hearthのお気楽洋書ブログ

洋書読みの洋書知らず。永遠の初心者。 まったりとkindleで多読記録を更新中 (ツイッターは、hearth@洋書&映画)

Shawshank Redemption (Frank Darabont) - 「ショーシャンクの空に」- 205冊目

ジャンル: その他
英語難易度: ★☆☆
オススメ度: ★★★☆☆

先日は原作の方の「Rita Hayworth and Shawshank Redemptions (刑務所のリタ・ヘイワース) 」(200冊目)を紹介しましたが、今回は映画の方を。 大ファンなので脚本を買ってしまいました。 ティム・ロビンスが主人公アンディ・デュフレーンを演じました。
(2004年発刊)


この映画、名作の誉れ高くご覧になった方も多いかと思います。 敢えて付け足すコメントはありませんが、原作になくて映画のみ出てくる好きなシーンがあります。



● 囚人の身でありながら、執念の「啓蒙活動」により、刑務所内に図書室を作ったアンディ。 寄付として刑務所に送られてきた物品の中にモーツァルトのレコードを見つけます。 放送室に立てこもって鍵をかけ「フィガロの結婚」を大音響で流すシーン。 美しい音楽に長く触れていない囚人たちはしばし立ち止まって、虜囚の身である事を忘れて耳を傾けます。 放送室の外から「ドアを開けろ」と看守がドンドンとドアを叩くのも無視。 それどころか更にボリュームをあげる。 囚われの身なのに囚われていない、このフリーダム。 ホントすごい! 当然、指示を無視した規則違反なので懲罰用の独房に入れられるのですが、連行されるアンディの満足そうな笑顔が忘れられません。
それから原作ではレッドを演じたのは黒人の名優モーガン・フリーマンでしたが、原作のレッドは白人(アイルランド系)で、赤毛だからレッドというあだ名が付いていたかと記憶してます。


● レッドがアンディと再会するために約束の地「ジワタネホ」に向かう海沿いの道を走るバス、そして浜辺でのラストシーン。もう観るしかない!



ちなみにタイトルのレデンプションは、直訳すると「(ションシャンク刑務所での)罪の償い」との意味ですが、レデンプションは会計用語で「償還」の意味もあります。社債の償還、貸した金はキッチリ返してもらうぜ、落とし前はつけてもらうぜ、というダブルミーニングになっているとのこと。

なるほどなるほど。

Shawshank Redemption: The Shooting Script

Shawshank Redemption: The Shooting Script

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The Origin of Species (Charles Darwin) - 「種の起源」- 204冊目

ジャンル: サイエンス・ロジック
英語難易度: ★★★
オススメ度: ★★★☆☆

小さい頃好きだった古いアニメに「メルモちゃん」というのがありました。 手塚治虫先生による名作です。 幼い女の子メルモちゃんが赤色と青色の不思議なキャンディを舐めることで、一気に歳を取りセクシーなお姉さんになったりお婆ちゃんになったり、また赤ん坊になったりするという摩訶不思議なストーリーなんです。 その中でも特にぶっ飛んでいる設定が、摂取するキャンディの配分を変えることで胎児にまで若返り、その後にイヌやネコなどの他の哺乳類に変身するというのがありました。受精卵からエラ付き魚、両生類を経て哺乳類になり、というシーンをよく覚えてます。 「ヒトも受精卵からの状態だと他の生物との共通の要素が多く、そこから他の種に分化(進化)して行くんだな」と驚きながら観ていました。 科学的には随分荒唐無稽な話ですが、これは僕が初めて「進化論」的なものに触れ合った最初の経験でした。
大人になってからDawkinsの「The Selfish Gene (利己的な遺伝子)」を読む機会があり(53冊目)、この本をよく理解するためには原点とも言える「the Origin of Species 」を読まねばならんと考えた次第です。


本書、オリジナルタイトルは「On the Origin of Species by Means of Natural Selection, or the Preservation of Favoured Races in the Struggle for Life」。 非常に長いです。デカルトの「Discourse on the Method (方法序説)」(122冊目)もそうですが、この長いタイトルというのが、昔は箔付けになってたんでしょうかね。
序論からの展開は科学論文というよりも平易な文章でどちらかと言えばエッセイのような感じがしました。 これが現在の生物進化論の大元となっていると思うと、なかなか感慨深いものがありました。 ただ中盤辺りになると徐々に専門的な内容になってきて、字面を追っていても目がスベるようになってきます。動植物の専門英単語名のオンパレードです。 正直、かなり激しく飛ばし読みしました…Kindleの辞書機能を使っていなかったら、おそらく読み終えられなかったと思います。噛みしめるように精読しなければ意味が取れません。 結果、随分と読了するの時間がかかってしまいました。
(1859年発刊)


メモポイント

● 遺伝子の存在がまだ発見されていない19世紀当時に、生存している生物の現象面のみを観察して、いま一般的に知られている生物の樹形図の原型を推理して創り出したところ、ダーウィンは恐るべき慧眼の持ち主と言えます。
その主張のメインは、「自然淘汰・適者生存」。 一言でいうと、環境に適したものが、たまたま(個体レベルではなく種のレベルで) 生き残るということ。 勘違いしてはいけないのが、キリンは環境に適応しようとして首が伸びたんじゃないということ。 たまたま首が長い種が高い木の葉っぱを食べて生き残りました。 そして生き残った種どうしで交配するとその特質は遺伝として更に残されていきます。 ですので今地球上にいる生物はたまたま環境に適応していて今ここにいるということなのです。それは必ずしも優秀だったり強かったりというわけじゃありません。変化するから生き残れるわけではないのです。 種はそれほど簡単に一代で変化などできません。同グループの交配の中で特徴が少しずつ異なる種ができる(遺伝子のちょっとした組み合わせの違いで) 、それによって気の遠くなるような長い期間を経て適応した種のみが残るということなのでした。 その考えに基づくと、今現在ぼくたちの周りにいるすべての生物は、等しく40億年という長い期間を経て自然淘汰の選択を生き残ってきた仲間でありライバルであると言えます。 単細胞生物といえども今でも存在している生物は環境に適合して生き残ってきた、つまり進化の結果であると言えるのでしょう。

Science has not as yet proved the truth of this belief, whatever the future may reveal. On our theory the continued existence of lowly organisms offers no difficulty; for natural selection, or the survival of the fittest, does not necessarily include progressive development—it only takes advantage of such variations as arise and are beneficial to each creature under its complex relations of life.


