till he laughed again, and laughed and cried together, just as a woman does.


● ルーシーは伯爵の毒牙にかかり死後に吸血鬼となったが、最後は首を切られて退治された。 そして親友のルーシーと同様にミナにも自身の血を飲ませて吸血鬼にさせようとしていた伯爵。 ミナは徐々に自身が伯爵の穢れた血で吸血鬼に同化して行くことを自覚していました。 そして、ついに最愛の夫に懇願するミナ。
「お願い、誓って。 私が自分で無くなってしまったら、そしてルーシーの様に吸血鬼になってしまいそうになったら、迷わずあなたの手で私を殺して欲しいの」

"Then I shall tell you plainly what I want, for there must be no doubtful matter in this connection between us now. You must promise me, one and all, even you, my beloved husband, that should the time come, you will kill me."


● 伯爵の穢れた血の洗礼を受けたミナは、伯爵に操られてしまったものの、実はミナも伯爵の心が読めるようになっていました。 これってハリー・ポッターがヴォルテモートから受けた傷が元で、ヴォルテモートの心が読めるようになったのと似ていますね。

He think, too, that as he cut himself off from knowing your mind, there can be no knowledge of him to you. There is where he fail! That terrible baptism of blood which he give you makes you free to go to him in spirit, as you have as yet done in your times of freedom, when the sun rise and set.


果たして男たちはヒロインのミナが完全に吸血鬼になってしまう前に、彼女を助けることができるのか! 現代のミステリー&ファンタジー小説みたいで、想像していたよりも結構面白かったですよ。

Dracula

Dracula

にほんブログ村 本ブログ 洋書へ
にほんブログ村


洋書ランキングへ

The Lottery (Shirley Jackson) - 「くじ」- 207冊目

ジャンル: 小説(ホラー)
英語難易度: ★☆☆
オススメ度: ★★★★☆

「臓器くじ」の話をご存知でしょうか。 哲学者ジョン・ハリスが示した思考実験です。

1. 公平なくじで健康な人をランダムに一人選んで殺す。
2. その人の臓器を取り出し、臓器移植を必要とする人々に配る。
3. くじに当たった人は死ぬが、代わりに多くの人が救われる。
4. さてこのような行為が倫理的に許されるだろうか。

サンデル教授のトロッコ問題にも似たこの究極の選択の話は 功利主義を人間の肉体にまで当てはめてしまうと不快感の強い結果を示すものの明らかに誤りであると指摘するのは大変困難である、というものです。 主張と反論を含め、結構ヘビーです。 (詳しく知りたい方はウィキペディアを参照ください。)

「くじ」という確率的に平等な手続きを踏めば、どんな結果が出たとしてもそれは正当であり甘んじて受けるべきであると考え、そもそもその結論の正しさについて吟味することも行われなくなる。この仮定の話を聞いて思い出したのが本作「The Lottery 」です。

本作、「後味の悪い本」の話題になった時に、たまたま娘から勧められました。 あっと言う間に読めてしまうとても短い話です。 人口300人程の小さな村。 そこで村人全員がが集まって毎年平等にくじを引く話。不条理。 この話のキモはストーリーそのものなので、詳しくは書けませんが、ごく自然に進められるこのくじの手続きが当然のように生活の一部として違和感なく溶け込んでいて、くじそのものの異常性については誰も指摘しない。得体の知れない居心地の悪さを増幅させます。 淡々とくじの結果を受け入れる、それがたとえ自分の家族の身に起こった事だったとしても… そして、何が起きるのだろうと落ち着かない読者にさし向ける最後の一頁。
(1948年発刊)


メモ
● この一節を読んだ時にはゾッとしました。 未読の方にはここだけ取り出しても分かりにくいと思いますので、ぜひ本文を読んでみてください。

Mr. Dunbar had small stones in both hands, and she said, gasping for breath.
"I can't run at all. You'll have to go ahead and I'll catch up with you."
The children had stones already. And someone gave little Davy Hutchinson few pebbles.

想像するに、怖いのはこれらの村人たちはおそらくみんな笑顔だったのだろうという事。 時に、笑顔は恐怖を増幅させる。


永井豪のマンガに「ススムちゃん、大ショック」ってのがありましたけど、 あんな感じの後味の悪さでした…

The Lottery (Illustrated) (English Edition)

The Lottery (Illustrated) (English Edition)

にほんブログ村 本ブログ 洋書へ
にほんブログ村


洋書ランキングへ

Big Bang (Simon Singh) - 「ビッグバン宇宙論」- 206冊目

ジャンル: サイエンス・ロジック
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★★☆

サイモン・シン 科学啓蒙書シリーズ3作目は「Big Bang」です。 本当に彼の著作にはハズレがありません。 天文学の歴史を紐解きつつ、教科書のように単に知識を並べるのではなく、「なぜそうなるのか」について分かりやすく、かつドラマチックに展開してみせる手法は「Fermat’s Last Theorem」(197冊目)、「The Code Book」(199冊目) 同様にキレ味鮮やか、サスガです。 ガリレオが、ハッブルが、アインシュタインが、生身の人間として生き生きと動き回る!
(2004年発刊)


ご存知の通り、天動説はコペルニクスが唱えた地動説によって覆されましが、その地動説でさえ現代科学の視点から見れば完璧なものではありません。 科学の進歩とは仮説検証の歴史そのものであり、完成形というものがあるわけではなく、少なくとも現時点においては最も確からしい、という事が言えるに過ぎません。 新たな事実が発見されるたびにその事象に対して最も辻褄があうような理論が構築されていく、その繰り返しの歴史が本書にも数多くの例として記されています。

全体の展開や雰囲気はちょっとCarl Saganの「Cosmos」(192冊目)に似ていますが、本作の方がドラマチックに描かれており、グッと引き込まれてしまいます。サイモン・シンのこの三部作を超える科学書には(個人的には)今のところ出会っていません。 彼は科学とはカッコいいものだと教えてくれる伝道者そのものですね。

ちなみに、ビッグバンのネーミングですが、このビッグバン理論の反対派であるフレッド・ホイル自身が大ボラ話として名付けたんだそうな。揶揄して付けた名前が市民権を得るなんて驚いたことでしょう。(本人は生涯、ビッグバン理論を認めなかったそうですが…)

Big Bang: The Most Important Scientific Discovery of All Time and Why You Need to Know About It

Big Bang: The Most Important Scientific Discovery of All Time and Why You Need to Know About It

にほんブログ村 本ブログ 洋書へ
にほんブログ村


洋書ランキングへ