hearthのお気楽洋書ブログ

洋書読みの洋書知らず。永遠の初心者。 まったりとkindleで多読記録を更新中 (ツイッターは、hearth@洋書&映画)

Flowers for Algernon (Daniel Keyes) - 「アルジャーノンに花束を」- 212冊目

ジャンル: 小説 (SF)
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★★★★


小説を読んでいて、最後の一頁(もしくは最後の一行)に思いっきり心を揺さぶられた経験はありませんか? そんな類まれなる本に出会えた時、しばらくの間シビれてしまって茫然としてしまうことがあります。
 
それは必ずしも読者の予想の裏をかいた「どんでん返し」ネタというわけではありません。 この最後の一頁に出会うために長いストーリーを追いかけてきたんだという満足感と、もうこれでこの話は終わりなんだという寂しさに似たような感慨でしょうか。


例えば、Garcia Marquezの「One Hundred Years of Solitude」 (百年の孤独、107冊目) の最後のページ。

この一説を読んだとき、映画「レイダース」のラスト近く、亡霊たちが巻き起こした雷鳴を伴う大混乱の後、聖櫃の蓋が閉じられ一気に静寂が戻るシーンを思い出しました。

Before reaching the final line, however, he had already understood that he would never leave that room, for it was foreseen that the city of mirrors (or mirages) would be wiped out by the wind and exiled from the memory of men at the precise moment when Aureliano Babilonia would finish deciphering the parchments, and that everything written on them was unrepeatable since time immemorial and forever more, because races condemned to one hundred years of solitude did not have a second opportunity on earth.


それから短編では、Jack Finneyの「The Love Letter」(愛の手紙、12冊目)とか。

(ちなみに、これは絶対に原文で読むのがオススメ! 翻訳では、過去形・未来形の違いが表現しきれないため、このラストの魅力が半減します。)

Only a week ago, on my fourth day of searching, I finally found it. It was late in the evening and the sun was almost gone, when I found the old headstone among all the others stretching off in rows under the quiet trees.

Then I read the inscription etched in the weathered old stone: HELEN ELIZABETH WORLEY—1861–1934.

Under this were the words, I NEVER FORGOT.

And neither will I.


そして、前置きが長くなりましたが、本日のご紹介本、「Flowers for Algernon」。

前回の「All She Was Worth」(火車、211冊目)に続いての、徹夜本です。間違いなし!!



粗筋を少し。(ここからネタバレがあるので注意!)

心優しく誰からも愛される青年で知的障害者のチャーリー。 昼はパン屋で働き、夜は障害者の学習クラスに通っていた彼は、ある日、学習クラスの担任であるアリスから開発されたばかりの脳手術を受けることを勧められた。 それは、動物実験対象であるハツカネズミの「アルジャーノン」がこの脳手術により驚異的な知能を獲得したとの臨床結果によるものだった。

そして手術は成功、チャーリーはIQ185という驚異的な知能の持ち主となる。 高知能を持った彼は知識を得る喜びを得たものの、過去に自分が周りの人々から虐げられていたり親に捨てられていた事実を理解するようになる。 また、彼はかつての担任のアリスを恋人として愛しはじめるが、ついには彼女をはるかに超える高知能を得たがゆえに皮肉にも二人は相いれなくなってしまう。 やがて回りの人間を見下し肥大した自尊心を抱えるようになったチャーリーは孤独にさいなまされるようになる。 そんなある日、脳手術を先に受け彼が世話をしていた高IQハツカネズミのアルジャーノンに異変が現れる。 手術で獲得した知能が退行し、しかも以前よりも下降してしまうというものだった。 そしてその手術の欠陥は彼にもいずれ迫ってくる事実であった。

「どんどん 分からなくなっていく」

手のひらからこぼれる落ちる砂のように少しずつチャーリーの知能も退行していく。。。

最後の一文が涙をさそいます。
(1966年発刊)


メモ:
● チャーリーの日記に綴られた言葉。 最初は誤字脱字だらけの文章だったが、手術の効果によりどんどん高度な内容にシフトしていく。 そこには学びの喜びがあった。 その過程は「フランケンシュタイン」(93冊目)のくだりを思い出させる。 このフランケンシュタインが作り上げた怪物も、書物によりミルトン、プルタークゲーテを知り、後天的に高度な知能を獲得していく。

It’s exciting to hear them talking about poetry and science and philosophy—about Shakespeare and Milton; Newton and Einstein and Freud; about Plato and Hegel and Kant, and all the other names that echo like great church bells in my mind.



● 「僕は以前、ウスノロで無知だったからみんなの笑いものにされていた。 ところが今では、僕が知識と知性を持っているからといってみんなから憎まれている。 どうして! 僕はどうすりゃいいんだ!」

Before, they had laughed at me, despising me for my ignorance and dullness; now, they hated me for my knowledge and understanding. Why? What in God's name did they want of me?



● チャーリーより先に知能が低下して狂暴になった後、死んでしまったアルジャーノン。 チャーリーは自らの行く末をこのネズミに重ね合わせる。

「僕はアルジャーノンの小さな亡骸をチーズの箱に入れ、そして裏庭に埋めた。 僕は泣いた。」

I put Algernon's body in a cheese box and buried him in the backyard. I cried.


● もうすぐ知能が低下する事を知ったチャーリー。 全てが分からなくなってしまう前に、今までは真相を知ることを恐れて近づけなかった生みの母親に意を決して会いに行った。チャーリーは幼い頃ずっと、母親に褒められたかった記憶を思い出した。

「お母さん、ほら、僕だよ。チャーリーだよ。捨てられたあなたの息子です。でも恨んでいるわけじゃないんだ。 ただ、僕がこんなに頭がよくなったことを母さんに知って欲しかったんだ。 ほら、なんでもいい、試しに何か難しいことを僕に尋ねてみて。 僕は20か国語も話せる、数学の天才と言われている、後世に残るような素晴らしいピアノコンチェルトも作曲できるんだ。本当だよ」

Here look at me. I'm Charlie, the son you wrote off the books? Not that I blame you for it, but here I am, all fixed up better than ever. Test me. Ask me questions. I speak twenty languages, living and dead; I'm a mathematical whiz, and I'm writing a piano concerto that will make them remember me long after I'm gone.



● 「お願いだからどうか僕を可哀そうだなんて思わないで。。 少しの間だけでも頭がよくなるチャンスを得れらたこと、ほんとに嬉しかったんだ。 たとえ僅かだったとしても僕が今までまったく知らなかったこの世界のことを学ぶことができたんだから。 ほんとに嬉しかった」

...Don't feel sorry for me. I'm glad I had a second chance in life like you said to be smart because I learned a lot of things that I never knew were in this world, and I'm grateful I saw it even for a little bit.



● 最後にチャーリーが記すたどたどしい手紙が胸を刺す。 それは彼にとって、一時的に知能が高くなった時に恋人として愛した人であり、今では「そんけいするキニアンせんせい」に戻ってしまったアリスに宛てたものだった。

「ついしん  もし せんせいが こんど きてくれることがあったら うらにわのアルジャーノンのおはかに おはなをあげてください」

“P.S. please if you get a chanse put some flowrs on Algernons grave in the bak yard.”


愛する人さえも分からなくなってしまう」
この美しいラストはずいぶんと僕の中でショッキングなもので、この切なさに、智恵子抄の「山麗の二人」を重ね合わせてしまいました…

Flowers for Algernon (English Edition)

Flowers for Algernon (English Edition)

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