● 細かい各種の動植物に関する分析を読んでいると、自然淘汰と退化の違いの一節など現在読んでいても古びていません。 「Frankenstein (フランケンシュタイン) 」(93冊目) を読んだ時も感じましたが、19世紀の文章が現在も違和感なく読むことができるとは文化資源として凄いことだと思います。


● 今でこそダーウィン自然淘汰説は最も正当な生物の進化についての理論であると共通認識されていますが、発刊当時は異端学説の一つとしての扱われていました。コペルニクスガリレオと同様、あまりにも世間に受け入れられ難いその考えを主張し続けたダーウィンの心持ちと情熱、臨場感がこの本には溢れています。 進化論に対する反論をこれでもかこれでもかとロジックで覆そうとしています。 その情熱たるや凄いものがあります。
論文発表後まもない頃、本心では進化論を認めている学者もいたようですが、おおっぴらにはしなかったようです。 後には、みんな認めるようになったと、ダーウィンは少し誇らしげです。

I formerly spoke to very many naturalists on the subject of evolution, and never once met with any sympathetic agreement. It is probable that some did then believe in evolution, but they were either silent or expressed themselves so ambiguously that it was not easy to understand their meaning. Now, things are wholly changed, and almost every naturalist admits the great principle of evolution.


ダーウィン反対派は、自然淘汰説に基づいて考えても有為な種が残る可能性は確率から見て非常に小さいと考えました。 すべての生物を創りたもうたのは神であり、特別な配慮がなければこれほどのバラエティに富んだ種が同時に存在するはずもない、と考えたのです。 当時の一般常識では「自分たちの祖先がサルだった」とは受け入れがたい理論だったのでしょう。(ただしこれは誤解です。 祖先がサルというわけではなくヒトとサルの共通の祖先からそれぞれ進化したということなのですが。) また反対派は次のようにも主張しました。 もし自然淘汰により徐々に進化(変化)を遂げたのであれば、なぜ途中経過の種の化石、つまり中間種が見つからないのか? キリンの首が長くなる進化の過程で中くらいの長さの首を持つキリンの先祖の化石は見つからないのか?

ダーウィンは次のように主張しました。
「化石はもともと特殊な条件でしか残らないので、十分に網羅されていないだけ。 今後はもっと発見されるだろう」
「中間種として種が分かれる時には、個体数が少なく分布エリアも狭いのでそもそも化石として残りにくく自然消滅しやすい」

As according to the theory of natural selection an interminable number of intermediate forms must have existed, linking together all the species in each group by gradations as fine as our existing varieties, it may be asked, Why do we not see these linking forms all around us? Why are not all organic beings blended together in an inextricable chaos? With respect to existing forms, we should remember that we have no right to expect (excepting in rare cases) to discover DIRECTLY connecting links between them, but only between each and some extinct and supplanted form.
(中略)
I have also shown that the intermediate varieties which probably at first existed in the intermediate zones, would be liable to be supplanted by the allied forms on either hand; for the latter, from existing in greater numbers, would generally be modified and improved at a quicker rate than the intermediate varieties, which existed in lesser numbers; so that the intermediate varieties would, in the long run, be supplanted and exterminated.


ちなみに読みにくいところを我慢して最終章、「recapitulate conclusion 」まで行けばグッと読みやすくなります。結論のサマリーになっているので、時間の無い方はここだけでも読んでみれば良いかもしれませんよ。

それから、トリビアをひとつ。 ダーウィン一族の華麗なる血筋なんですが、 磁器で有名なウエッジウッドの創業者は母方のおじいちゃんだそうですね。 そして妻となるエマもウェッジウッド家の出身。 いとこ同士の夫婦でした。

The Origin of Species: Filibooks Classics (Illustrated) (English Edition)

The Origin of Species: Filibooks Classics (Illustrated) (English Edition)

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Getting to Yes (Roger Fisher) - 「ハーバード流交渉術」- 203冊目

ジャンル: ビジネス・経済
英語難易度: ★☆☆
オススメ度: ★★★★☆

「交渉力」と言えば、僕にはいつも思い浮かぶ人がいます。 もう十数年も前の話です。 会社でのプロジェクトで複数の企業にまたがる大規模なコンピュータシステムを導入するというプランがあり、僕は自分の所属する会社の意向を伝えるために、そのプロジェクトメンバーの一人として参画したことがありました。その業務を通じて知り合ったある人物なのですが、孫請けの外注ソフトウェア会社から派遣されてきた方で、この人と共にした仕事はまさに目からウロコが落ちるほどのインパクトのある経験でした。

彼は40代半ばぐらいで見かけはそれほど切れ者風でもありません。飄々とした雰囲気をまとった冗談好き、いつもニコニコしている人でした。僕はこっそりと彼のことを「飄々さん」と呼んでいました。 僕たちに与えられたミッションは複数企業にまたがる共有システムの導入でした。 各企業の利益代表として一様に「以前とここが違う、こうしてもらわなければ困る」と、口々に自分の(自社の)意見を主張して譲らない中、飄々さんはいつも静かに頷いて傾聴していました。 やがて紛糾した会議の落とし所が見えなくなり参加者が不安に思い始めた頃、 おもむろに立ち上がってホワイトボードの前に立ち、みんなからの意見を整理して書き始めたのでした。それも無秩序に書くのではなく、pros / consを整理した表形式でまとめながら。 決して自身の主張を押し付けるのではなく、激昂するメンバーの意見に対しても感情的にもならずに淡々と事実を確認しながら根気強く解決策を編み上げていく。その後、これらのステップを何回か繰り返し、最後には当事者同士ではいつまで経っても解決しないだろうと考えていた問題の多くについて、彼が調整役をすることによって少しずつ解決の糸口が見えてきたのでした。 そして合意に至った結論とは、各会社・部門にとってベストとは言えないまでも、譲歩できるレベルまで整理されたベターなものだったのです。 飄々さんのこの鮮やかな手法には感嘆しました。もしこの手法を技術として習得できるものならばこれはスゴい財産になる、そう感じたのです。

今回ご紹介する本作、「Getting to Yes」を読んで思い出したのがこの飄々さんのことです。著者が「交渉術」に肝要と示したポイントを読んで感じたのは、この飄々さんの交渉の進め方が本作のセオリーにとても近かったのです。


読みやすい英文です。 やはり交渉術の本だけあって、相手に理解・納得してもらってナンボなんでしょうから、分かりやすく書かれていると思います。
(ちなみに邦題は「ハーバード流交渉術」。 例によってビジネス書の邦題はホントに頂けませんね。原書タイトルのどこにもハーバードなんて書いてありません。)
(1981年発刊)


メモ
● 良い関係を築く交渉は大事。 だが弱い態度の交渉が良いわけではない。交渉相手がハードポジションであれば、引きずられることになる。

More seriously, pursuing a soft and friendly form of positional bargaining makes you vulnerable to someone who plays a hard game of positional bargaining.


● 交渉に大事な四つのポイント

People:
Separate the people from the problem.
個人である交渉相手と交渉の課題そのものを切り分けること。個人攻撃は絶対にしない。 その場だけ勝ってよしとするのではなく、それ以降も相手と良い関係をキープするのが大事。 交渉は一過性で終わらないことが多いから。

Interests:
Focus on interests, not positions.
表面上の主張ではなく、本当に必要としているポイントを見失わないこと。見た目だけの勝ち負けにはこだわらない。 一つのオレンジを取り合ってケンカしている子供たち。 よくよく聞いてみると、一人は料理に使うのでその皮だけが欲しくて、もう一人は中の身を食べたかった。 どちらも表面上の「オレンジが欲しい」との主張では分からないこともある。

Options:
Invent multiple options looking for mutual gains before deciding what to do.
お互いにメリットがある手法を出来るだけ多く考え出すこと。そのためにはお互いの必要ポイントを正しく理解すること。

Criteria:
Insist that the result be based on some objective standard.
交渉の結果は客観的に見て納得できるような結論であること。 フェアであれ。 立場を利用した強権によるポジショントークは絶対だめ! 上司だからとか、得意先だからとかといって強引に進めると、相手に遺恨を残し後日に悪影響となって現れることが多い。


● 気難しい上司や他部署の人に対して納得しづらい提案のOKを求める場合は、その提案を作りあげる前に彼らをその過程の段階で巻き込んでしまえば良い。苦手な人だからといってなるべく接触を少なくして、案を完成させてから認めてもらおうとしても、最後に話を持っていくと難航するケースが多い。 提案作りに積極的に参加しているとスンナリと合意が取れるものだ。 逆に、たとえ納得できる提案であっても初耳だったりすると、「話を通されていない」とヘソを曲げてしまうのはアルアル。

If you want the other side to accept a disagreeable conclusion, it is crucial that you involve them in the process of reaching that conclusion.
This is precisely what people tend not to do. When you have a difficult issue to handle, your instinct is to leave the hard part until last. “Let’s be sure we have the whole thing worked out before we approach the Commissioner.” The Commissioner, however, is much more likely to agree to a revision of the regulations if he feels that he has had a part in drafting it.


● 謝罪とは最も安価で効果のある交渉術である。

On many occasions an apology can defuse emotions effectively, even when you do not acknowledge personal responsibility for the action or admit an intention to harm. An apology may be one of the least costly and most rewarding investments you can make.


● 公正、効率的、科学的な根拠を示す。ますます主張に説得力が増してくる。

The more you bring standards of fairness, efficiency, or scientific merit to bear on your particular problem, the more likely you are to produce a final package that is wise and fair.


● 交渉において、沈黙は最良の武器の一つである。 相手にやましい点がある場合、一言も発しないのはかなり有効。 もし、こちらから続いて別の質問をすることは、せっかく引っ掛けた釣り針を自ら外すことになる。

Silence is one of your best weapons. Use it. If they have made an unreasonable proposal or an attack you regard as unjustified, the best thing to do may be to sit there and not say a word.


● 重要な決定はその場で決めようとしない。相手に考える時間を与える事。

A good negotiator rarely makes an important decision on the spot. The psychological pressure to be nice and to give in is too great. A little time and distance help disentangle the people from the problem.



この本は「How to Win Friends and Influence People (人を動かす)」(34冊目)に匹敵する、人間の心の動きを理解するための良書だと感じました。 “誰もがみんな「自分はひとかどの人物です。大事に扱ってください」という看板を常に首からぶら下げているようなものだ”、と言ったのはデール・カーネギーでした。みんな自分は重要視されたい、そこを分かっていないと人は動かない、そういう事なんですね。 交渉術の要です。

話は戻ります。 その後くだんのシステムもなんとか導入を終え、プロジェクトは発展的解散となりました。そして最後に一度、僕は飄々さんに飲みに連れていってもらいました。 実のところ、彼にとって僕は顧客会社の一人としての位置付けではあったのでしょうが、接待のような雰囲気はまったくなく、仕事とはあまり関係ないバカ話をしながら、人生の先輩かつ友人として接してくれました。自分も歳を重ねたらこのような感じの人になりたいなあ、とぼんやり考えていたことを覚えています。

その後、システムの保守業務は別の業者に委ねられ、なんとなく飄々さんと会う機会もないまま時が過ぎて今に至ります。 今までいろんな上司や同僚、部下の人たちと接する機会がありましたが、このように鮮やかに思い出させる人はそうはいませんでした。 できることなら、もっとそばにいて彼の仕事の進め方を学びたかったな、今でも活躍されているかな、等と時々思い起こします。

Getting to Yes: Negotiating Agreement Without Giving In

Getting to Yes: Negotiating Agreement Without Giving In

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Harry Potter and the Philosopher’s Stone (J.K. Rowling) - 「ハリーポッターと賢者の石」- 202冊目

ジャンル: 小説 (ファンタジー)
英語難易度: ★☆☆
オススメ度: ★★★★★

少し前の話ですが、AIにハリー・ポッターシリーズを読み込ませて、J.K.ローリングの筆致を真似した短いお話を作らせたというニュースが話題になりました。その名も「Harry Potter and the Portrait of What Looked Like a Large Pile of Ash (ハリー・ポッターと山盛りの灰のように見えるものの肖像)」 なんか、ありえんタイトルです。
そのストーリーも無茶苦茶で、ロンがハーマイオニーの家族を食べたり、ハリーが自分の目をえぐり出して森に投げつけたり…ほとんどホラー小説ですね。 ローリングの作品をこのAIに大量に記憶させて使用頻度の高い文章パターンを組み合わせ、予測変換させて導き出したそうです。 で、その英文を少し読んでみたんですが、たしかにシュールな内容ではありましたが文章自体は意外にこなれた英文に見えましたよ。 興味ある方は「AI、ハリー・ポッター」でググッてみて下さい。



さて、今日は超有名作品「Harry Potter and the Philosopher's Stone (ハリー・ポッターと賢者の石)」の抜書メモです。(US版では賢者の部分がPhilosopherではなくSorcererと改題されています。 フイロソファーだと「哲学者」のようなイメージになってしまうからでしょうかね。)

読んだのは随分と前のことで、子供たちが小さい頃には映画も観に行きました。DVDも持ってます。 今よりももっと読解力が低かった頃にこの本を手にしたのですが、始めからワクワクしっぱなしで、一気に読み通したことを覚えています。 同じファンタジー物でも最近読んだTolkienの「The Hobitt」(191冊目)は単調に感じてしまって読み進めるのがちょっとシンドかったのですが、ハリー・ポッターはストーリーがとにかく面白い。 心に残る名シーンがてんこ盛りです。 特にダンブルドア校長のセリフには魅せられます。
(1997年発刊)


メモポイント

ホグワーツにて。満面の笑みで新入生を歓迎するダンブルドア校長。 楽しい宴の前に校長からの訓話があります。
「ようこそ、ホグワーツへ。 それでは宴の前に一言、二言、歓迎の言葉を述べさせて頂きたい。それは「一言、二言!」 以上、終わり!」
生徒たちの大拍手。

Albus Dumbledore had gotten to his feet. He was beaming at the students, his arms opened wide, as if nothing could have pleased him more than to see them all there.
"Welcome!" he said. "Welcome to a new year at Hogwarts! Before we begin our banquet, I would like to say a few words. And here they are: Nitwit! Blubber! Oddment! Tweak!"
"Thank you!"
He sat back down. Everybody clapped and cheered. Harry didn't know whether to laugh or not.
さすが、ダンブルドア! こんな時に長話は無用。少年少女たちの気持ちをよーく分かってらっしゃる。


● ハリーのクラス分けシーン。
「スリザリンは嫌、スリザリンは嫌」
「うん、スリザリンは嫌か? せっかく偉大に慣れる素質があるというのに…そうじゃな…それではむしろ、グリフィンドール!!」 ”組み分け帽”が高々と叫ぶ。

“Hmm,” said a small voice in his ear. “Difficult. Very difficult. Plenty of courage, I see. Not a bad mind either. There’s talent, oh my goodness, yes — and a nice thirst to prove yourself, now that’s interesting. . . . So where shall I put you?”
Harry gripped the edges of the stool and thought, Not Slytherin, not Slytherin.
“Not Slytherin, eh?” said the small voice. “Are you sure? You could be great, you know, it’s all here in your head, and Slytherin will help you on the way to greatness, no doubt about that — no? Well, if you’re sure — better be GRYFFINDOR!”


● 「ヴォルデモートと呼びなさい、ハリー。 ものを呼ぶには適切な名前を使うことを心がけるんだよ。 名前を恐れているとそのもの自身に対する恐れも大きくなるからね。」とダンブルドア

Call him Voldemort, Harry. Always use the proper name for things. Fear of a name increases fear of the thing itself.’

始めに言葉ありき。言葉が思考を定義する。


● 「Mirror of Erised」の切ないシーン。 それは真実では無かったとしても見る者が望んだ通りの姿を映し出してくれる魔法の鏡。 ハリーが鏡の中に見たものとは、幼い頃に亡くなった両親がハリーを愛情込めて抱いている姿だった。 しかし、その鏡は見る者に知識も真実も伝えるものではない。 心の隙間にある「こうありたい」との欲望をそのままに映し出すただの幻影。 麻薬のように人の心を蝕んでいく。
(Erised はdesireの逆さ文字。 翻訳では「のぞみ」を逆さにして「みぞの」鏡となっていました)

“Can you think what the Mirror of Erised shows us all?" Harry shook his head.
"Let me explain. The happiest man on earth would be able to use the Mirror of Erised like a normal mirror, that is, he would look into it and see himself exactly as he is. Does that help."
Harry thought. Then he said slowly, "It shows us what we want... whatever we want..."
"Yes and no," said Dumbledore quietly.
"It shows us nothing more or less than the deepest, most desperate desire of our hearts. You, who have never known your family, see them standing around you. Ronald Weasley, who has always been overshadowed by his brothers, sees himself standing alone, the best of all of them. However, this mirror will give us neither knowledge or truth. Men have wasted away before it, entranced by what they have seen, or been driven mad, not knowing if what it shows is real or even possible.


● ハリー、ロン、ハーマイオニーは、ホグワーツ教授陣が賢者の石を守るために巡らせた鉄壁の魔法の守りに立ち向かう。 圧巻なのはその守りの一つ、生身の身体で闘う巨大チェスのシーン。 相手のキングをチェックメイトしないとそこから先には進めない。 ここでチェスが得意なロンが活躍、男気を見せる。 自分を犠牲にしてでも、ホグワーツを救うためにハリーに先を急がせるロン。

「もう少しで終わるよ」急にロンが呟いた。
「ちょっと待って… えーっと」
クイーンが真っ白な顔をロンに向けた。
「うん、やっぱりそうだ…」ロンが穏やかに言った。「これしかない。 ぼくが取られるしかないんだ。」
「駄目!!」とハリーとハーマイオニーが叫んだ。
「これがチェスなんだ!」とロンはぴしゃりと言った。 「犠牲を払わなくちゃいけないんだ! ぼくがコマを進める。 するとクイーンがぼくを取る。 ハリー、そうすると君が自由に動けるようになるから、キングにチェックメイトをかけるんだ!」

‘We're nearly there,’ he muttered suddenly.
‘Let me think - let me think …’
The white queen turned her blank face towards him.
‘Yes …’ said Ron softly, ‘it's the only way … I've got to be taken.’
‘NO!’ Harry and Hermione shouted.
‘That's chess!’ snapped Ron.
‘You've got to make some sacrifices!
 I'll make my move and she'll take me - that leaves you free to checkmate the king, Harry!’


● ヴォルデモートとの闘いを終えたハリー。見舞いに来てくれたダンブルドア校長。
「どうしてクィレルは、ぼくに触れることができなかったんですか」
「君のお母さんは命をかけて君を守ったんだよ。 もしヴォルデモートに理解できない事があるとすればそれは愛だ。その愛の印を君に残していくほど、お母さんの愛情が強いものだったことに彼は気づかなかったのだよ。」

“Your mother died to save you. If there is one thing Voldemort cannot understand, it is love. He didn't realise that love as powerful as your mother's for you leaves its own mark. Not a scar, no visible sign...to have been loved so deeply, even though the person who loved us is gone, will give us some protection for ever.’


● 最後のシーン。
「勇気にもいろいろある」と、微笑みながらダンブルドア。「敵に立ち向かうのには大変勇気がいる。しかし正しいと信じることのために、友に立ち向かうのにも同じくらい勇気がいるものだ。したがってネビル・ロングボトムに10点を与えよう」

‘There are all kinds of courage,’ said Dumbledore, smiling.’ It takes a great deal of bravery to stand up to our enemies, but just as much to stand up to our friends. I therefore award ten points to Mr. Neville Longbottom.’



そしてダンブルドアと言えばコレ!
“Alas! Earwax!”  なんと! 耳くそ味じゃ!!
(ここは故・永井一郎さんの声で。)


Harry Potter and the Philosopher's Stone

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The Pleasure of Finding Things Out (Richard P. Feynman) - 「聞かせてよ、ファインマンさん」- 201冊目

ジャンル: サイエンス・ロジック
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★★☆

ファインマンさんを取り上げるのは、もう何冊目になりますか… 今回はエッセイ集です。 講演、インタビューを元にまとめたもの。随分と読みやすいと感じました。 ただほかの本に書かれていた内容と少しカブる部分もあります。 ファインマンさんを初めて読む方には「Surely you’re joking,...」(134冊目) の方をオススメします。

それにしてもこの人ほど「知るは喜びなり」を体現した人はいないでしょう。 物理学のジャンルに収まりきらず、身の回りのこと全てにおいて謎を楽しむスタンス。 ソクラテス的な「無知の知」の考え方を自らの人生でもって追求し続けた人。 「知らない、分かっていない」ということを認識できる人は、謎に対して謙虚であり知ろうとする努力を怠らないんですね。
(1999年発刊)



メモポイント

● 我々は常に疑いの余地を残さなければならない。そうでないと進歩も学びもなくなってしまう。 健全なる懐疑心。

We absolutely must leave room for doubt or there is no progress and there is no learning. There is no learning without having to pose a question. And a question requires doubt. People search for certainty. But there is no certainty. People are terrified — how can you live and not know? It is not odd at all. You only think you know, as a matter of fact. And most of your actions are based on incomplete knowledge and you really don't know what it is all about, or what the purpose of the world is, or know a great deal of other things. It is possible to live and not know.



● ぼくは疑いや曖昧さを持ったままで答えを知らなくても生きていけるよ。間違った答えを持って生きるよりも、知らないで生きる方がよっぽど面白い。

I can live with doubt and uncertainty and not knowing. I think it's much more interesting to live not knowing than to have answers that might be wrong.


● 科学ってのは、専門家がいかに無知であるかを知る学問なんだ。

Science is the belief in the ignorance of experts.


● 興味のある知性のジャンルが、かなり理系偏重だと本人自身が述懐しています。 「緋色の研究」でワトソンが書いたホームズの通知表のエピソードを思い出しました。

I've always been rather very one-sided about the science, and when I was younger, I concentrated almost all my effort on it. I didn't have time to learn, and I didn't have much patience for what's called the humanities; even though in the university there were humanities that you had to take, I tried my best to avoid somehow to learn anything and to work on it. It's only afterwards, when I've gotten older and more relaxed that I've spread out a little bit — I've learned to draw, and I read a little bit, but I'm really still a very one-sided person and don't know a great deal. I have a limited intelligence and I've used it in a particular direction.


以前にも書きましたが、これらのファインマンの一連の書籍に学生時代に出会いたかった、そう思わせてくれる本です。 今の高校生・中学生の皆さんにぜひぜひオススメしたい!

The Pleasure of Finding Things Out: The Best Short Works of Richard P. Feynman (English Edition)

The Pleasure of Finding Things Out: The Best Short Works of Richard P. Feynman (English Edition)

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Rita Hayworth and Shawshank Redemptions (Stephen King) - 「刑務所のリタ・ヘイワース」- 200冊目

ジャンル: 小説(サスペンス)
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★★★

ついに200冊目のキリ番になりました。 今日は大好きな本の感想を書くことにします😊
なので長くなりますが…

「男は強くなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない」

フィリップ・マーロウにそう語らせたのはレイモンド・チャンドラーでした。 このハードボイルド私立探偵のセリフを聞いて僕がいつも思い出すのが、本作の主人公アンディ・デュフレーンです。

邦題「刑務所のリタ・ヘイワース」 (Different Seasons)に収録。 もうコレ、好き過ぎて何から書いていいか分からないぐらいの大ファンです。 アンディと刑務所でできた無二の親友レッド。 何度も何度も繰り返し読みました。

名画「ショーシャンクの空に」の原作であり、有名過ぎる話で今さら粗筋の紹介も必要ないですよね。 妻殺しの嫌疑により無実の罪で捕まった銀行員アンディの奇跡の復活の物語です。 フィクションの世界とは知りつつも本当にこのような人間に憧れます。 どのような悲惨な状況だったとしても、人としての尊厳を失わない、そして他人を思いやる気持ちを失わない。 どうせこの世に生を受けたからにはこのような高邁な精神を持った人になりたい、と感動させてくれる名作です。 フランクルの「Man’s Search for Meaning (夜と霧)」(47冊目)を彷彿とさせます。
(1982年発刊)


メモ
(印象に残るシーンばかり。自分のメモのために大量に引用してしまいました… かなりネタバレです。 映画も原作も読んでいない方はご注意を。)

● 刑務所内。休憩時間中のグラウンドで。新入りのアンディと古株囚人レッドの初対面のシーン。このような閉ざされた環境の中でも超然としているアンディにレッドは感心する。 どんなところにいても自分らしさを失わないアンディ。
「ヤツは自分の名を名乗り握手を求めてきた。 そしてムダな社交辞令の時間潰しなどせずにいきなり本題に入った。」
『ヤミの調達屋をしていると聞いたんだが』

“Hello,” he said. “I’m Andy Dufresne.” He offered his hand and I shook it. He wasn’t a man to waste time being social; he got right to the point. “I understand that you’re a man who knows how to get things.”

(鉱物を削るための小さなロックハンマーを調達して欲しいというアンディにレッドが尋ねる)
「何に使うんだ?」
「驚いたな。 君のビジネスには使用目的を明らかにしなけりゃいけないのかい?」
周りの連中はアンディをとてもスカしてお高くとまったクソ野郎だと言ってるのがよく分かった。 しかしオレはヤツの言い草に少しユーモアを感じたし、それほど嫌な気はしなかった」

“What would that be, and why would you want it?”
Andy looked surprised. “Do you make motivations a part of your business?” With words like those I could understand how he had gotten a reputation for being the snobby sort, the kind of guy who likes to put on airs—but I sensed a tiny thread of humor in his question.

「『商談』をしていると突然野球のボールがオレたちの方に飛んできた。ぶつかると思いきや、ヤツは少しも身じろがずに片手で受けとめサッとスナップを効かせて投げ返した。とても自然な動作だ。… オレは『調達屋』として、このムショでは一目置かれていたし、オレのサジ加減一つでヤツのここでの暮らし振りが決まるってのは明らかだった。 だがヤツはそんなオレに媚びる素振りも見せず淡々と話し続けた。 そう、オレはアンディを気に入っちまったのさ。」

An old friction-taped baseball flew toward us and he turned, cat-quick, and picked it out of the air. It was a move Frank Malzone would have been proud of. Andy flicked the ball back to where it had come from—just a quick and easy-looking flick of the wrist, but that throw had some mustard on it, just the same.
(......)
At Shawshank I was one of those with some weight, and what I thought of Andy Dufresne would have a lot to do with how his time went. He probably knew it, too, but he wasn’t kowtowing or sucking up to me, and I respected him for that.


● シスターと言われる刑務所内の同性愛者たちに付け狙われ暴行を受けるアンディ。 しかしどれだけ狙われても彼の超然としたスタンスは変わらなかった。 しかしついにランドリーの隅に追い詰められたアンディは、シスター達にレイプされ、さらにペニスを口に押し込まれブロージョブでイカせるように脅される。

『オレの口に入れたらソレを失うことになるぞ』とアンディ。
コイツはイカれたのかと思いながらシスターの一人は言った。 『オマエ、ちょっとオカしいんじゃねえか? オマエがオレのムスコをしゃぶらねえと、この8インチドライバーをオマエの耳にぶっ突き刺すって言ってんだよ』
『オレはオマエたちの言う事は100%理解している。分かってないのはオマエ達の方だ。オマエのソレが口に入った状態でオレの脳を傷つけたら、即座にオレは放尿、脱糞、歯を食いしばる。そしてオマエのソレを噛みちぎる。 簡単な話だ。』
その時のアンディはパンツを足首まで下ろされひざまずき、レイプの後で内股から血を垂らしていたにもかかわらず、まるでスリーピース・スーツを着た銀行員が株の取引を説明でもするような落ち着いた口調だった。」

Andy said, “Anything of yours that you stick in my mouth, you’re going to lose it.” Bogs looked at Andy like he was crazy, Ernie said.
“No,” he told Andy, talking to him slowly, like Andy was a stupid kid. “You didn’t understand what I said. You do anything like that and I’ll put all eight inches of this steel into your ear. Get it?”
“I understood what you said. I don’t think you understood me. I’m going to bite whatever you stick into my mouth. You can put that razor into my brain, I guess, but you should know that a sudden serious brain injury causes the victim to simultaneously urinate, defecate ... and bite down.”
He looked up at Bogs smiling that little smile of his, old Ernie said, as if the three of them had been discussing stocks and bonds with him instead of throwing it to him just as hard as they could. Just as if he was wearing one of his three-piece bankers’ suits instead of kneeling on a dirty broom-closet floor with his pants around his ankles and blood trickling down the insides of his thighs.

この超人的な精神力!!


● アンディに頼まれて女優(リタ・ヘイワース)のポスターを調達してやったレッドに、アンディからの贈り物が掃除担当の囚人経由でそっと届けられる。それは小さな箱だった。その箱を開けてみると、小綺麗に綿が詰められていた。 そして中に包まれていたのはとてもキレイに磨き上げられた二つの小さな水晶細工だった。
「オレはしばらくの間、それをじっと見つめていた。何分もの間、それに触れることさえもできなかった。それはとても小さくて可愛かった。」
グラウンドで拾った石ころから水晶を探し、そしてどれだけの気の遠くなる時間や手間を費やして、アンディはこの可愛いモノを磨き上げたのだろう。こんなヤサグレた所で心を洗われるような物に、随分と長いあいだ触れ合うことのなかったレッドは、この贈り物を見てほとんど泣きそうになった。

I looked for a long time. For a few minutes it was like I didn’t even dare touch them, they were so pretty. There’s a crying shortage of pretty things in the slam, and the real pity of it is that a lot of men don’t even seem to miss them.

レッドのこの小さな贈り物を抱えて涙ぐむイメージが思い浮かびます。


● 真夏の炎天下のある日、アンディはレッドたちと一緒に刑務所の屋上のタール塗り作業に。 作業監督の看守ハドリーは、女房の親戚の遺産が転がり込んだはいいが税金でゴッソリ取られてしまうと同僚にグチをたらたらとこぼしていた。 彼は物事をいつも捻くれて悪い方にしか捉えられないタイプの男だった。彼は狂犬のように凶暴・横暴で囚人たちからも看守仲間からもとても恐れられていた。 みんな目も合わせられなかった。
そんな中、ハドリーのグチをしばらく聞いていたアンディは作業の手を止めてハドリーに近づき穏やかな口調で突然話しかけた。

『ハドリーさん、あなたは奥さんを信用できますか?』
「ハドリーはジロリとアンディを睨み返した。 悪い流れだ。3秒後にはアンディは全身麻痺寸前までに叩きのめされるかもしれない。」

Then he said, very softly, to Hadley: “Do you trust your wife?” Hadley just stared at him. He was starting to get red in the face, and I knew that was a bad sign. In about three seconds he was going to pull his billy and give Andy the butt end of it right in the solar plexus, where that big bundle of nerves is.

「オレはホントは駆けつけてアンディに言ってやりたかった。
『看守の言うことに聞き耳を立てて口を挟んじゃならねえ。オレたちは石コロのように言われた時にだけ応えてりゃいいんだ。 殺されるぞ。』
しかしレッドはハドリーが恐ろしくて何も言えず、黙ってタールを塗り続けることしかできなかった。
しかし、 アンディは話を止めずに更にハドリーに話しかける。
『いや正確に言うと、奥さんを信用しているかどうかは大した話じゃない。要は奥さんがあなたを裏切らないと信用できるかどうかなんです』
顔を真っ赤にして激怒したハドリーや他の看守達も立ち上がってアンディに向かっていった。

“If you’ve got your thumb on her, Mr. Hadley,” he said in that same calm, composed voice, “there’s not a reason why you shouldn’t have every cent of that money. Final score, Mr. Byron Hadley thirty-five thousand, Uncle Sam zip.”

「アンディは穏やかに話し続けた。
『ハドリーさん、もし奥さんに指示できるのならば、1セントも国に取られない方法があります。税務上ノーリスクです。ミスター ハドリー 3万5千ドル、対 税務署ゼロ、という事です』
これを聞いた瞬間、今にもアンディを叩きのめそうとしていた他の看守のことをハドリーが留めた。『そりゃどういうことだ?』」

“You’ll need a tax lawyer or a banker to set up the gift for you and that will cost you something,” Andy said. “Or ... if you were interested, I’d be glad to set it up for you nearly free of charge. The price would be three beers apiece for my co-workers—”
“Co-workers,” Mert said, and let out a rusty guffaw. He slapped his knee. A real knee-slapper was old Mert, and I hope he died of intestinal cancer in a part of the world where morphine is as of yet undiscovered. “Co-workers, ain’t that cute? Co-workers? You ain’t got any—”

『簡単な話ですよ。 このスキームは税理士か銀行マンに尋ねて、生前贈与と言えばすぐに分かる話です。まあ、少しフィーがかかりますが… 』
アンディは続けた。
『あるいは…あるいはもし差し支えなければ私の方でも生前贈与の届出書を作成することももちろん可能です。 そうですね、フィーとしては、このタール塗り作業を一緒にしている私の『同僚達』に一人3本のビールでも頂ければと…フィーとすればリーズナブルだと思います』
他の看守が笑った。『聞いたかよ! 『同僚』だってよ。
『オマエはすっこんでろ!』ハドリーは口を挟んだその看守に叫んだ!

結局、ハドリーはこの申告をアンディに頼み、その報酬として、後日、タール塗り作業の休憩中にレッドたち囚人仲間にビールが振舞われた。 冷えてはいないものの、夏の暑い昼下がりにビールを飲めるなど、囚人達にとっては至福のひと時だった。 レッド達が美味そうにビールを飲む姿を見てアンディも満足そうだった。彼自身は一切アルコールは飲まなかったが。」

このシーンも大好き。 この日からアンディは彼の専門知識を駆使して刑務所内での会計事務所・税務事務所のような役割を務めて、刑務所全職員に対しても必要不可欠なアドバイザー的な存在にとなっていきます。
会計指南で横暴な看守と渡り合う。 すごーくミーハー(死語!)なんですが、このくだりを読んで、ぼくは知識を持つこと、そして会計や税務に精通することはカッコいいのかもしれないと思うようになりました。 今の会計や税務関連の仕事をしている時に、割とこのエピソードを思い出します。😅


● グラウンドの隅にいるアンディとレッド。
「いつかここを出られたなら」とアンディ。
はかない夢物語としてレッドは聞いている。
「君に僕の仕事を手伝って欲しい」
「アンディ、オレはダメだ。 確かにここの暮らしじゃオレは一目置かれる調達屋だ。 しかし外じゃなんの値打ちもない。ダメな奴なんだよ。」
「レッド、君は過小評価している。君は素晴らしい男だ。高校の学位の有無なんて関係ない。そんな紙切れ一枚で人の価値は測れない。」

“I couldn’t get along on the outside. I’m what they call an institutional man now. In here I’m the man who can get it for you, yeah. But out there, anyone can get it for you. Out there, if you want posters or rock-hammers or one particular record or a boat-in-a-bottle model kit, you can use the fucking Yellow Pages. In here, I’m the fucking Yellow Pages. I wouldn’t know how to begin. Or where.”
“You underestimate yourself,” he said. “You’re a self-educated man, a self-made man. A rather remarkable man, I think.”
“Hell, I don’t even have a high school diploma.”
“I know that,” he said. “But it isn’t just a piece of paper that makes a man. And it isn’t just prison that breaks one, either.”


● その後、アンディは驚くべき忍耐力と緻密な計画により刑務所を脱獄。しかし彼がうまく逃げおおせたのか、それとも失敗し再投獄されたのかについては囚人のレッドには知るすべもなかった。 そんなある日、レッドの元に差出人不明の絵ハガキが届く。

「それはメキシコとの国境近くのアメリカの片田舎の町から送られていた。 メッセージはまったく書かれていない。 しかしオレにはすぐに分かった。 それは人はいつかは死ぬのだと同じぐらい確かなことだ。オレには分かっていた。
いつもここを出たらメキシコのある町で暮らしたいとアンディは言っていた。 アンディはやり遂げたんだ!!」

But I’ll tell you this. Very late in the summer of 1975, on September 15th, to be exact, I got a postcard which had been mailed from the tiny town of McNary, Texas. That town is on the American side of the border, directly across from El Porvenir. The message side of the card was totally blank. But I know. I know it in my heart as surely as I know that we’re all going to die someday.

「これでオレの長い話も終わりだ。 読んでくれてありがとう。 これでペンを置くとするよ。 それからアンディ、オマエがよく話していたあのメキシコの町で暮らせているのなら、この塀の中のオレのためにも夕暮れを、そしてその後に現れる満点の星空を見てくれよな。そして砂浜で砂を触って海辺を歩いて自由を十分に味わってくれ。 このオレのためにもな…」

That’s the story and I’m glad I told it, even if it is a bit inconclusive and even though some of the memories the pencil prodded up (like that branch poking up the river-mud) made me feel a little sad and even older than I am. Thank you for listening. And Andy, if you’re really down there, as I believe you are, look at the stars for me just after sunset, and touch the sand, and wade in the water, and feel free.

ここまで書いてレッドの日記はいったん閉じられます。 無二の親友アンディがいない寂しさはあるが、塀の中でその幸せを心から願うレッドに胸が詰まります。
「さようなら、ドラえもんのび太くんの心境。


● それから随分と月日が流れた。そして驚くことに、レッドはすっかり老人となってから保釈された。 だが刑務所暮らしがあまりにも長かったために社会生活に溶け込めず、地方のスーパーマーケットの使えないヘルパーとして悶々と日々を過ごすレッド。
そんな生きがいのない暮らしの中、レッドはアンディの話をふと思い出す。 刑務所を出たら一緒にビジネスをやろうと言っていた。 その時は本当に刑務所から出られるとも思っていなかった。 それに最後にアンディと言葉を交わしてからずいぶん時も経っている。迷った末にレッドは、半信半疑ながら毎週末にバスに乗り、アンディが言っていた郊外の町に置いた二人の秘密の目印探しの小旅行をすることにした。 生きがい作りの趣味のようなものだった。 目印とは鉱物に詳しいアンディらしい物、ガラス素材の大ぶりの石だ。

そしてレッドはついにアンディの言っていたメイン州の片田舎の原っぱに黒っぽい珍しい素材の石を見つける。

「まさか! オレは確かにその『石』を目にした。間違いない。スベスベした黒いガラス素材の石だ。こんな珍しいものがメイン州の原っぱにそうは転がってなどいない。オレはしばらくの間、動けなかった。ずっとそれを見続けた。 泣きそうだった。」

Three-quarters of the way to the end, I saw the rock. No mistake. Black glass and as smooth as silk. A rock with no earthly business in a Maine hayfield. For a long time I just looked at it, feeling that I might cry, for whatever reason.

レッドはそのガラス石の下に何かがあるのに気づく。
「その下にあったのは封筒だった。それは丁寧にビニール袋に包まれて泥で汚れないようにしてあった。 オレの名前がそこに書かれていた。 間違いなくアンディの字だった。

『 親愛なるレッド

今これを読んでいるということは、どうにかして君はあそこから出られたということだね。 ここまで来られたのだから、もう少し足を伸ばしてくれないか。
二人でよく話した例のあの町の名前を覚えているだろう。 僕が何度も言ったように僕のビジネスには優秀な「調達屋」が必要なんだ。 君に来て欲しい。
ともかく、まずは僕のためにも再会を祝して、少しばかりのこの金でビールでも飲んでくれ。そしてよく考えてほしい。
君がここに来たらすぐに見つけられるようにしておくから。

それから、レッド、忘れないでくれ。希望というものはいいもんだ。 たぶんこの世の中で一番のものだろう。 そして、希望は決して滅びない。 君がこの手紙を見つけてくれることを心の底から願っている。 そして元気な君に会えることも。

君の心の友
ピーター・スティーブンス
(レッドの知るアンディの偽名)』

オレはこの原っぱでこの手紙を読めなかった。怖かった。誰かにこの瞬間を取り上げられ、消えてしまいそうで怖かったんだ。」


I had to look at what was underneath for a long time. My eyes saw it, but it took awhile for my mind to catch up. It was an envelope, carefully wrapped in a plastic bag to keep away the damp. My name was written across the front in Andy’s clear script.
I took the envelope and left the rock where Andy had left it, and Andy’s friend before him.

Dear Red,
If you’re reading this, then you’re out. One way or another, you’re out. And if you’ve followed along this far, you might be willing to come a little further. I think you remember the name of the town, don’t you? I could use a good man to help me get my project on wheels.
Meantime, have a drink on me—and do think it over. I will be keeping an eye out for you. Remember that hope is a good thing, Red, maybe the best of things, and no good thing ever dies. I will be hoping that this letter finds you, and finds you well.

Your friend,
Peter Stevens

この短編の締めくくりは、レッドがアンディとの約束の地イワタネホに向かうところで幕を閉じます。向かう道すがら、レッドはアンディの手紙に書かれていた言葉「Hope」を心の中で何度も繰り返します。
ホントこのシーンは最高!! この感動のラストはどうかあなたご自身の目で確かめてください。


アンディのように 怒らず 春風のように静かで 穏やかだが 人の哀しみを知り 強い心を持つ人
そういうものに わたしはなりたい。

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The Code Book (Simon Singh) - 「暗号解読」- 199冊目

ジャンル: サイエンス・ロジック
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★★☆

うーん、安定の面白さ! サイモン・シンの科学面白本第2弾は「The Code Book」です。
サイモン・シンの著作が比類なく素晴らしい点は、どの著作も専門知識のないシロートさんに対しても知的好奇心を120%満たして満足させてくれるところ。 読むと「賢くなった」と勘違いしてしまいそう。 それも全て著者の筆力によるものと思います。 読み終わった後は、ますます「知の大海原」に漕ぎだしたくなります。
(1999年発刊)


メモポイント
第二次世界大戦中に活躍したナチスドイツ軍の有名な暗号機エニグマを巡って、どこまでが解読されどこまでが未解読なのかのくだり、腹を探り合う国家間の権謀術数が満ちていて、面白くてページをめくる手が止まりません。

Enigma was considered invulnerable, until the Poles revealed its weaknesses.
(略)

In fact, Britain had captured thousands of Enigma machines, and distributed them among its former colonies, who believed that the cipher was as secure as it had seemed to the Germans. The British did nothing to disabuse them of this belief, and routinely deciphered their secret communications in the years that followed.
(略)
The German military were equally unenthusiastic, because they were oblivious to the damage caused by their insecure ciphers during the Great War. For example, they had been led to believe that the Zimmermann telegram had been stolen by American spies in Mexico, and so they blamed that failure on Mexican security. They still did not realize that the telegram had in fact been intercepted and deciphered by the British, and that the Zimmermann debacle was actually a failure of German cryptography.

最高峰マシンだったこのエニグマの解読に成功したのが当時、イギリス軍暗号解読班にいた天才アラン・チューリング
「イミテーションゲーム」って映画にもなりましたね。カンバーバッチ主演でした。


チューリング・テストでも有名なこの天才ヒーローの晩年は、同性愛の罪という時代錯誤な法律で警察に逮捕されホルモン療法を強制されたあげく、鬱となり自殺するという悲劇的な最期を遂げます。

Alan Turing was another cryptanalyst who did not live long enough to receive any public recognition. Instead of being acclaimed a hero, he was persecuted for his homosexuality. In 1952, while reporting a burglary to the police, he naively revealed that he was having a homosexual relationship. The police felt they had no option but to arrest and charge him with “Gross Indecency contrary to Section 11 of the Criminal Law Amendment Act 1885.” The newspapers reported the subsequent trial and conviction, and Turing was publicly humiliated. Turing’s secret had been exposed, and his sexuality was now public knowledge. The British Government withdrew his security clearance. He was forbidden to work on research projects relating to the development of the computer. He was forced to consult a psychiatrist and had to undergo hormone treatment, which made him impotent and obese. Over the next two years he became severely depressed, and on June 7, 1954, he went to his bedroom, carrying with him a jar of cyanide solution and an apple. Twenty years earlier he had chanted the rhyme of the Wicked Witch: “Dip the apple in the brew, Let the sleeping death seep through.” Now he was ready to obey her incantation. He dipped the apple in the cyanide and took several bites. At the age of just forty-two, one of the true geniuses of cryptanalysis committed suicide.


● 現在、一般的に使用されているRSA暗号公開鍵暗号についても、本作である程度、理解を深めることができました。 (現在も広く利用されている電子署名システムはこの原理の応用だそうです。)

if N is large enough, it is virtually impossible to deduce p and q from N, and this is perhaps the most beautiful and elegant aspect of the RSA asymmetric cipher.

ここで公開鍵暗号方式の話を少しばかり。

これは簡単に言うと暗号を掛ける時の鍵と解く時の鍵として異なるものを使用する方法です。
で、掛ける時の鍵は公開する、つまり仮に盗まれても大丈夫な鍵を相手に知らせて、それを解く時には自分しか知らない秘密鍵を使うというものです。 難しいのは、この二つの鍵が全く無関係であれば、そもそも成り立たないという点です。つまり、公開鍵で暗号を掛けるのは簡単だけど、その同じ鍵で暗号を解くのはとても難しいが別の鍵を使えば簡単に解けるという仕組みを作らなければなりません。

そこで数学で習った素因数分解の登場です。 例えば、今、323という数字があったとします。 たった3桁ですが、これを素数に分解しようとすると、まず小さい素数である2から順に3, 5, 7,11と総当たり戦の力技で割り算を試してみる他はありません。 この桁数を激しく増やした場合にはその割り算の計算はとても困難なものとなるのは明らかですよね。 で、上の答えは17X19なのですが、こちらから積である323を出すのはとても簡単です。 桁数がもっと増えたとしても、紙の上での筆算でも計算できるレベルです。

つまり、二つの鍵の関係性で、ある一方の方向への計算はとても難しいのにその逆はとても簡単である、という性質を利用して作られたのが公開鍵暗号です。この場合、公開鍵は積の結果である323であり、暗号鍵は17と19に当たります。 323を使って暗号化はできますが、これを解くには素数の要素である17と19を知らなければ解けないという仕組みです。 (これはホントに概念だけの例え話で、実際の更なる暗号化のところはもっと難しいんで割愛します😅)


シャーロック・ホームズの「Dancing Men (踊る人形)」でも有名である、古典的な暗号方法も紹介。 その解法とは使用頻度をベースにした確率による計算を行って、ジグソーパズルのピースを一つずつ埋めていく作業だった。

One way to solve an encrypted message, if we know its language, is to find a different plaintext of the same language long enough to fill one sheet or so, and then we count the occurrences of each letter. We call the most frequently occurring letter the “first,” the next most occurring letter the “second,” the following most occurring letter the “third,” and so on, until we account for all the different letters in the plaintext sample.


いやー、面白かった。
ちなみに、邦訳は「Fermat’s Last Theorem 」(197冊目)と同じく青木薫さんです。
こちらもとても分かりやすくて素晴らしい!

The Code Book: The Science of Secrecy from Ancient Egypt to Quantum Cryptography

The Code Book: The Science of Secrecy from Ancient Egypt to Quantum Cryptography

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